第13話 初・迷宮探索




 《飛翔》の魔法で空を行くこと、十数時間。途中、何度か地上に降りて『箱庭』に《転移》して休憩したりしながら、エリルからガニーへと向かっていた私は、ついに"冒険者の街"と呼ばれるガニーに辿り着いた。門番さんを驚かせないように街から離れた場所に降り立ち、街道を歩いてゆくと、そうしないうちに街の門に着いた。


「身分証の提示をお願いします」

「はい、これです」

「…はい、確かに。ようこそガニーへ、冒険者ギルドは街の中央にありますよ」

「ありがとうございます」

「いえ、お気をつけて」


 てっきりもっと荒々しい感じの歓迎をされるかと思ったら、門番さんは丁寧な対応をしてくれる人だった。それにホッとしつつ、私は情報収集のために冒険者ギルドへと向かうことにした。

 街並みは、エリルよりも賑やかで、王都よりは落ち着いていた。道行く人を見ると、やはり冒険者らしき武装した人が多かった。そこでふと気づく。


「(私の格好って、軽装すぎるかな?)」


 お気に入りの濃い赤色のドレスワンピースに、黒いローブを羽織っただけの私は、当然防具などは付けていない。こうして歩いていても、誰も私を冒険者だとは思わないだろう。けど…


「(まあ、今のところ問題はないか)」


 未だ誰からも服装について指摘されたことがないので、たぶん大丈夫なのだろう、軽装でも。

 そんなことを考えながら、歩き続けること十数分。冒険者ギルドへと到着したので、入り口の大きな扉を押し開いて中へと身を滑り込ませた。集まる視線はいつもの事なので放置するとして、窓口に並ぶ。程なくして私の番がきたのでカウンターの前に立って、インベントリから金色のギルドカードを出しつつ尋ねた。


「迷宮の立ち入り許可証って、ここでもらえるんですか?」

「はい、ここで発行しています。…このランクでしたら、この街の周辺全ての迷宮の許可が下りますね。では手続きのために、少々カードをお借りします」

「お願いします」


 それから数分待たされて、ギルドカードと一緒に迷宮の立ち入り許可証を手渡された。なくさないようにどちらもすぐにインベントリへと仕舞ってから、冒険者ギルドをあとにする。辺りはすっかり陽が落ちて暗くなっていたので、ギルドの職員さんに聞いておいた良さげな宿にさっさとチェックインして、とりあえず2週間の宿泊費を前払いした。なお素泊まりで、食事は王都の屋敷か『箱庭』に帰って摂る気でいる。


「明日からは迷宮探索だ」


 この街の周辺には多くの迷宮が存在するけれど、私は金ランク以上しか入れない迷宮のひとつへと向かう予定だ。というのも、そこが一番街に近い場所にあるのだ。街の南門を出てなんと徒歩3分の距離にある。まるで都会のコンビニのような距離感だ。

 その迷宮の通称名は『竜鱗の迷宮』。その名の通り、ドラゴン系の魔物がメインで出現する迷宮だ。ドラゴンの素材のほか、宝飾品などの財宝が手に入るらしい。竜といえば財宝、なのか…?

 とはいえ、私は宝飾品には用はない。なんせ自分で宝石とか作れるからね。私の目的はただひとつ、ドラゴンのお肉を持ち帰ることだ。聞けば、ドラゴンは大変美味らしいのだ。それでも狩れる人が少ないからか稀少で、市場にはなかなか出回らないらしい。ここはぜひ狩って帰って、イライザに料理してもらいたいところ。


「ふふふ、ドラゴンステーキは浪漫だよね…」


 まだ見ぬドラゴンさんに思いを馳せつつ、私は就寝した。




 翌朝。宿の部屋から『箱庭』に《転移》して朝食を摂ったあと、私は意気揚々と街を出た。もちろん、『竜鱗の迷宮』に向かうためだ。

 迷宮の入り口である大きな扉の傍にいた門番さんに立ち入り許可証を見せて、迷宮の扉を潜る。と、目の前に広がっていたのは洞窟などではなく、険しい岩山だった。雲ひとつない青空も広がっており、改めてここが異空間だと認識した。

 岩山の周囲にはワイバーンらしき魔物が飛び交っている。幸い(?)地上には魔物はいないようなので、空に意識を割いて良さそうだった。


「まずは試しに…《ウインドカッター》」


 一番近くにいたワイバーンに向かって簡単な風魔法の攻撃を放つ。すると狙い通りにワイバーンの首元へ飛んで行ったそれは…スパン、とワイバーンの首を落とした。あれ?


「意外と脆いのかな?それとも偶然?」


 落ちてきたワイバーンをインベントリに放り込んでから、別のワイバーンに《ウインドカッター》を放つ。と、それもあっさりワイバーンを仕留めたので、私はしばらくその場に留まって、ワイバーンを狩り続けた。

 やがて見える範囲にはワイバーンがいなくなったので、進むことにする。《飛翔》を使って岩山を登っていくと、やがて頂上に出た。でも、そこにあった次層への下り階段に、私は微妙な気持ちになった。


「ここまで登らせておいて、下り階段なのは解せない…」


 まあ、仕様だと言われればそれまでなのだろうけれど。



 次の階層は、広めの洞窟だった。そしていたのは『レッサーアースドラゴン』で、飛ばないタイプの小さなーーそれでも全長5mはあるーードラゴンだった。でも、これも《ウインドカッター》で一撃だった。試しに剣でも戦ってみたけれど、瞬殺だった。


「これはもはや弱い者イジメでは?」


 ということで、この階層はさっさと抜けることにした。あ、襲ってきた奴は遠慮なく倒してインベントリへと放り込んだよ、もちろん。



 その次の階層からしばらくは、『レッサー○○ドラゴン』という小型(※当社比)なドラゴンとの戦闘が続いたけれど、第5階層目に差し掛かったところで、ようやく"レッサー"が付いていない『アースドラゴン』に出会った。というか、デカイ。全長10m以上はあるのではないだろうか、こいつ。

 そして人の顔を見るなりブレスをかましてきたので、それを《マナシールド》で防いでから反撃した。


「《レーザー》!」


 光魔法で編み出した魔法を初お披露目だ。その名の通り、熱線で相手を焼き切る、もしくは焼き貫く魔法である。殺傷能力が高すぎて今まで使う機会がなかった魔法だ。

 そして熱線は、いとも容易くアースドラゴンの命を狩り取った。よしよし、これでドラゴンとも戦えることが分かったぞ。

 仕留めたアースドラゴンをインベントリへと放り込み、先へ進む。道中出会ったグリーンドラゴンやらレッドドラゴンやら(どちらも空を飛ばないタイプのドラゴンだった)も《レーザー》で仕留めながら、進むことしばらくして。次層への下り階段を見つけたので、安全地帯であるそこで《瞑想》して魔力を回復させてから、次層へと降りた。



 第6階層では景色が一変して、深い森の中に私は立っていた。これでは見通しが悪いので《飛翔》の魔法で森の上空へと出ると、近くにいかにもドラゴンの住処になっていそうな岩山があったので、そのままそこへと飛んだ。すると岩山の中腹辺りにあった洞穴から1匹の黒いドラゴンが顔を出したので、《レーザー》で仕留めた。インベントリに仕舞う前に《鑑定》すると、どうやらあのドラゴンはそのまんま『ブラックドラゴン』という名称らしかった。分かりやすいな。

 洞穴の中に入ってみると、奥行はそんなに深くはなかった。そして最奥には、金銀財宝が山と積まれていた。なるほど、ここはさっきのドラゴンの巣みたいなものか。とりあえず全てインベントリに詰め込んで洞穴を出ると、岩山の周りを飛ぶタイプのドラゴンが数匹旋回していた。ので、それらも《レーザー》で仕留めてインベントリへと放り込む。…ここまで来るともはや作業だな。

 ちなみに次層への階段は岩山の頂上…ではなく、森の中にあった。探すのにそこそこ時間が掛かってしまったので、一旦、階段を降りた先にあった『転移魔法陣』で外へと出ることにした。次来る時は第7階層からスタートする予定だ。



 迷宮から外に出ると、辺りは薄暗くなっていたので、急いで街、というか宿へと戻る。そして宿の部屋に入ってから、『箱庭』へと《転移》した。


「まずは解体しないとね」


 マイホームの裏庭に、ドラゴンを1匹ずつ取り出しては解体してゆく。《解体》スキルのレベルがMAXで良かった、と思うくらいには骨の折れる作業だった。

 でもこれで、念願のドラゴンステーキが作れるぞ。マイホームのキッチンにて、一番美味しそうなブラックドラゴンのお肉を切り分けて、フライパンで焼く。味付けはシンプルに塩コショウのみだ。ついでに米を炊いて、野菜スープも作っておく。炊飯器は魔道具なので、魔力を注いだだけ早く炊き上がるのだ。便利だよね、魔道具。


「よし、完成!」


 ダイニングテーブルの上には、厚めに切られたドラゴンステーキと、ご飯、野菜スープが並んでいる。さっそく席に着いて、私は食事を始めた。




「ふわぁ、美味しかったあ…」


 最高に美味しかったです、ドラゴンステーキ。もうね、ご飯との相性が抜群だった。あれ、今度は塩のみで焼いてワサビ付けて食べてみるかな…。


「ま、その前にアグネス達とドラゴン料理パーティーをしたいけど」


 なんせ、ドラゴンのお肉は大量にあるのだ。みんな巨体だったからね。お陰で解体が大変だった。

 明日はガニーの冒険者ギルドに行って、ワイバーンやドラゴンの素材(お肉を除く)を買い取ってもらってから、一旦《転移》で王都の屋敷に帰る予定だ。イライザにドラゴンのお肉を渡してから、ガニーに戻ってくるつもりでいる。


 とりあえず、今日のところはガニーの宿に戻って就寝した。



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