第5話 七日目




 翌朝。私はリビングのソファーに座って、箱庭ポイント交換のウインドウと睨めっこしていた。

 いま見ているのは『衣服・布・糸』タブで、いい加減まともな衣服を手に入れないと、と探しているのだけど…。


「数が多すぎて、見てるだけで時間が掛かる…!」


 質素な衣服から貴族が着ていそうな煌びやかな衣服まで、なんでもあるのだ。


「いっそテイストを先に決めてしまおうか…?」


 平民、だけどちょっと裕福な家庭のお嬢さんが着るような服、とか。旅をすることを考えたら、ロングスカートのワンピースとかではダメかな?タイツとロングブーツを履けば問題ないか。

 ワンピースの色は…んー、濃紺で。白い丸襟と袖口付きで、清楚なお嬢様っぽくしよう。この上から深緑色の外套を羽織る。手荷物は無しで、武器はインベントリから都度取り出す。基本は魔法戦闘だしね。

 額の宝玉は大きさ的にも隠せそうにないので、諦めた。


「万が一狙われたら、容赦なく返り討ちにしてやる…」


 こういう方針で行くことにした。あとは替えの衣服を何着か選んで、終了。

 さて、次は『武器・鉱石』タブで、剣と槍とメイスを選ばなくては。といっても、これは実質一択だ。


「『ミスリルの剣』と『ミスリルの槍』、『ミスリルのメイス』しかないよね」


 なんせ私は魔法職。魔力伝導率が高いらしいミスリル装備を選ぶのは当然の流れだった。これらも予備も併せて2本ずつ交換しておく。


「あとは…料理か」


 インベントリに入れておけば時間経過は無いので、何食分かは入れておくことにした。食べやすさを重視して、おにぎりとサンドイッチにしよう。具材に肉は無いけど。


「お外に出たら、まずは弱めの魔物と戦って基礎レベルを上げる。その過程でお肉が獲れたらラッキーってことで…うん、無理はしないで、ちょくちょく『箱庭』に帰って来よう」


 いつでも《転移》できるように、魔力には余裕を持たせて戦うこととしよう。時には逃げることも大事だ。


 よしよし、なんだかいける気がしてきたぞ?忘れ物はないし、さっそく『箱庭』の出入口から外界へ出てみようかな。


「いってきまー…す?」


ーーーーーーーーーーーーーーー

『箱庭の転送陣』

・行きたい場所を選択すると、その場所へと《転移》することができる。


〈行き先選択〉

1:王都ナディアリスタ付近の森(危険度:★☆☆☆☆)

2:ミラマ大森林(危険度:★★☆☆☆)

3:エリキア山脈(危険度:★★★☆☆)

4:アサナティカ大樹海(危険度:★★★★☆)

5:イシュロギア山地(危険度:★★★★★)

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 『箱庭』の出入口に触れたら、こんなウインドウが開いた。なるほど、転移先が複数あるのね。


「一番安全なのは、1だけど…王都付近の森って、人が多そうだよね」


 という訳で、私は2の『ミラマ大森林』に行きます。目的地をタップすると、一瞬の浮遊感のあとに。


 ーーー私は、深い森の中にいた。




 *




「ここが、ミラマ大森林…?」


 ザ・大自然、といった感じの深い森で、私は立ち尽くしていた。どの方向へ向かえば良いのかすら分からない。

 …しかし、いつまでも立ち尽くしている訳にはいかないのだ。私には目的があるのだから。


「ということで、勘だけを頼りに進んでみよう」


 宝石精霊族カーバンクルの運の良さを信じて、私は森の中を歩き出した。一応剣を右手に持っておこう。…これ、長剣じゃなくて良かったな。もしそうだったら森の中で取り回しが出来なくて大変だったと思う。


 しばらく歩いて行くと、微かに魔物らしき生き物の気配を感じた。どうやら、人外になったことで感覚が鋭敏になっているらしい。気配がした方へそっと忍び寄ると、そこにはニワトリをふた周りくらい大きくしたような黒い鳥がいた。


「(よし…《ウインドカッター》)」


 無詠唱で風魔法を発動させると、風の刃は狙い通り鳥の魔物の首を落とした。すぐに駆け寄り、鳥をインベントリに回収する。そして急いでその場から離れた。おそらく、血の匂いを嗅ぎつけて他の魔物がやって来るだろうから。

 さて、初めて魔物を殺した訳だけど…私は全くもって平静だった。自分でも違和感を感じるくらいに。もしやこれも、人外になった影響なのかな?

 まあ、狩りに躊躇しないのは良いことだと思うし…試しに、次は剣で魔物を倒してみようか。


 その後、私は様々な魔物ーー大きな角有り兎とか、定番のオークとかーーに出会っては、魔法と剣で屠っていった。なお食用に向かなそうな魔物ーー主に蛇とかーーはスルーした。

 それから一旦《転移》で『箱庭』へと帰宅して、狩った魔物達を解体することにした。場所は広さ的に裏庭だ。


ーーーーーーーーーーーーーーー

『ブラックルースター』

・主に深い森の中に生息する鳥の魔物。

・肉は食用になる。

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『ホーンラビット』

・平原や森などに広く生息する角の有る兎の魔物。

・肉は食用になる。

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『フォレストオーク』

・森の中に生息する二足歩行の豚の魔物。

・肉は食用になる。

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『フォレストホース』

・森の中に生息する馬の魔物。

・肉は食用になる。

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『ブラックカウ』

・主に深い森の中に生息する牛の魔物。

・肉は食用になる。

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 以上が本日狩った魔物達だ。まさか、鶏肉、兎肉、豚肉、馬肉、牛肉が一度の狩りで獲れるとは思っていなかったので、非常に嬉しい。

 そういえば、基礎レベルも17まで上がっていた。上がり方が早い気がするのは、おそらくミラマ大森林自体がいわゆる"初心者向け"の狩場ではないからなのだろう。

 《解体》スキルのお陰でサクッと解体できたので、お肉は倉庫にしまう。皮や魔石などの素材はいつか街で売るためにインベントリに入れておく。


 さて、本日の昼食は、狩りたての新鮮な豚肉を使おうと思います。作るのは『ナスとピーマンと豚肉の味噌炒め』だ。ずっと食べたかったんだよね、豚肉の味噌炒め。

 ちゃんと白米も用意して…いただきます!




「ごちそうさまでした。ふい〜食べた食べた」


 美味しゅうございました。ひと休みしたら、またミラマ大森林へと狩りに行こうかな。いざ、お肉調達……じゃない、基礎レベル上げ!


 そう意気込んだ私は現在、ミラマ大森林で見つけたオークの集落を襲っている。向かってくるオーク達を殲滅しつつ、逃げ出そうとしているオーク達も魔法で片付ける。そして倒したオーク達は全てインベントリの中へ。

 集落にはオークの上位種であるハイオークやオークキングなどもいたけれど、皆等しくお肉になってもらった。よしよし、これでしばらく豚肉の在庫には困らないな。もはや獲物としか見ていないけれど、油断はしていないつもりだ。

 最後に土魔法で集落を更地にしてから、その場をあとにする。それからブラックルースターやブラックカウを何頭か狩って、私は『箱庭』へと帰宅した。


「解体解体、と」


 再び裏庭で、狩った魔物達を解体してゆく。そして倉庫にお肉を仕舞ったあと、ステータスを確認してみた。


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名前:ヘルミーナ

種族:宝石精霊族カーバンクル

性別:女性

外見年齢:15歳(実年齢:0歳)


基礎Lv:28

保有魔力:420500/426700


『所持スキル(アクティブ)』

《水魔法》Lv:10(MAX) 《火魔法》Lv:7 《風魔法》Lv:10(MAX) 《土魔法》Lv:7 《光魔法》Lv:7 《闇魔法》Lv:6 《時空魔法》Lv:5 《無属性魔法》Lv:8 《瞑想》Lv:8

《剣術》Lv:8 《槍術》Lv:5 《戦棍術》Lv:5

《鍛冶》Lv:6 《料理》Lv:2


『所持スキル(パッシブ)』

《魔法効率化》Lv:6 《魔力回復力上昇》Lv:8 《魔力制御力上昇》Lv:9 《解体》Lv:8

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 基礎レベルが上がったお陰か、保有魔力が大幅に増えていた。あと《水魔法》と《風魔法》がカンストした。《剣術》も上がっているし、順調だね。

 ちなみに《料理》スキルについては、いつの間にか取得していた。というか、箱庭ポイント交換で交換もできただろうに、私はすっかり忘れて普通に料理をしていたのだ。経験値はもったいなかったけど、まあこれからも料理はするので問題は無いだろう。


「まだ夕食までには時間があるし…農作業でもしようかな」


 待ち時間にはもちろん魔法の訓練もするつもりだ。さて、何から植えようかな。



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