record_005 ruined city(1)

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 EZイーゼッド136サーティシックスは空高く跳躍し、着地と同時に数人の市民エージェントを無力化した。

 

 其処はr996a1区。新型ウイルスの流行爆発により、大多数の市民が一夜にして死滅した危険地帯である。


 白い高層ビルと電子パネルとブルー・ライトでできた無機質な街並みは既に多くの「異常動作」した白服の市民エージェントで埋め尽くされている。その多くは折り重なるように路上に伏し、支離滅裂な埋め声を上げているが、一部は凶暴化して人人や建築物、そして機材と手当たり次第に攻撃するのだ。

 そしてつい先程対処した市民エージェントの群れも当にそれに当たった。EZ136は長いおさげを手で払うと、深々と嘆息して頭部ヘッド胴部ボディが別れてものたうち回る市民エージェントの残骸を見下ろした。

 その身に纏うのは赤の特殊防護スーツ。常に装着しているヘッドセット型支援装置ユニット〈ネイバー〉に加え、首元から口元、そして後頭部の下までを物々しい防護装置ユニット〈ガーディアン〉が覆っていて物々しさがある。

 EZ136は手に握っていた大刀型の装備を数度振るい、背に携えていた鞘へ収めた。簡易刑執行装置ユニット〈カムイ〉。オフラインで使用可能な刑執行装備で、対象の頭部ヘッド胴部ボディを切り離すことで、一時的な無力化を可能とする。EZ136 はやおら振り向き、後方で待機していた輸送装置ユニット(通称キャリアー)の方へ向かって凛と声を鳴らした。

「ここは最早もう大丈夫よ」

『ありがとーサーティス!さっすが執行官エグゼキューショナー

 輸送装置の拡声器から鳴らされたのは96/97調査隊の隊員のうちのひとりのもの。EZ136は路上で壁に打つかって進めなくなっていた支援装着ユニット〈助けるぞう君〉を助け出すや、また自律走行させた。市民エージェント頭部ヘッドほどの大きさのある、無骨な金属とセンサーとソフトウェアの塊である。

 オフライン専用のセンサーデータ解析プログラムが搭載されており、随時周囲の画像や音や熱を感知しては「正常」な市民エージェントが在るかを判定する。難点と言えば、追跡走行機能がないことと、常に「イタイ、イタイ」、「ア、イタ。ア、マチガエタ。シヨウシャダッタ」と五月蝿いことである。徹夜で議会コングレスの開発課が制作した為仕方がないことだが、気が付けば迷子になっていたり、人形の対象を捉えたら取り敢えず「いる」と判定して報せてひやりとさせたり(その後振り分ける)とお騒がせな装着ユニットなのだ。

 (まあ、旧時代のアルゴリズムを引っ張ってきたにしては判定性能は高いけれど)

 EZ136は停車したキャリアーの扉を開け、中へ乗り込んだ。すると同時に、キャリアーはまた発車し始め、僅かにEZ136はよろめいた。

 ふと視線を上げれば、奥に多量の機材が詰め込まれ、手前に五人座席を向かい合わせて配置されているのがよく視える。各席には自由に特殊防護スーツを着用した四名の保安局員たちが座り、その中にはEZ110の姿もある。穏やかな微笑を浮かべ、EZ136へ向かって手を振っている。

 不意に、EZ110の横に座していた男型メールタイプの保安局員がかおを上げてEZ136を認め、低い声でことばを掛けた。

「お疲れ、サーティス」

 

「ありがと、トリプル」

 

 トリプル――EZ333サーティスリースリー医務官ドクターである。故障した市民エージェントを修復する権限を有する市民エージェントであり、その多くは緑髪に男型であるという特徴がある。EZ136は彼とEZ110 の間に座ると大きく伸びをした。

「しっかし、暴走している市民多いわね」

「その都度たびに対処してくれてありがとうね、サーティス」

 とEZ110。手拭いでEZ136の額の汗を拭ってくれる。心優しい友人である。EZ136はにっと笑って明るい声で応じる。

「どういたしまして、イレブン」

 保安局は900ナンバー各区へ調査隊を派遣したわけだが、元より数の少ない執行官や医務官を多く派遣できるはずもない。故に、構成メンバーは執行官と医務官はひとりずつ、監視官と分析官インヴェスティゲーターがふたりずつ、そして支援装置ユニット〈助けるぞう君〉一台という構成になったのだ。

 だが、この96/97調査隊にはひとりだけ、本来いてはならない顔がひとつある。EZ136は吊り上がった眼を据わらせて、正面で機材をいじる、ぼさぼさ頭の男型メールタイプを見た。

 

「で、トゥトゥ。あんたはなんで付いてきたのよ」

 

 呼ばれた当人は手を止めた。彼も特殊防護スーツを着ているが、彼は議会コングレス所属の開発者ディベロッパーである。それも、製造権限を有する高位の。

「いいじゃあないですか。現地で直に視たほうが、改良案が出ると言うものです。ワタシは厭だったんですよ。こんな中途半端な装置ユニットで誤魔化すなんて」

 ぶうぶうと彼、EZ022ゼロトゥトゥ唇を尖らせながら、携帯用キーボードを振り回す。そのキーボードもまた、彼の作品である。彼は開発者の中でもとくに優秀な開発者で、市民エージェントたちが日常で使用する装置ユニット道具ツールの多くは彼が現在の形にしたと言っても過言ではない。

 但し、ネーミングセンスはポンコツであるため、名付けだけは他の開発者らで募って行う。(それでもこの厨二的なのは如何なものか、というものが多いのは否めない。)故に募集時間が無かった物は実に残念な名称となり、〈助けるぞう君〉もそのひとつだ。

 EZ136は深々と嘆息すると、やや怒気を含めた声を鳴らした。

「ならせめて、もう少しr999a1/r998a1 から離れている地区担当にくっついていけばよかったじゃない」

「全部断られたんですよー」

 当たり前である。保安局セキュリティ議会コングレスは管轄が異なり、常であれば交流も希薄だ。

 それは無用な友情関係を持つことによる互いに感情的判断を下さぬようにするための一種の予防線のようなものである。議会コングレスはまだしも、G5ジーファイブを「定められた」優先順位に従って平等に安全を保たねばならぬ保安局セキュリティにとってその予防線は死活問題だ。友人の優先的な救助や、処分から逃亡する幇助をしてしまう可能性があるからだ。

 眉を顰めるEZ136に対し、EZ022 はケラケラと嗤いながら、ことばを加えた。

「でも、ほら。同期ならゴリ押しでいけると思いまして」

「あんたねえ!」

 がばりと立ち上がり、詰め寄る。あたふたとしたEZ110が「落ち着いてサーティス!」と今にも殴りかかりそうなEZ136に抱きついて留めた。すると突然に、EZ022の奥に座していた肩辺りまで届く白髪をざんばらに流した女型フィメールタイプがからからと笑い始めた。

 

「いやあ、君ら仲いいねえ!EZナンバーは数が少ないから、結束力もあるのかな?」

 

 

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