第19話 常昼の迷宮と日常
今回潜るのは『常昼の迷宮』と呼ばれる迷宮で、迷宮内の"見せかけの"時間経過が無く、常に昼間な迷宮だ。出現する魔物は多種多様で、比較的難易度の高い迷宮となっているらしい。もちろん、金ランク以上の冒険者しか入れない迷宮だ。
さて、本日の装備は太刀です。以前ヒヒイロカネで作ったヤツだ。『常昼の迷宮』の第1階層は森林地帯だったけど、木と木の間隔は広めだったから太刀でも問題なく振れそうだ。
…お、魔物発見。《鑑定》すると、『ビッグピグ』と表記された。つまり大きな豚の魔物だ。分かりやすい。
《隠密》を駆使して近くまで駆け寄り、首を一閃する。そして仕留めたビッグピグはインベントリへ放り込む。
「分かってたけど、この太刀も切れ味ヤバイな…」
まるで抵抗感なくスルリと斬れた。首の骨を断ち切っているにも関わらず、だ。
対人戦には使えないな、と思いつつ、行き合う魔物を屠ってゆく。…というかこの迷宮、食用になりそうな魔物ばかりが出てくるんだけど。豚、牛、鶏…たまに馬、猪、鹿。うん、食用だね。イライザにおみやげとして沢山狩って帰ろう。迷宮産の魔物のお肉って美味しいし、きっと喜んでくれるはず。
そうして狩りをすること数時間。迷宮内が常昼なので時間感覚がよく分からないけれど、おそらく昼頃だろう時間帯に私は迷宮内の安全地帯で昼食を摂った。イライザに作ってもらったサンドイッチとスープは絶品だった…ところで、サンドイッチに入っているロースト肉、ワイバーンのお肉では?ぷりぷりで美味しかったよ、ローストワイバーン。
「さて、午後からも狩りに勤しみますか」
この『常昼の迷宮』は、最下層は第30階層らしい。今は第20階層にいるので、あと10階層で最下層だ。魔物の強さも上がるだろうし、気を引き締めて行こう。
…と、思ったのだけど。
「あっさり最下層まで来れてしまった」
特段苦戦することもなく、実にあっさりと最下層まで来てしまった。なお最下層にいたボスは『グラットグリズリー』という大きな熊の魔物だったのだけど、これまで通り首を一閃して終わってしまった。
でもそのあとに出現した宝箱には、とても便利な魔道具が入っていた。その名も『自動解体の杖』。これ、死んでいる魔物を突くと自動で解体してくれる、という優れモノだった。試しに今しがた倒したばかりのグラットグリズリーを突いてみると、一瞬で解体された。これは便利だ。
でも、ふと思ったことがある。この迷宮、食用肉確保のための迷宮なのではなかろうか、と。だって魔物のラインナップといい、自動解体の魔道具といい、あからさまじゃない?まあ、魔道具は便利だから使うけれども。
微妙な気持ちになりながら、私は迷宮を出たのだった。
『箱庭』で獲物を解体してから王都の屋敷に戻ると、私はイライザと共に地下の食料庫へ向かった。そして"時間停止"付きの棚の、お肉コーナーに狩ってきたお肉達を収める。
「これはまた、ずいぶんと狩ってきましたねえ」
「『常昼の迷宮』に潜ったんだけどね、あそこ、食用の魔物しかいなかったんだよ」
「確かに、美味しそうな肉ばかりだ。ありがとうございます、主様」
「美味しい料理を期待してる」
「お任せください」
それから。本日の予定を消化してしまった私は、再び『箱庭』に戻ると、マイホームの裏庭に以前『竜鱗の迷宮』で手に入れた金銀財宝の山を取り出した。そこから金のインゴットや金が使われている宝飾品などを選別してから財宝の山をしまう。何をしようとしているかというと、金を使った装飾品を作ろうと考えたのだ。もちろん、装飾品に付ける宝石類は私が魔力で作り出す予定だ。
作業小屋の鍛冶部屋へと入ると、まずは宝飾品から何の効果もない宝石類を外す。これらは要らないので、箱庭ポイント交換で『売却』した。それから台座の金を鋳溶かして、インゴットの形にする。
さて、ここから何を作ろうかな。ネックレスは着けてるから、指輪とか?剣を握るのに邪魔になったりは…まあ、大丈夫だろう。
まずは宝石を作ってから、台座となる指輪を作ろうか。作り出す宝石は、ルビーだ。金に赤は合うよね。
「直径1cmくらいのルビー、形はいつもの楕円形で、持たせる効果は"状態異常無効"…よし」
イメージ通りのルビーが出来上がった。前に"状態異常回復"の宝石を作ったけれど、考えてみたら"回復"の前に"無効"の方が良いよね、と。
次に台座となる指輪作りだ。炉に火を入れて、金のインゴットをカンカンする。作りたい指輪の形をイメージしながら叩いてゆくと、溶けた金がその形になってゆく。…というか、指輪ひとつだとインゴットでは量が多いな。当たり前だけど。結果的に、指輪は20個出来上がった。何かに使うかもしれないので、先ほど作った"状態異常無効"の効果を持ったルビーを追加で19個作って、全て指輪の台座に嵌め込んだ。
最後に仕上げとして、"破壊不可"と"サイズ自動調整"、"所有者固定"を《付与》する。これで完成だ。試しにひとつ、左手の人差し指に着けてみると、"サイズ自動調整"のお陰かしっくりきた。
「いやホントにしっくりくるね。何だろう、
なんとなくそんな気がする。だからこそ、"宝石や鉱石を自身の魔力で作り出す"能力を持っているのかも。
「…ま、いっか。考えても分からないし」
たとえ安心するからといって、これ以上ゴテゴテと飾るつもりも無いし。だって邪魔になるからね。
さて、そろそろ夕食時だ。屋敷に帰って、ご飯を食べよう。
翌日。そういえばと思いついたことがあって、朝から『人形の迷宮』へとやって来た。ここは最下層が第20階層で、第10階層から先にミスリルゴーレムが出現するから、私は主に第10〜19階層で狩りをしていたのだけど。第5〜9階層には確か、『シルバーゴーレム』や『ゴールドゴーレム』が出現するはずなのだ。はず、なのは、最初にこの迷宮へ来た時は第1階層で試し斬りをしたあとは、ミスリルゴーレムがいる第10階層まで走り抜けたからだ。なので、第5〜9階層辺りはほぼ初見のようなものだった。
それで私は今回、第5〜9階層でシルバーゴーレムとゴールドゴーレムを狩ろうと思いついた訳で。別に金と銀はそこまで欲しい訳じゃないのだけど、何かで使う時のために大量に確保しておこうと考えたので、こうしてやって来たのだ。
「さてと、狩りますか」
ちなみに本日の装備は剣です。前にミスリルゴーレムを乱獲した時の装備だ。…相変わらず、豆腐のようにするすると斬れるなあ。オリハルコン凄い。
それから数時間後。ゴールドゴーレムを50体近く狩った辺りで、狩りを切り上げることにした。なお、シルバーゴーレムは100体を超えている。沸きの数の関係上、仕方ないね。
そういえば、この迷宮のボスには挑んだことがないな、と思って第19階層に『転移魔法陣』で移動して、第20階層に降りると、そこにいたのは。
「『オリハルコンゴーレム』…」
《鑑定》の表記を見た私は、その名前を呟きつつ武器をメイスに交換した。そしてこの世界のゴーレムの弱点である頭に向かってメイスを思いっきり振り抜いた。
「ふっ…呆気ない」
その一撃でオリハルコンゴーレムは沈黙したので、回収しておく。出現した大きな宝箱の中身は、なんと……大量のインゴットだった。鉄、銅、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコン、ヒヒイロカネの8種類のインゴットが、みっしり詰まっていたのだ。
例のごとく宝箱ごとインベントリへと放り込んで、迷宮をあとにした私は、『箱庭』へと《転移》した。作業小屋の錬金部屋に直行して、まずは大量のシルバーゴーレムとゴールドゴーレムをそれぞれインゴットに変える。ついでにオリハルコンゴーレムもインゴットに変えてから、作業小屋を出て裏庭へと向かった。そこで宝箱を取り出して、中身のインゴットの山をインベントリへと仕舞う。
「インゴット、凄い量になってるなあ…」
インベントリは容量無限だから良いけれど…全部持ち歩く必要もないし、ある程度は『箱庭』の倉庫に仕舞っておこうかな。倉庫にはデフォルトで"時間停止"機能が付いてるから、劣化したりもしないし。
という訳で、倉庫にやって来ました。相変わらずだだっ広い倉庫の管理のためのウインドウを開いて、インベントリからインゴットを移動させてゆく。その作業をしながら思ったことを口にする。
「今度から金属が欲しくなったら、『人形の迷宮』のボスを倒せば良いのでは…?」
なんせ各種インゴットが纏めて、大量に手に入るのだ。この前の指名依頼の時のような場合は別だけど、個人的に使う分ならボスを周回した方が手っ取り早い気がする。まあ、とりあえず今しばらくは金属はいらないけれど…大量にあるので。
「明日はガニーの冒険者ギルドに顔を出そうかな。白金ランクの依頼って、どんなのがあるんだろう?」
インベントリの整理を終えたあと、私はそんなことを独りごちつつ、王都の屋敷へと戻ったのだった。
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