第6話 大将の闇

※DVDに映っていない部分です。

商店街を離れ永山達は

大きな公園に来ていた。

そこでは週に一度の炊き出しが

行われていた。

「大将!

 お疲れ様です!」

よる

 毎週すまんな。」

「とんでもない!

 喜んでさせて貰っています!」

近付いてきたのはこの炊き出しを取り仕切る

夜川よるかわという男だ。

年齢は30代半ば頃の痩せ型。

公園に住んでいた所を永山に

拾われた一人だ。

「子供が増えたな•••」

「この不況で子連れや子供だけで

 炊き出しに並ぶ事が多くなりました•••

 政府は税金取るだけ取って

 こんな人間は見殺しですよ•••」

「平和が続けば色んなモノが腐るな•••」

「この炊き出しで一人でも多く

 話が聞ければ良いんですが•••」

「話をしたくない人間もいるだろうから

 いつも通り無理強いはしないようにな。」

「はい心得ています。」

永山は炊き出しを通じて職を探している者や

生活に困窮している者を傘下に入れていた。

今、炊き出しで調理している者達も

元はこの炊き出しに並んでいた

飲食店経験者をスカウトしたのだ。

「今日の食い物に困っている者がいる

 一方で食べられる食材を

 廃棄しているんだからな•••

 世の中狂っとるな•••」

この炊き出しの食材は飲食店から出る

まだ食べられるのに廃棄する食材だ。

「昔はエコで今はSDGsか•••

 おかみがやる事はずっと変わらず

 的外れな事ばかりだ。

 まぁ生活に苦しんだ事の無い人間には

 一生分からんだろうな。」

永山はそう呟いた。


「そう言えば大将。

 新しいビル用意していただいて

 ありがとうございます。」

「ビルは元々あったからな。

 少し改造しただけさ。」

永山は廃ビルを買い取り

公園や河川敷に住んでいた者達を

そこに住まわせていた。

最初のビルは1階に大浴場を造り

トイレを改装しただけだが

マンションやアパート等が

性に合わない者達は

大喜びで各部屋にテントや

段ボールハウスを

建てて暮らしている。

「俺達みたいに公園や河川敷で

 暮らしていた者達には天国ですよ。

 行政は俺達を排除して街を

 綺麗にしたつもりでしょうが

 そもそもここは大将が来るまで

 ゴーストタウンでしたからね。

 何を今更って感じですよ。」


永山が来る前まで

この【空鈴くうりん】という街は

廃ビルや空き地ばかりの場所で

この不景気で職や貯金を無くし

住む場所を失った者達が流れ着く

見捨てられた土地であった。

永山はここに

本拠地を構える事を決めた。

明子の実家の工場がある

唐至とうしちょう】は隣町で

以前は大小様々な工場があり

活気のある場所だったが

こちらも不景気で廃工場だらけに

なっていた。

正確には工場街である【唐至町】の

衰退が【空鈴】をはじめとした

周囲の街の衰退の原因だった。


「最初のビルがあっという間に

 埋まってしまいましたからね。

 この分だと新しいビルもすぐに

 埋まってしまいそうですよ。」

「使われなくなった雑居ビルは

 他にも所有しているから

 まだまだ増えても構わんさ。

 そこに住む人間は引っ越して

 くるから改装いらずだ。

 電気•水道は漏れがないかチェックは

 しているけどな。」

「我々は雨風 しのげるだけで

 おんですよ。」

「ウチで働いてくれるなら

 マンションでもアパートでも

 住居は用意するから

 希望を聞いておいてくれ。」

「はい、ありがとうございます。

 •••それと大将お耳に入れて

 おきたい情報が•••」

夜川は先程の笑顔から

鋭い目付きに変わる。

「分かった。

 場所を変えよう。」

夜川は近くにいたスタッフに後を

任せて永山達と離れた場所へ移動する。


永山は公園や河川敷で暮らしていた者達に

街の清掃、困っている人間への声掛け

そして今日の炊き出し等様々な仕事を

頼んでいたが裏の目的は

【情報収集】であった。

監視カメラだけでは分からない

街中の情報を集める部門

通称【からす】と呼ばれる集団

夜川はそのリーダーである。


「最近、この街に半グレの集団が

 入ってきたみたいなんですが

 どうも他所よそでやらかして

 逃げてきたみたいで•••」

「最近そういった犯罪グループが

 増えているからな。

 ソイツらの隠れ家は分かるかい?」

「元○○病院の廃墟を根城に

 しているみたいです。

 メンバーは10人程です。

 流石に中までは危険だから

 入らないようにメンバーには

 伝えてます。」

「正しい判断だよ。

 深入りは危険だ。

 口封じされてはたまらんからな。

 後はこっちで調べよう。

 角。

 会長のとこに連絡してくれ。

 今夜 手練てだれを、そうだな•••

 5人位貸して欲しいと伝えてくれ。

 それとの若い衆を

 10人程頼んでくれ。」

「了承しました。」

角田は前日【ぱわぁ亭】に来た

神原かんばら周三郎しゅうざぶろう会長率いる

極道組織【天網会てんもうかい】に連絡を入れる。

こういう時にまず連絡をするのは

若頭補佐わかがしらほさ】の一人で若い衆と幹部の

パイプ役 桐原きりはらである。

電話はすぐに繋がる。

「いつもお世話になっております。

 角田です、桐原さん

 今お電話よろしいでしょうか?」

「大丈夫ですよ。

 どうされました?」

角田は事情を説明する。

「分かりました。

 すぐに頭数あたまかずを揃えます。

 おやっさんとカシラには自分から

 話を通しておきますよ。」

「いつもありがとうございます。

 よろしくお願いします。」

話が終わると

「大将、今夜大丈夫だそうです。

 •••何の話されてました?」

「角。

 不景気は深刻だぞ•••

 前に【派遣切り】があったが

 今は【社員切り】が始まってる

 そうだ•••

 人手不足とか言いながら

 かたや切り捨てか•••

 どおりで毎週の炊き出しの

 参加人数が多い訳だ•••」

永山はこの現実に顔をしかめた。


その日の夜、廃病院の裏路地に

人が集まっていた。

きりさん、いつも現場まで

 来て貰ってありがとうございます。」

「とんでもない。

 永山の旦那にはいつもお世話に

 なっていますのでおやっさんも

 カシラもよろしくと言ってました。」

「この仕事が終わったら

 また挨拶に行きますよ。」

「ありがとうございます。

 それでは我々の仕事を

 させていただきます。

 失礼します。

 •••おい、行くぞ。」

そして桐原は5人を連れて中に入っていく。

桐原自身も武闘派として裏では

名が知られる猛者もさだ。


仕事はすぐに終わった。

桐原達は半グレメンバー13人を

そして若い衆が敷地内に車を乗りつけ

桐原達と転がる半グレの全員を

回収しに連れていく。

永山達も車に乗り後を追う。

着いたのは一見普通のマンション。

だがその8階建ての建物は病院に行けない

訳ありの人間の為の闇医者の病院だ。

そしてもしている。

地下駐車場から広い業者用の

エレベーターに乗り目的の部屋に着く。

中では1人の初老の男性が待っていた。

かげ先生、今日もお世話になります。」

「やぁ鉄君てつくん待っていたよ。」

この闇病院の院長 影山かげやま

挨拶を交わす。

はコイツらかい?」

「はい、他所で暴れてたゴミ共です。

 傷害•強盗•婦女暴行•••

 まぁ救いようの無いヤツらです。

 いつものようにお願いします。」

「任せてくれ。

 まずは検査をしなくてはいけないから

 薬で動けなくしておくよ。」

そう言うと周りのスタッフに指示を出す。


この闇病院では訳ありの人間を

無料で診察•治療を行うかたわ

臓器の密売を行っていた。

しかしそれは今回の半グレのように

堅気に迷惑をかけるやからだけである。

本来街を守る為に殺していた者達を

永山は「勿体ない」と思い

闇病院と提携して臓器の摘出や

骨髄移植、珍しい血液の確保等

様々な方法で役立てていた。


影山院長に礼を言い

廊下に出ると既に角田が

桐原達に謝礼を渡し終わっていた。

「永山の旦那いつも我々にまで

 ありがとうございます。」

「現場で働いてくれたのは

 皆さんですからね。

 【天網会】とは別に個人に

 報酬を渡すのは当然でしょう。」

「いやぁ本当にありがたいです。

 毎回、永山の旦那の依頼は

 ぱらいでぜに

 いただけるので今回も若い衆は

 10人の席を取り合いですよ。 

 極道がジャンケン大会で

 盛り上がってるのは他所よそには

 見せられません•••」

「自分はそのジャンケン大会

 見たかったですね(笑)

 それにこれからも仕事は

 ジャンジャンお願いすると

 思いますから

 これからもよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。

 今日みたいに突発の仕事も

 大歓迎ですので、いつでも

 連絡お待ちしていますよ。」

「桐さんお忙しいのにいつも現場に

 出て来てくれてスイマセン。」

「表向きは現場責任者という

 名目で来てますが•••

 本音は若い衆と同じ

 目当てでして•••」

そう言ってさっき受け取った

分厚い封筒を見せる。

当然だが若い衆よりもかなり多い。

「ウチは上納金はそんなに

 厳しくないのでそれは

 良いんですが。

 娘が習い事を色々やりたいと•••」

「厳しいのはそっちの

 上納金でしたか•••」

どの世界も不景気のようである。


この堅気に迷惑をかける輩の

臓器密売を永山は

【リサイクル】

と呼んでいた。

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