第9話 王都へ
ある日、私は『箱庭』の出入口で『転送陣』のウインドウを眺めていた。
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『箱庭の転送陣』
・行きたい場所を選択すると、その場所へと《転移》することができる。
〈行き先選択〉
1:王都ナディアリスタ付近の森(危険度:★☆☆☆☆)
2:ミラマ大森林(危険度:★★☆☆☆)
3:エリキア山脈(危険度:★★★☆☆)
4:アサナティカ大樹海(危険度:★★★★☆)
5:イシュロギア山地(危険度:★★★★★)
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前は、これの『2:ミラマ大森林』へと向かったのだけど。そろそろ私の基礎レベルも上がってきたことだし、別の場所に行ってみたいと思い始めたのだ。
「いま行くなら、1番か3番だよなあ」
単にレベルを上げるなら『3:エリキア山脈』が妥当だと思う。けれど、『1:王都ナディアリスタ付近の森』からなら、おそらく『王都ナディアリスタ』に行けるのだろう。
ちなみに、現在の私のステータスはこんな感じだ。
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名前:ヘルミーナ
種族:
性別:女性
外見年齢:15歳(実年齢:0歳)
基礎Lv:45
保有魔力:1046500/1046500
『所持スキル(アクティブ)』
《水魔法》Lv:10(MAX) 《火魔法》Lv:10(MAX) 《風魔法》Lv:10(MAX) 《土魔法》Lv:10(MAX) 《光魔法》Lv:10(MAX) 《闇魔法》Lv:10(MAX) 《時空魔法》Lv:8 《無属性魔法》Lv:10(MAX) 《瞑想》Lv:10(MAX)
《剣術》Lv:10(MAX) 《槍術》Lv:7 《戦棍術》Lv:5 《体術》Lv:5 《隠密》Lv:5
《鍛冶》Lv:6 《料理》Lv:7 《調合》Lv:7
『所持スキル(パッシブ)』
《魔法効率化》Lv:10(MAX) 《魔力回復力上昇》Lv:10(MAX) 《魔力制御力上昇》Lv:10(MAX) 《解体》Lv:10(MAX)
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以前確認した時よりも色々と成長しているのは、あれから何度かエリルの街の冒険者ギルドに行って、食用肉の調達依頼を受けたからだ。お陰で所持金はとんでもないことになっていて、なんと3000万ベル(約3億円)を超えている。さすがにこの金額を貯め込んだままでは…とも思ったので、別名"布の街"とも呼ばれるエリルで、お高いオーダーメイドのドレスや衣服を仕立ててもらったりもした。それでもまだお金に余裕があるので、王都とやらに行って散財してこようか、なんて考えたりもしている。
なお、今日着ているのも、エリルの仕立て屋で仕立ててもらったドレスワンピースだ。濃い赤色に金糸で刺繍がされたちょっと派手め、というか豪華なそれは、金髪紅目の私にとても似合っていて、けっこうお気に入りだったりする。…まあ、確実に野外を歩く格好ではないけれど、服自体に無属性魔法の《付与》で"破壊不可"と"防汚"を施しているので、破いたり汚れたりはしない仕様となっているから、気にせず着ている。それに外に出掛ける時はこの上に黒いローブ(もちろん色々付与済み)を羽織るので、問題はない…と思っている。
エリルの冒険者ギルドで、ギルドマスターのアドリアナさんに聞いた話だと、『王都ナディアリスタ』はエリルの街と同じ国ーーーナディアリス王国内の都だそうだ。ただし距離は遠いらしいけれど。というのもこのエリルの街、実は隣国との国境近くにある街なのだ。その国境沿いに連なっているのが『エリキア山脈』であり、この山脈の尾根が国境線になっているとのことだ。
「…うん、ここはとりあえず王都に行こうか」
という訳で、『1:王都ナディアリスタ付近の森』を選択して《転移》することにした。
私が《転移》した先は、森の入り口だった。後ろを振り返ると、遠目にエリルの街よりもかなり規模が大きい外壁が見える。おそらくあれが王都なのだろう。
「大きいなー、さすが王都だ」
歩き出しながら呟く。よくよく見れば、王都の外壁の外側にも街並みが広がっていて、もしかしたらあれは俗に云う"
そう歩かないうちに街道に出たので、街道の端っこを王都に向かって歩いてゆく。そうして辿り着いた王都の外門は、入場待ちの人々でなかなかに賑わっていた。なるべく目立ちたくない私は、ローブのフードを目深に被って徒歩の旅人達が並んでいる列に並んだ。
やがて私の番になり、門番さんから身分証の提示を求められたので、フードを軽く上げて顔を見えるようにしてからギルドカードを差し出した。すると門番さんは少し驚いたような顔をしたあと、ギルドカードを返しつつ「ようこそ王都へ」と歓迎の言葉を口にした。それに「ありがとうございます」と返して、私は王都へと足を踏み入れた。
「(人が多いな…)」
心の中の第一声がコレである。だけど私は元・日本人、人混みをすり抜けて歩くのは得意だ。するすると人の合間を通り抜けて、見慣れた冒険者ギルドのマークを看板に掲げる建物へと辿り着くと、やはり大きな扉をそっと開けて中へと身を滑り込ませた。
冒険者ギルドの中も大勢の人がいたけれど、外の通りよりは落ち着けた。とりあえず依頼票が貼られている掲示板を眺めて、どういう傾向の依頼が多いのかを確認する。
「(なるほど、銅ランクは薬草採集や街中のお手伝いとかが多いのか。銀ランクは…討伐系か、それも主に食用肉の)」
ちなみに、私の今の冒険者ランクは『銀の一』だ。『金の三』に上がるには王都の冒険者ギルドで試験を受ける必要がある、と聞いている。
ただ、もし面倒な試験だったら受けない心積りでいる。私は別に今のランクで不自由していないし。それよりもまずは、この街でやって行けるかが大事だよね。
ということで、銀ランク推奨の依頼をひとつ、見てみることにする。
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『ルグミーヌバードの肉の納品』
推奨ランク:銀の一
達成条件:ルグミーヌバードの肉を冒険者ギルドに納品する。最低3体分以上、上限は15体分まで。
報酬:1体分につき60000ベル
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ふむ。そもそも私、この魔物の生息地を知らないな。依頼を受ける前に調べておくべきか。実は冒険者ギルド・エリル支部にもあったのだけど、冒険者ギルドの2階には大抵資料室がある。冒険者ならば無料で利用できるので、私はこのギルドの資料室を利用すべく窓口へと並んだ。
程なくして私の番が来たので、ギルドカードを提示してから「資料室を利用したいのですが」と簡潔に要件を述べてみた。すると窓口の男性職員に、
「はい、資料室は2階の手前右側の部屋になります」
と案内されたので、軽く礼を言って窓口を離れた。そのまま2階へ続く階段へと向かい、2階の手前右側の部屋に入る。
資料室内は人が疎らで静かだった。入り口横のカウンターに居た職員さんにギルドカードを提示して、許可を得たあとで資料を探し始める。
「(ルグミーヌバードは、と……『ルグミーヌ湖沼地帯』?)」
この王都近辺の魔物の分布が書かれている本を読んでいたら、そんな地名が出てきた。なんでもこの『ルグミーヌ湖沼地帯』は、王都から西へ1週間ほど歩いた先にある広大な湖沼地帯らしい。そしてここには、お目当てのルグミーヌバードの他にもルグミーヌフロッグやレッサーサハギンなどの魔物がいるとのこと。それらの魔物から取れる魔石は良質な物が多いため、高額で取引されるらしい。
それとルグミーヌ湖沼地帯は『人魚族』の集落が数多くあることでも有名で、彼らは私たち
「(ま、とりあえず行ってみますか)」
依頼はあとで受けよう。
*
それから数時間後、私は『ルグミーヌ湖沼地帯』へとやって来ていた。当然徒歩ではなく、《飛翔》という時空と風の魔法で空を飛んできたのだ。お陰で大幅に移動時間を短縮できたし、上空からこのルグミーヌ湖沼地帯を見渡すこともできた。
「空から見たこの場所、綺麗だったなあ」
大小様々な形の湖や沼などに、鏡のように青空が映り込んでいて…貧相な語彙で申し訳ないけど、とても美しい光景だった。
「それはさておき、魔物狩りと行きますか」
いつまでも風景を眺めている訳にもいくまい、と槍を構えて歩き出す。装備が剣じゃないのは、どうせなら《槍術》スキルのレベルも上げようと思ったからだ。
と、歩き始めて間もなくして、道に隣接している湖から魔物が這い出してきた。《鑑定》すると、『レッサーサハギン』と表示される。その見た目はお世辞にも良いとは言えず、私は思わず眉を顰めつつ風魔法の《ウインドカッター》を放った。飛んでいった風の刃は狙い通りに相手の首を落としたので、その死骸をインベントリへと放り込む。解体はあとでまとめてする予定だ。
それから、私は次々に現れる魔物達を淡々と屠っていった。今のところ遭遇しているのは『レッサーサハギン』、『ルグミーヌフロッグ』、そしてお目当ての『ルグミーヌバード』だ。特にルグミーヌバードは小さな群れを全滅させたので、10体分以上ある。
「一旦帰って、解体してこようかな」
という訳で、私は一旦『箱庭』へと帰還して、裏庭で獲物を解体することにした。《解体》スキルのレベルがカンストしているために、自分でも驚くような速さで解体できる。
そう経たずに全ての獲物の解体が終わったので、《クリーン》で身綺麗にしてから、私はマイホームへと入った。
遅い昼食を摂ったあと、定位置のリビングのソファーに沈み込みながら、インベントリのウインドウを開く。改めて今日の戦果を確認すると、レッサーサハギンは25体、ルグミーヌフロッグは18体、ルグミーヌバードは32体と、けっこう乱獲していたことが判明した。…うん、少し自重しよう。そもそも私は、王都に散財しに来たはずなのだ。なのに稼いでどうするんだ。
そして、王都の冒険者ギルドにて。件の依頼分と併せて素材も全て売却したら、1294万5千ベルになりました。日本円で約1億2945万円くらいの儲けだ。…もしやこれ、お金が尽きないのは
兎にも角にも、明日からは王都で散財するぞー!…あんまり豪快に行くと悪目立ちしそうだから、こっそりね。
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