第16話 指名依頼完了
翌朝。私は冒険者ギルドを訪れて、ローナさんと合流した。彼女の荷物をインベントリに詰め込んで、一緒に街を出る。そして街から少し離れた所で、王都の屋敷に《転移》した。
屋敷の玄関に飛んでくると、アグネス、ベティ、シェリル、ダイアナの4人が待ち構えていた。インベントリから出したローナさんの荷物を、ベティ達メイド組が客間に運んでくれる。その間に、私はローナさんにアグネスを紹介した。
「こちらが、当家の執事をしているアグネスです。アグネス、こちらがガニーの冒険者ギルドのギルドマスターをしているローナさん」
「アグネスでございます。ご用命の際は、私か、先ほどこちらにいたメイドにお申し付けくださいませ」
「丁寧にありがとう。冒険者ギルド・ガニー支部のギルドマスターをしているローナよ。約ひと月半ほどお世話になるけれど、よろしくね」
「はい、どうぞごゆるりとお過ごしください」
紹介が終わると、私達は場所をリビングに移した。アグネスが用意してくれた紅茶を楽しみながら、ローナさんと話す。
「こんな立派なお屋敷に住んでいるなんて…ヘルミーナさんって実は貴族の子なの?」
「違いますよ。ここは買ったんです。使用人の皆もその時に雇ったんですよ」
第一、私は
「そもそも、財産だけで言ったら、貴方…その辺の木っ端貴族なんかよりもずっと裕福だものね?」
「あれは、迷宮ドリームの効果がヤバかっただけです」
「でも今回の指名依頼もあるしねえ?」
「これは不可抗力です。国からの依頼なんて、普通断れないでしょう?」
「それもそうね。改めて、ありがとうね。依頼を受けてくれて」
「どういたしまして」
それからは、一旦解散して、自由な時間を設けることにした。アグネスにローナさんの案内をお願いして、私はたまにしか使わない自室へと向かう。
ちなみに、王家へのミスリルゴーレムの納品は、1ヶ月後くらいにしよう、とローナさんと話し合って決めた。あまりに早すぎると、更なる無理難題を吹っ掛けられそうだから、というのがその理由である。どうやらローナさんはこの国の王族と知己らしく、「悪い人達ではないけれど、時折突拍子もないことを言い出す人達なのよ」、とため息をついていた。つまり今回の指名依頼はその"突拍子もないこと"にあたるらしい。
「謁見とか…面倒くさいなあ」
冒険者という身分で行くから、礼儀作法はそこまで煩く言われないだろう、とは聞いているけれど。それでも、権力者に近づくのは面倒極まりないと思ってしまうのは、前世でフィクションを見すぎたせいなのか。
とりあえずあとでアグネスに、恥をかかない程度に礼儀作法を教わろう、と決めたのだった。
*
そして、1ヶ月後。王都冒険者ギルド本部を通じて王家に連絡してもらったら、すぐに迎えの馬車が来た。それに、ローナさんと一緒に乗り込んで、王城へと向かう。
この1ヶ月間で、礼儀作法は何とかなったと思う。アグネスやローナさんにもお墨付きを頂いたし。そんなことを考えながら馬車に揺られることしばらくして、王城から遣わされた案内人の女性ーーーマリアンさんが、「王城の敷地内に入りましたよ」と教えてくれた。
「まずはこのまま、大倉庫に向かいます。そこで依頼の品を納品して頂いたあとに、応接室へとご案内します」
「分かりました」
マリアンさんの言葉通り、馬車が止まったのは大きな倉庫らしき建物の前だった。そこで馬車を降りて、倉庫の中へと案内される。
「ミスリルゴーレムはどの辺に出せば良いですか?」
「では、一番奥から出していって頂けますか?」
「了解です」
ガランと広い倉庫を、言われた通り奥側からミスリルゴーレムで埋めてゆく。140体出したら広々としていた倉庫はほぼ全てミスリルゴーレムで埋まった。
「ひゃ、140体、ですか…凄いですね…」
「頑張りました」
「こうして改めて見ると、圧巻のひと言に尽きるわね…」
実はミスリルゴーレムはインベントリにまだまだあるのだけど、ローナさんから「出し惜しみしなさい」と言われたので出さないでおいた。このひと月の間、礼儀作法の授業の合間にストレス発散と称して、度々迷宮に潜っていたのだ。オリハルコンやヒヒイロカネを手に入れるために『竜燐の迷宮』にも潜って、また大量の宝飾品も手に入れてしまったし。もちろんドラゴンのお肉も大量に手に入れたので、それは屋敷の食料庫に仕舞っておいたけれど。
そして現在、王城の応接室にて。私達は何故か、この国の国王陛下と顔を合わせていた。
というか、国王陛下って女性だったんだね、知らなかったよ…。
「余がこの国の王、オフェーリア・ルナシェ・ナディアリスである。ああ、ここは非公式の場ゆえ、そう畏まらなくとも良いぞよ」
「陛下、何故こちらへ?我々が赴く予定ではなかったのですか?」
「ローナ姉上、そのような他人行儀な態度は止めてほしいのじゃ」
姉上?と思わずローナさんを見やると、ローナさんは苦笑気味に言った。
「私は先代国王の庶子なのよ。一応王族だったけど、冒険者になりたかったから籍を抜いてもらったの」
「そうなんですね」
「で?リアはなんでここに来たのかしら?」
「うむ。公式な場を開くと
ミスリルゴーレムが140体で…7億ベルじゃな」
白金貨が70枚入った布袋を陛下直々に手渡されて、私は深々と頭を下げた。
「色々と慮っていただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、あれだけのミスリルゴーレムを納品してくれたこと、感謝しておる。これでようやく兵達の装備を替えてやれるからの…」
若干遠い目をしてそう言った陛下に、ローナさんが呆れたように言った。
「そんなに酷かったなら、なんでもっと早く依頼しなかったのよ?」
確かに。纏めて50体以上とかじゃなく、少しずつなら他の冒険者でも対応できたはずだ。何か理由があるのだろうか?と思ったら、陛下が深いため息をついた。
「余だってもっと早くから依頼をしたかったのじゃ。それなのに彼奴らときたら、やれどの家の兵が先だの後だのと喧しくての…」
「うわぁ…」
「貴族って面子が命みたいな輩が多いから、仕方ないわね…」
つまり、貴族同士の面子の張り合いみたいなものがあったせいで、「じゃあ纏めて用意したるわ!」ってなったのか。ようは陛下がキレたんだね。
「じゃが、ヘルミーナ嬢が依頼を受けてくれて助かったぞ。ローナ姉上にも無理を言った」
「まあ、可愛い妹にあんな風に手紙で泣きつかれたらねえ…無下には出来ないわよ」
「私の方は、こうして報酬も頂いているので問題ないです」
「うう、2人の優しさが沁みるのじゃ…」
最後には半泣きになっていた陛下だけど、宰相様に引っ張られて退場して行った。どうやら執務が忙しいらしい。私達も、マリアンさんに案内されて王城をあとにした。
「それにしても、ローナさんが元王族というのには驚きました。でも、確かに陛下と似ていましたね」
「そう?似ているのは髪色と瞳の色くらいじゃないかしら」
そう言いながら、ローナさんは自身の白い髪の毛を触った。彼女の瞳の色は私の瞳よりも少し明るい赤色だ。
なお、私達の現在地は私の屋敷のリビングである。謁見用のドレスから普段着に着替えて、ひと心地ついたところだ。
「それよりも、ヘルミーナさんのドレス姿の方が素敵だったわよ。普段のワンピースも素敵だけど、貴方、何色でも似合うのね」
「ありがとうございます」
先ほどまで着ていたドレスは、淡い緑色のふんわりとしたドレスだった。普段着ているのは赤色なので、受ける印象はまるで違っただろう。
「でも、これで指名依頼は無事完了したので、今夜はお祝いパーティーですよ」
「貴方、パーティー好きよね。まあ私も、このお屋敷のパーティーみたいな気楽な宴会なら好きだけれど」
「気楽じゃないパーティーって、お仕事じゃないですか」
「そうなのよね…ああ、帰りたくなーい。このお屋敷、居心地が良すぎるわー」
「ふふ、あと半月はゆっくりできますから、そのあとはお仕事頑張ってください、ギルドマスター」
「うう…はーい」
こんな軽口を言い合えるほど、私とローナさんは仲良くなっていた。立場があるから私の敬語は外せないけど、これはもう友人と言っても良いのでは?なんてね。
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