第21話 宝飾職人と




「煌めく黄金と紅の君。その神秘的かつ繊細な美貌を、私に飾らせてはくれまいか」


 こんにちは、ヘルミーナです。本日は"宝飾の街"クイユにやって来ています。


嗚呼ああしかし、そのままで既に完結した美しさを持つ貴方に、余計な飾りなどは無粋だろうか」


 クイユには多数の工房があり、その中にはこの国では珍しいドワーフ族の職人達が構える工房も幾つかあります。


「でも、あまねく全てを照らす太陽のごとき髪を、私の手で飾りたい」


 ローナさんに紹介してもらった工房は、ドワーフ族の工房ではないですが、長年ドワーフ族の名工に弟子入りしていたという工房主が営んでいる工房らしいです。


「白磁のようなその柔肌にも、きっと輝く石達は似合うだろう……はぁ…素晴らしい…。


 …す、少しばかり触れても良いだろうか?あわよくば吸わせてほしい」


「却下で」


 はい。先ほどから何やら言い募っていたこの人が、その工房主です。

 …ねぇ本当にこの人がローナさんお勧めの宝飾職人なの?ただの変態ではなく??工房に入って、目が合った途端に目の前に跪かれたのだけど。そして今も爛々とした目で食い入るようにひとの顔を見つめてくるのですが。

 というか、この人もしかしなくともエルフ族では?耳長いし。


「初めまして、冒険者のヘルミーナです。本日は人からの紹介で来ました」


 とりあえず紹介状を渡してみる。すると目の前の人はスッと立ち上がり、「拝見するよ」と丁寧な所作で紹介状を受け取った。そして素早く中身を改めると、端正な顔にニコリと美しい笑みを浮かべた。


「なるほど、ローナ女史の紹介で来られたのだね。初めまして、宝飾職人のクラウディアという。見てのとおりエルフ族だが、宝飾の腕前にはそこそこ自信があるよ」


 …さっきのは幻聴かな?というくらいマトモだ。ちなみにクラウディアさんは、ポニーテールにした白銀の長い髪と翡翠色の瞳を持つ美女です。胸に片手を当てて一礼する姿はとても綺麗でカッコイイけれど……ホントに、さっきのはなんだったの??


「ところでヘルミーナ殿、紹介状には貴方が新調したドレスに見合う宝飾品を求めていると書かれていたのだが」

「あ、はい。このドレスなんですけど…って、えっっ?」


 インベントリからドレスを出そうとした時、クラウディアさんが私の片手をそっと掴んだ。思わず動きを止めた私に構わず、彼女は掴んだ手を恭しく持ち上げると、その指先にキスをした。…はい?


「美しい人、私に全てを委ねてほしい。必ずや満足させてみせるから」


 言い方よ。あとさりげなく腰を抱き寄せるのやめてください。私は宝飾品を作ってもらいに来たはずなのに、どうしてこうなった。


「えーと、製作依頼を引き受けてくれるということでよろしいですか?あとちょっと近いです」

「もちろん引き受けるとも。それと私としては、もっとお近づきになりたいのだが」

「却下で」


 なんだろうこの人。私、わりと塩対応しているのだけど、なんだか嬉しそうに微笑んでいるし。マゾなの?




 あのあと、気を取り直してドレスを見せて、宝飾品のデザインの相談をした。そして製作に必要な宝石や鉱石を作成して渡し、2週間後に工房を訪れる約束をして、おいとましてきた。

 ちなみにクラウディアさんは、仕事中は至極真面目に、適切な距離で話していた。…常にその状態でお願いしたいのだけど、たぶん無理なんだろうなぁ…。




 *




 宝飾品が出来上がるまでの2週間を、私は"宝飾の街"クイユで過ごすことにした。クラウディアさんに聞いたお勧めの宿に行きーー「我が家に泊まるといい!」と言われたけど固辞したーー2週間分の宿泊費を前払いしてから、街へと繰り出す。


 まず向かったのは、この街の冒険者ギルドだ。ギルドに入ってすぐに、依頼票が貼られている掲示板の前に向かう。

 ふむ、食用肉の確保の依頼と薬草採取の依頼は、どこにでもあるね。まあそれはそうか。……ん?


ーーーーーーーーーーーーーーー

『ジュエルスプライトの納品』

推奨ランク:金の一

達成条件:ジュエルスプライトを冒険者ギルドに納品する。

報酬:5000万ベル

ーーーーーーーーーーーーーーー


 なんだろう、この依頼。素材じゃなくて、魔物そのものを求めてる?

 窓口で聞いてみると、どうやらこの『ジュエルスプライト』という魔物は息絶えると全身が宝石に変化する魔物らしい。ちなみに外見は"人型の影"で、多彩な魔法攻撃をしてくる強敵とのことだ。

 そして生息地は例の、『カーバンクル迷宮』らしい。…うん、だろうなーとは薄々思っていた。


 冒険者ギルドの2階にある資料室で『カーバンクル迷宮』について調べてみると、どうやらこの迷宮は全30階層から成る迷宮で、最下層の第30階層にのみ魔物がいるらしい。それが先ほどのジュエルスプライトで、それ以外の魔物はいないとのこと。

 第1〜29階層には魔物はおらず安全なので、この迷宮は銅の三ランク、つまり駆け出しの冒険者でも入れる仕様となっている。冒険者登録をした宝飾職人が迷宮に潜ることも多いらしい。


「行く予定は無かったけど……ちょっと気になるな、この迷宮」


 依頼は受けずに、チラッと覗いてこようかな…?まあでも、今日のところは街の散策をしよう。



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