第14話 迷宮ドリーム




 翌朝。予定通りガニーの冒険者ギルドへと足を運んだ私は、買取り窓口…ではなく、裏の倉庫に案内されていた。理由はもちろん、持ち込んだ素材の数が多かったからである。


「『竜鱗の迷宮』の素材を一度にこんなに沢山見ることになるとは…驚きました」


 そう言いながらも、テキパキと査定を進めてくれる職員さん。なんでも、解体済みなのはとても有り難いのだとか。


「逆鱗も皮も綺麗ですね。これは良い値が付きますよ」

「ありがとうございます」

「こちらこそ、こんなに良い状態の素材を卸していただきありがとうございます」


 そして、例のごとく2階の応接室らしき部屋に案内される私。知ってた。

 渡された査定額の一覧表を見ると、現実離れした金額が記載されていた。1億7320万ベル…?日本円で17億3200万円…?宝くじかな?


「やっぱり、魔石って高いんですね…」

「そうですね。それに今回はドラゴンの魔石でしたので、この金額になりました」

「私、いつも現金で報酬を頂いてるんですけど…」

「大丈夫ですよ、冒険者の方はそういう方も多いですから。こちら、お納めください」

「ありがとうございます」


 渡された袋には、白金貨17枚と金貨3枚、小金貨2枚が入っていました。…これも屋敷の金庫行きかな。


 冒険者ギルドを出たあと、一旦宿の部屋に戻ってから王都の屋敷へと《転移》する。


「おかえりなさいませ、主様」

「ただいま。アグネス、イライザは厨房かな?」

「この時間ですと、おそらく」

「ありがとう。今日は皆におみやげがあるんだよ。食材なんだけどね」


 そうしてアグネスと話しながら、厨房へと向かう。その途中でベティ、シェリル、ダイアナのメイド組、それにフローラやアイリーンとカレンにも出会って、口々に「おかえりなさいませ」と言われた。それが無性に嬉しくて、笑顔で「ただいま」と返した。私の家は『箱庭』にもあるけれど、すっかりこの屋敷も"帰る家"だね。


「おや主様、おかえりなさいませ」

「ただいま、イライザ。これ、皆におみやげなんだけど…」


 厨房にて。私は昨日味見(?)したブラックドラゴンのお肉を塊で出して見せた。それから一旦インベントリに仕舞い、地下の食料庫に移動した。


「主様は、やっぱりお強いんだねえ。まさかドラゴンの肉をおみやげに狩ってくるなんて」

「正直、私も驚きました。というか主様には驚かされてばかりな気がします」

「はは、違いない」


 私が"時間停止"付きの棚にお肉を黙々と詰め込んでいる間に、イライザとアグネスがそんな会話をしていた。


「イライザ、このお肉でパーティー料理って作れる?」

「もちろん作れますよ、なんたってワイバーンやドラゴンの肉は極上の食材ですからね、絶品料理を作ってみせますよ」

「主様、近いうちにパーティーを開くのですか?」

「といっても、いつもの身内だけのパーティーだけどね。今回は"ドラゴン食べ放題パーティー"かな?料理の仕込みとかもあるだろうし…いつ頃なら大丈夫そう?」

「そうですねえ…3日もいただければ、煮込み料理なんかの仕込みは万全ですよ」

「じゃあ3日後の夜で。アグネスもそれで良い?」

「もちろんです。3日後までにパーティーの用意を整えておきますし、皆にも通達しておきます」

「ありがとう、よろしくね」


 そういう訳で、3日後に"ドラゴン食べ放題パーティー"を開催することに決まった。楽しみだね、イライザの作るドラゴン料理。

 さて、私はまた果実酒とお菓子を作っておこう。




 そして、3日後の夜。ガニーの宿から屋敷へと《転移》すると、すでに皆、食堂に集まっていた。


「ごめんね、待たせたかな」

「いえいえ、私達が楽しみすぎて早く集まってしまっただけなので、大丈夫ですよ」

「主様、こちらを」

「ん、ありがとう」


 す、とアグネスに手渡されたのは果実酒…梅酒の入ったグラスだ。見れば、皆の手にも同じものが行き渡っている。なので、私はグラスを掲げて言った。


「本日は集まってくれてありがとう。皆の働きに感謝を、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 私の短い言葉のあとに、皆が声を揃えてグラスを掲げて、それから口に運んだ。私もひと口でグラスの半分ほどを飲み干したあと、さっそく料理の並んだテーブルに視線を向けた。本日はいつも通り無礼講を言い渡してあるので、料理の取り分けは自分でやる。

 まずは、この3日間ずっと楽しみにしていた、ドラゴン肉の煮込み料理を取り皿に取り分ける。


「今日の糧に感謝を……、んんーっ!」


 美味しい!!トロットロに煮込まれたドラゴンのお肉が、口の中で蕩ける…あー、幸せー…。

 付け合わせのパンでソースも拭って食べる。んー、こっちも絶品。イライザは天才料理人だね。


「最っ高に美味しいよ、イライザ凄い」

「そこまで言ってくださるなんて、料理人冥利に尽きるってもんです」


 照れ笑いする美女の笑顔もプライスレス。そんな彼女に勧められてドラゴンステーキを取り分けて、食べる。


「やっぱりプロが作ると違うわ…美味しすぎる…」


 感動が一周回って冷静になってきた。冷静になって食べても美味しいのは変わらないけれども。

 こうして、この日の夜は美味しく、じゃない楽しく過ぎていったのだった。




 *




 それから数日後。私は『竜鱗の迷宮』の最下層である第10階層までやって来ていた。最下層にはこの迷宮のボスがいる空間しかなくて、そのボスは『ゴールドドラゴン』という巨大な飛竜だった。あれ、ウチの屋敷と同じくらいありそうなんだけど…。

 ま、とりあえず倒しますか。ということで《飛翔》で空を飛びながら、高速でゴールドドラゴンへと接近する。そして眉間を狙っていつもより火力強めにした《レーザー》を放つと、それは狙い通りに相手の眉間を貫いた。そして落下してゆくゴールドドラゴンをインベントリへと仕舞ったあと、これ見よがしに現れた大きな宝箱を開けた。


「うわっ、まぶしっ!」


 宝箱に入っていた金銀財宝達の煌めきに、思わず手で目を覆ってしまった。というか、山のような宝飾品の数々だな。とりあえずインベントリに仕舞おうか…宝箱ごと。


 わりと呆気なく『竜鱗の迷宮』を踏破してしまった私は、ガニーへと戻ると冒険者ギルドへと向かった。目的は、迷宮で手に入れた財宝の山をどうするべきか、相談することだ。

 ギルドの窓口でその旨を伝えると、この前も通された応接室へと案内された。出された紅茶を飲んで待っていると、そこに現れたのは兎の獣人族の女性とエルフ族の男性だった。


「初めまして、ヘルミーナさん。私は冒険者ギルド・ガニー支部のギルドマスターをしているローナよ。こっちはサブギルドマスターのエリアス」

「エリアスです、初めまして」

「初めまして、ヘルミーナです」


 そうして自己紹介が終わったあと、話は本題に入った。


「どうするべきか、ということは、まだ売るかどうかも決めていないのね?」

「はい。なんせ、凄い量なので…見ます?」

「お願いできる?場所は…この部屋では足りないかしら?」

「そうですね…ちょっと難しいです」

「では、隣の会議室を開けましょう。ギルマス、良いですか?」

「もちろんよ。机と椅子は全部《アイテムボックス》に収納して頂戴」

「了解です」


 サブマスのエリアスさんが部屋を出て行って間もなくして、私とローナさんも隣室へと移動した。そこは家具が一切なくガランとしており、エリアスさんだけが立っていた。先ほどの会話からして、彼が全ての家具を時空魔法の《アイテムボックス》に収納したのだろう。

 そして空けられたスペースに、私は『竜鱗の迷宮』で手に入れた金銀財宝の山を4山と、ボス討伐後に手に入れた宝飾品等を大きな宝箱ごと取り出した。第6階層以降は、各階層にひとつ、例のドラゴンの巣があったんだよね…。


「これは…」

「確かに、凄い量ね…」


 2人がちょっと引き気味に呟いた。ですよね。


「とりあえず、見た感じ硬貨や鉱石、というかインゴットもあるようだし…宝飾品やらと仕分けしましょうか」

「そうですね。ヘルミーナさんもそれで良いですか?」

「はい、ありがとうございます」


 そこからは、3人でひたすら仕分け作業をした。硬貨、インゴット、宝飾品ほかの3種類に分けてから、細かく分別してゆく。というか、硬貨の中には白金貨が数十枚あったのだけど…あとインゴットはミスリルやオリハルコン、ヒヒイロカネなんかがあった。それでも宝飾品が一番多くて、宝石がジャラジャラ付いたネックレスやブレスレット、イヤリング、アンクレット、指輪など、とにかく種類と量があった。

 結局、硬貨とインゴットは全てインベントリへと仕舞い、宝飾品の数々は全て売り払うことにした。ただ、冒険者ギルドではツテが心もとないので、商業ギルドを介して売り払うことになった。手数料は取られるけれど、確実に売れるらしいのでお願いした。


 後日。私の手元には500枚を超える白金貨が届いた。どうやら商業ギルドはオークションを開催したらしく、私が出品した宝飾品はこの国、ナディアリス王国や近隣国の王侯貴族等に競り落とされたらしい。

 迷宮ドリーム。そんな言葉が、私の脳裏によぎった出来事だった。



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