第5話 弄ばれる明子

「ただ今日は俺もやる事があってさ

 買い物は恵達と行ってきてよ。」

「はい。

 分かりました。

 鉄さんお忙しいですよね。」

「色々と顔出す所があってさ。

 恵あとよろしくな。」

「はい、分かりました。」

りゅう

 お前はいい子だなぁ♡

 あんまり父ちゃんに

 似ないでくれよ♡」

「大将ヒデーっすよ!」

「体の頑丈さは似て欲しいがな•••

 飛!

 今日は頼むぞ!」

「分かりやした!」

そこにアタッシュケースを持った

角田さんが入ってくる。

「大将お待たせしました。

 行きましょう。」

「おう!

 とう

 今日は飛のかわり頼むぞ!」

「はい頑張ります!

 角の兄貴ケースお持ちします。」

「ああ頼むよ。」

角田さんがアタッシュケースを

塔本さんに渡す。

飛島さん程ではないが塔本さんも

周りから頭一つ抜けて大きい。

「そう言えば明子さん。

 昨日【ぱわぁ亭】のオヤジさんから

 バイト代を預かってますよ。」

「バイト代なんてそんな!」

「貰っときなよオヤジさんも

 女将さんも喜んでたよ。

 二人の感謝の気持ちさ。」

「•••それならありがたく

 いただきます。」

姉ちゃんが頭を下げて封筒を受け取る。

「それじゃあね。」

と言い永山さん達は部屋を出て行った。


「それじゃあ私達も行きましょうか。

 明子ちゃんの部屋は寝具と

 お風呂のタオルと使い捨ての歯ブラシ

 位しかなかったでしょう?

 必要な物を買いに行きましょう。」

「はい!

 ありがとうございます!」

「家族と離れての生活は

 寂しいでしょうけど

 せめて必要な物は好きに

 買っていいって

 兄さんは言っていたから。

 遠慮しないでね。」

「家族と離れるのは覚悟の上です。

 昨日、鉄さんと話してここで

 働く覚悟を決めましたから。」

「やっぱり明子ちゃんは他の子とは

 違うわね•••」

そして姉ちゃん達は買い物に出掛けた。


※DVDに映っていない部分です。

永山達は前日の支払いをする為に

商店街の飲食店を回っていた。

「いやぁ昨日はありがとう!

 っちゃんのおかげで

 賑やかだったよ!」

「お客さんが来てくれるのは

 嬉しいねぇ!」

「店続けてて良かったよ!」

「この商店街に活気が戻ってきたよ!」

「まだまだ死ねないねぇ!」

飲食店の住人達は昨日の熱に

まだ浸っていた。

そして【ぱわぁ亭】の夫婦も

「鉄っちゃん昨日はありがとうよ!

 あんなに賑やかなのは久し振りで

 本当に嬉しかったぜ!」

「お客さん達も喜んでたよ!

 【生きてれば良い事があるなぁ】

 だってさ!

 本当にありがとうね!

 それと明子ちゃんにもまた来てねって

 伝えといてよ!」

「ええ伝えときますよ。

 それとバイト代感謝してましたよ。」

「感謝してるのはこっちさ!」

角田がアタッシュケースから現金を出す。

「どうぞ。

 お受け取りを。」

「鉄っちゃん多いよ!」

「貸し切り料も入ってますから

 また何かあった時はお世話に

 なりますよ。」

「本当に助かるわぁ。

 こんなに貰えない!って

 言うところだけど私達も

 生活があるから•••」

「気にせんで下さいや。

 皆そうですよ。

 税金も物価も上がるばかりで

 生活は苦しくなる一方ですからなぁ。」

「本当になぁ•••

 昨日の明子ちゃん

 あの子も訳ありなんだろう?

 若いのにあの仕事振り•••

 苦労してきたんだろうなぁ•••」

「ええ•••

 ただこれからはウチで

 バリバリやってもらいますよ!

 あの子には期待しかないですよ!」

「楽しみだね!

 また皆で来てよ!」

「はい!

 またよろしくお願いします!」

そう言って永山達は【ぱわぁ亭】を

後にした。


姉ちゃん達はショッピングモールに

買い物に来ていた。

「商店街で買える物は商店街で

 買うんだけど明子ちゃんみたいな

 若い子向けの物はちょっとね•••」

「お気遣いありがとうございます。」

恵さん達と家具や家電そして日用品等を

次々と買っていた。

「次は服を見に行きましょう。」

「メグミンそれよりまずは

 飯食おうぜ。

 メチャ腹減ったよ。」

「外でその呼び方やめてって

 言ってるでしょ!

 まぁ確かにそうね、明子ちゃん

 先にご飯食べに行きましょう。」

「はい!」

姉ちゃん達はフードコートに

向かって行った。


竜一君を抱っこした恵さんと

姉ちゃんを中心に皆が座る。

テーブル席はかなり広く全員が

座ってもまだ周りは空席があった。

「日曜日なのに空いてますね。」

「フードコート以外もレストラン街もあるし

 外にフードトラックも来てるみたいよ。」

そう言って恵さんは竜一君を

赤ちゃん椅子に座らせる。

竜一君はもう首が座っていて

「あうあう」と何かを喋っていた。

「本当に可愛いですね。

 首がちゃんと座ってますから

 半年は経ってますよね?」

「もうすぐ8ヶ月になるわ。

 半年で夜泣きもしなくなったから

 本当に助かったわ。」

「半年ってかなり早いですよね?」

「個人差があるみたいだけど

 ウチの子はかなり早いみたいね。

 2歳位までする子もいるらしいし

 今は朝までグッスリ寝てくれるから

 ありがたいわ。」

そうしているうちにテーブルに様々な

料理が並ぶ。

「さぁジャンジャン食べてよ!

 残しても俺が全部食べるから大丈夫!」

そう言って飛島さんは親指を立てる。

「竜一君の名前は飛島さんが

 考えたんですか?」

姉ちゃんの質問に

とびで良いよ。

 まぁアイデアは俺が出したね。

 最初は大将から【鉄】の字を

 貰おうかと思ったけど

 【鉄】より【竜】の字が

 良いかなと思ってさ

 【竜】の字と俺の【一】をあわせて

 【竜一】になったんだ。」

「何で【竜】なんですか?」

「大将の別名が【九頭竜くずりゅう】なんだよ。

 【ここのつ】の【頭】の【竜】で

 【九頭竜】

 本当に色んな顔を持ってるからね。

 話して思ったでしょ?」

「確かにそうですね。

 キリッとした顔もあれば

 優しい顔もありましたし

 皆さんと大騒ぎしてたりも

 ありましたね。」

周りからも声が挙がる。

「メッチャボケ倒す時もあるよな。」

「ネガティブな時もあるし。」

「我が儘な時もあったな。」

「九つじゃ足りないんじゃないか?」

しかしそんな中

「怒ったら洒落にならないよな•••」

の声にさっきまで盛り上がっていた

全員が黙ってしまう。

「どうしたんですか皆さん?」

姉ちゃんが聞くと隣に座っていた

イケメン男性が口を開く。

「明子さん昨日話したでしょ?

 大将は昔話の神様みたいな人だって。」

この声と喋り方は桂木さんだ。

いつの間にか撮影変わっていたみたいだ。

「はい。

 昨日聞きました。

 これからの為に聞きたいんですけど

 鉄さんはどういう時に怒るんですか?

 人に迷惑をかける以外に気を付ける

 事を教えて下さい。」

「大将はさ人の弱さを責める人間が

 とにかく嫌いなんだよ。

 イジメられてる人に

 【イジメを受ける方にも問題が有る】

 とか詐欺にあった人に

 【騙される方が悪い】

 とか聞くと凄い怒るんだよ。

 自分で思う分には良いんだよ。

 【騙された自分が悪い】とかね。

 ただ関係無い部外者が被害者に

 言う事が許せないんだって。

 それは【心への暴力だ】ってね。

 だから明子さんもそう言う事を

 言わないように気を付けてね。」

「気を付けます。

 気を付けますし、そもそも私も

 そんな事言う人嫌いです。」

「それなら良かった。

 大将の逆鱗に触れると

 からね。」

「ウチの大将は【優しい】けど

 【甘く】はないからなぁ•••」

飛島さんが遠い目をする。

「昨日話して弱者じゃくしゃを食い物に

 するような人じゃ無い事は

 よく分かりました。

 その•••もてあそばれる覚悟を

 してきたんですが何も•••」

「そういうのは大将が一番嫌いな

 事だからねぇ•••

 大将は【純愛派】だからさ

 好きな人と結ばれて欲しいって

 いつも言ってるよ。」 

「この動画撮影も明子ちゃんの

 家族や彼氏とかに何もされてない

 証拠として撮ってるんだぜ。」

「お気遣いありがとうございます。

 ただ•••彼氏はいませんし

 いた事も無いです•••」

「明子ちゃんこんなに可愛いのに

 以外だね•••

 でもそうだよね今まで家の事で

 忙しかっただろうからね。」

「はい•••

 小さい頃から両親の代わりに

 家事や弟の世話を•••

 通ってる学校も女子校で

 出会いも有りませんし•••」

本当に姉ちゃんには世話ばかり

かけていたなぁ•••

「まぁ今からだよ。

 それにウチのメグミンだって

 俺に会うまで処女だったしな。」

「そ、そうなんですか•••

 恵さんあんなに美人なのに•••」

恵さんは竜一君の世話で聞こえてない。

「まぁ大将の身内に手を出す

 命知らずなんて飛さん位ですよ。」

「一目惚れだったからな。

 だから明子ちゃんもこれから

 出会いが有るよ。

 けいなんて良い男だろ?」

「ごめんなさい明子さんの

 気持ちは嬉しいけど

 彼女がいるから•••」

「明子ちゃん元気を出して

 失恋しても次が有るよ。」

「私何も言ってません!

 勝手にフラれた事に

 しないで下さい!」

姉ちゃんは違う意味で弄ばれていた。

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