第23話 人形師と
クイユの工匠区には、大小様々な工房が立ち並んでいる。でも大体の工房が通りに面した側に、作った品を売るための店舗を併設しているので、迷路のような通りをさまよい歩くだけでも楽しい。
貴金属だけではなく、色とりどりの布製品に宝石を縫い付けたものだとか、木工品に宝石を嵌め込んだものだとかも売っている。そんな中で見つけてしまった。
"幸運を呼ぶ人形"
そう銘打って売られていたのは、全長50cmくらいのビスクドール。額と瞳には宝石が埋め込まれており、ひと目で
そしてこの人形は、この店の主力商品らしく…ショーケースの中に、ズラリと並んで座っていた。ちょ、ちょっと怖いな…。
「ああっ!!!」
「ッ!?」
突然悲鳴じみた声が上がって、私は驚きに固まってしまった。すると人形を売っていた店の中から小柄な女性がすっ飛んできて、私の前に平伏した。
「お願いします!!モデルになってください!!!」
「え、ええー…いきなり?」
そもそも、貴方はどなた?
「あっ私はドワーフ族のマルユッカと申します!人形師です!!」
「えーと…私は
「存じております!!」
曰く、『変人ハイエルフのクラウディアの所に、本物の
それとクラウディアさんって只のエルフ族じゃなくてハイエルフ族だったの?確かハイエルフ族って、エルフ族の王族だったはず。…王族なのに、ドワーフ族に弟子入りしたんだね、あの人。
とりあえず、興奮しきりのマルユッカ(呼び捨てで良いと言われた)を宥めて、彼女の店に入る。
ちなみにマルユッカは、外見だけならば私よりも年下に見える。具体的に言うと外見年齢は10歳くらい。焦げ茶色の髪に黒い瞳の、可愛らしい人だ。それでも、実年齢は100を超えているというのだから驚きだ。
そういえば、この世界の人型種族の寿命については、以下の通りとなっている。
★寿命について
この世界の人々の寿命は、推し並べて地球の人々よりも長い。
人間族と獣人族は約300歳、竜人族は約1000歳、ドワーフ族は約3000歳、エルフ族は約5000歳、人魚族は約8000歳。そして精霊族に至ってはなんと寿命そのものが無い。
しかもこの寿命も、保有魔力量で変動するのだ。保有魔力量が多いほど寿命も延びるので、過去には1000年生きた人間族の魔女とかも存在したらしい。
★
そんなものだから、御歳100と幾つかのマルユッカは、ドワーフ族としてはかなり若い部類に入るようだ。だからこんなに勢いがすごいのかな…。まあ、ドワーフ族の女性は成人済みでも見た目は少女のような感じらしいけれど。合法ロリ…いやなんでもない。なおマルユッカは成人はしているとのことだ。
「はわ〜…眼が幸せすぎて召されそう…」
「ええ…?」
現在、私はマルユッカに懇願されて、彼女お手製のロリータドレスに身を包んでおります。白基調のフリッフリでフワッフワなドレスです。そんな衣装を着てアンティーク調の椅子に座っていると、なんだか自分がお人形になった気分だ。
って、マルユッカ、鼻血出てるけど…大丈夫なのかな?この美少女。頭に"残念"が付きそうな美少女だよ。というか、恍惚とした表情で鼻血出しながら、それでも手はもの凄いスピードでデッサンしているのはある意味すごいね。鼻血拭きなよ…?
「はぁ…ありがとうございました。おかげさまでとても勉強になりました」
「それは良かった、こちらこそありがとう」
「でも、本当に報酬はそれでいいんですか?」
「うん、いま欲しかったものだから」
デッサンのモデルになった代わりに、マルユッカからは彼女が過去に手掛けた宝飾品のデザイン画を何枚かもらった。さすがプロの職人というか、デザイン画自体がすでにお洒落な雰囲気で、眺めているだけで楽しい。
また今度、と軽い調子でマルユッカに別れを告げて、彼女の工房を出る。一旦宿の部屋に戻り、王都の屋敷に《転移》して、イライザに昼食をお願いした。本日のメニューは竜肉の照り焼きと野菜の和風トマト煮込みらしい。聞いただけでお腹が鳴るね。
はい、ごちそうさまでした。とっても美味でしたよ、照り焼きも煮込みも。ついつい食べ過ぎたので、午後は予定を変更して、このまま屋敷で過ごすことにした。
すっかり綺麗に整えられた前庭を散策する。何種類もの薔薇が咲いているらしい前庭には、見事に赤色の薔薇ばかりが咲き誇っていた。…そういえば前に、庭師のフローラが「(前庭を)主様の瞳のような真紅の薔薇でいっぱいにしましょう」って言ってたね。なるほど、有言実行。
そういえば、いま着ているドレスワンピースも真紅だから、この前庭の風景とは合うかもしれない。そんな詮無いことを考えつつ、私はしばらく前庭を見て回っていた。
散策のあとは、自室で机に向かって、宝飾品のデザインの練習をした。マルユッカからもらったデザイン画をお手本にしつつ、自分なりに考えた宝飾品のデザインを描き起こしてゆく。
「……うん、なかなか良い感じじゃないかな?」
プロの描いたデザイン画と比べると見劣りするけど、素人が描いたにしては良い感じに出来たと思う。まあ、宝飾品のデザインの勉強自体が自己満足のようなものだからね。私が満足できればそれで良いのだ。
でもせっかくだから、これからもたまには宝飾品のデザインの練習をしようかな…。
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