第4話 四日目〜六日目




 翌朝。まだ外が薄暗いうちから起き出した私は、《クリーン》で洗顔と歯磨きを終えたあと、着替えてからキッチンへと向かった。


「本日の朝食はー…焼きサバ定食かな」


 白米と味噌汁は昨日の残りがあるから、あとはサバを焼くだけだ。グリルでサバを焼いている間に、起き抜けに思いついたことをする。


「『魔道具』タブで……あった、『全自動醸造機』。これを1000Ptで交換、と」


 これで何をするのかというと…ずばり、ワインを作るのだ。この身体で飲めるかは分からないけど、せっかく『赤ブドウ』や『白ブドウ』があるので。

 この『全自動醸造機』、使い方はとても簡単だった。機器に接続されている樽に赤ブドウなどの材料を入れて、起動用の魔石に魔力を流すだけ。この時多めに魔力を流しておくと時短になるらしいので、今回はかなり多くの魔力を流しておいた。

 そこでサバが焼けたので、皿に移してダイニングテーブルへと運ぶ。白米と味噌汁も盛って、いただきます。




「ごちそうさまでした」


 美味しかったよ、焼きサバ定食。使用した皿などに《クリーン》を掛けて綺麗にしたあと片付けて、醸造機の様子を見てみる。するともう出来上がっていたので、パカッと樽を開いた。


「…えー、ボトルとコルク栓は何処から?」


 樽の中には、ガラスのワインボトルが入っていた。いやほんと、どうなってるの?これ。


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『赤ブドウのワイン』

・甘みと渋みのバランスが調度良い、赤ブドウのワイン。

・芳醇な魔力を浴びて作られたため、とても美味しくなっている。

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 以上が《鑑定》結果だ。…私の魔力って芳醇なの?でもまあ、美味しく出来たのは良かったね。飲むのは夜になってからだけど。今日は武術の訓練をすると決めているのだ。


 という訳でやって来ました裏庭(?)です。さっそく、昨日インベントリに突っ込んでおいた『初心者の剣』を取り出して、素振りを始める。

 しばらくすると頭の中に"型"が浮かんできたので、それをなぞるように身体を動かしてゆく。なんだこれ、楽しいぞ。


 そうしてかれこれ数時間は夢中で剣を振っていただろうか、ついに体力の限界が来て私は動きを止めた。全身汗だくだったので《クリーン》で綺麗にしつつ、地面に座り込む。


「あっつ…でも、スッキリしたー」


 水魔法で作り出した水を飲んでひと息つくと、私はステータスを開いた。


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名前:ヘルミーナ

種族:宝石精霊族カーバンクル

性別:女性

外見年齢:15歳(実年齢:0歳)


基礎Lv:1

保有魔力:143495/143500


『所持スキル(アクティブ)』

《水魔法》Lv:8 《火魔法》Lv:6 《風魔法》Lv:6 《土魔法》Lv:6 《光魔法》Lv:6 《闇魔法》Lv:6 《時空魔法》Lv:3 《無属性魔法》Lv:6 《瞑想》Lv:6

《剣術》Lv:3 《槍術》Lv:1 《戦棍術》Lv:1


『所持スキル(パッシブ)』

《魔法効率化》Lv:5 《魔力回復力上昇》Lv:6 《魔力制御力上昇》Lv:7 《解体》Lv:5

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「おお、《剣術》スキルがレベル3まで上がってる」


 この調子で《槍術》や《戦棍術》もレベルを上げるぞ。




 それから、昼食を挟んでさらに数時間後。《剣術》の時と同じことを繰り返して、《槍術》と《戦棍術》のスキルレベルもそれぞれ3まで上がった。さらにそのあとは、土魔法で作り出した的を相手に斬ったり突いたり打ちつけたりして、最終的に3つのスキルのレベルは5まで上がった。

 結果として、本日は陽が落ちるまで武術の訓練をしていた。…楽しかったから夢中でやっていたけれど、これ、明日は筋肉痛になっている気がするな。


「それでも私はワインを飲む」


 夜、そんな宣言と共に、私は箱庭ポイント交換の『雑貨』タブでワイングラスを交換した。100Ptと地味に高かったけど、現在所持している箱庭ポイントは131000Ptなので、気にしないことにした。


「さーて、飲むぞ〜」


 ワインとつまみを用意して、私はダイニングテーブルでウッキウキでワイングラスを傾けた。


「…おお!ワイン美味しいー!」


 赤ブドウのワインは、思わず歓声を上げるほどに美味しかった。ついでにこの身体でもお酒を美味しく飲めることが分かったので、嬉しくてついつい飲むペースが早くなる。




 そして、気がついた時にはベッドの上で寝ていて、翌朝だった。間の記憶は、無い。


「……あちゃー」


 二日酔いとかは無いけれど、昨夜私は何をしたんだ?とりあえず《クリーン》で酒気を飛ばして、ベッドから降りる。着ていたのは寝間着のワンピースだったけど、脱いだと思しき衣服はベッド周りに散乱していたので、それを拾い集めて《クリーン》を掛けてから着替える。

 キッチンに行ってみると、そこには空っぽになったワインボトルと、つまみの載っていた皿があった。ので、これらも《クリーン》で綺麗にしてから、片付ける。


「というか私、昨日ワイン1本飲んで記憶飛ばしたのか」


 それしか作っていなかったから…私の今世の身体は、あまりお酒に強くないのだろう。残念なことに。


「あとは、何もしていないよね…あれ?」


 キッチンからリビングに向かう途中、部屋が増えていた。開けてみるとそこはどうやら客間らしく、客用のベッドやクローゼットが置いてあった。

 んー、これはもしや。


「昨日の私、もしかして『箱庭レベル』を上げたのかな?」


 という訳で、『箱庭』情報オープン。


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『ヘルミーナの"箱庭"』

・創造神からヘルミーナへと贈られた箱庭。ヘルミーナが許可した者しか出入りできない。

・『箱庭レベル』を上げることにより、箱庭の拡張や設備の増設をすることができる。

・『箱庭ポイント』を貯めることにより、作物の種や各種道具と交換することができる。


箱庭Lv:10(MAX)

箱庭Pt:57500

設備:マイホーム(Lv:6)、倉庫(Lv:10)、作業小屋(Lv:6)、畑(Lv:40)、泉(Lv:6)

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「MAX…ってことは、箱庭レベルカンストしたの!?」


 "MAX"の文字をタップすると、詳細が開いた。


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・『箱庭』の基本形が完成した。これ以降は、各種設備を個別にレベルアップすることで拡張することができる。

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 ついでに、各種設備をタップするとレベルごとの詳細が見れることに今、気がついた。


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『マイホーム』

Lv:2…リビングの拡張

Lv:3…キッチンの拡張

Lv:4…寝室の拡張

Lv:5…客間の増設

Lv:6…地下室の拡張

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『作業小屋』

Lv:2…調合部屋増設

Lv:3…錬金部屋増設

Lv:4…鍛冶設備レベルアップ

Lv:5…調合・錬金設備レベルアップ

Lv:6…全設備レベルアップ

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『泉』

Lv:1…泉設置/イワシ、アジ放流

Lv:2…サケ、サバ、カレイ、ヒラメ放流

Lv:3…タコ、イカ、アサリ、ハマグリ、シジミ放流

Lv:4…エビ、カニ、ホタテ放流

Lv:5…マグロ、カツオ、タイ、サンマ放流

Lv:6…アワビ、カキ、ウニ放流

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「おおう…なんか色々とスゴイな、これ。作業小屋なんか、1回も使ってないのに"全設備レベルアップ"とかしてるし…あと泉で今ならカキとかウニとか釣れるんだ?」


 それと現在、思い出したように筋肉痛がやってきている。仕方ない、今日は1日ゆっくり過ごそう。




 *




 そして、翌日。体調が万全になったので、私はついに作業小屋での鍛冶をすることにした。鉱石は自分で作れるので、材料には事欠かないはずだ。いざとなったら箱庭ポイント交換もあるし。

 そして、私が最終的に作りたいのはアクセサリーなので、鍛冶と言っても作るのは小さな部品だ。だけど、《鍛冶》スキルのレベル上げも兼ねて、最初はスタンダードな剣を量産していこうと思う。なお《鍛冶》スキルは箱庭ポイント交換で200Ptで交換した。


「よし、始めるか」


 まずは魔力を凝縮させて鉱石、今回は鉄を作る。それから炉に火を入れて、《鍛冶》スキルのアシストに従って、鉄塊を鋳溶かしてカンカンしてゆく。専門用語なんぞ知らん。とにかくカンカン叩いて剣の形に整えてゆく。あまり暑くないので、この作業にもゲーム的な要素が多分に含まれているのだろう。…ほら、なんとなく刃の部分が出来上がったら、何故か勝手に柄の部分も出来上がったし。


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『鉄のつるぎ

・鉄製の剣。

・良質な鉄が使われているため、それなりに頑丈。

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「なるほど…これはネタ的に『銅の剣』から作るべきだったかな?まあいいか」


 これから、この『鉄の剣』を量産していきますよ。




 数時間後。『鉄の剣』を30本ほど量産した辺りで、休憩を入れることにした。なお作った剣は全て『売却』タブから売り払ったのだけど、1本あたり100Ptで売れた。…うん、本来はこうやってポイントを貯めていくんだろうな。私の場合は、種族特性のお陰で楽に稼がせてもらってるけど。

 《鍛冶》スキルのレベルは3まで上がった。ここから先は『鉄の剣』では上がらなそうなので、今度は『鋼の剣』を量産していこうと思う。


 そして、さらに数時間後。《鍛冶》スキルのレベルが5まで上がった辺りで切り上げて、少し遅めの昼食を摂った。

 そのあと、再び作業小屋に戻った私は、魔力を凝縮させて新たな鉱石…魔法銀ミスリルを作った。これは、私が身に付けるアクセサリーの土台に使うつもりだ。


「というか、アクセサリーって"彫金"とか"細工"のイメージなんだけど…『スキル』タブには無いんだよね」


 どうやら《鍛冶》に一緒くたに纏められているらしい。私が作りたいのは主に宝石の土台と、ネックレスの鎖なんだけど…《鍛冶》スキル曰く、何故かこれもカンカンして作るようだ。うーん、ファンタジー。


「とにかく、まずはデザインを決めよう」


 考えていたのは、真ん中に円形の宝石をあしらって、周りを楕円形の宝石で囲む、花のようなデザインだ。花弁となる楕円形の宝石は8個で、これらの宝石にはそれぞれ能力強化を付加する予定。

 ちなみに、真ん中の宝石はルビーにするつもりだ。あとの8個は…上から時計周りにサファイア、アクアマリン、エメラルド、ペリドット、シトリン、マンダリンガーネット、モルガナイト、アメジスト、となる予定だ。ようは、青色、水色、緑色、黄緑色、黄色、橙色、桃色、紫色の宝石達だ。


 そして作り出した宝石達がこちら。


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『幸運のルビー(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くルビー。

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『幸運のサファイア・魔法強化(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くサファイア。

・所持者の魔法を強化する力を持つ。

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『幸運のアクアマリン・治癒能力強化(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くアクアマリン。

・所持者の治癒能力を強化する力を持つ。

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『幸運のエメラルド・身体能力強化(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くエメラルド。

・所持者の身体能力を強化する力を持つ。

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『幸運のペリドット・魔法強化(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くペリドット。

・所持者の魔法を強化する力を持つ。

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『幸運のシトリン・身体能力強化(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くシトリン。

・所持者の身体能力を強化する力を持つ。

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『幸運のマンダリンガーネット・状態異常回復(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くマンダリンガーネット。

・所持者の状態異常を回復させる力を持つ。

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『幸運のモルガナイト・体力回復(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くモルガナイト。

・所持者の体力を徐々に回復させる力を持つ。

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『幸運のアメジスト・魔力回復(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くアメジスト。

・所持者の魔力を徐々に回復させる力を持つ。

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 途中、付加効果が思い浮かばなくて"魔法強化"と"身体能力強化"を2つずつにしてしまったけれど、まあ良いだろう。

 それから、これらの宝石達に合うような土台と鎖を作ってゆく。小さいハンマーでカンカンすると、あら不思議、ジャストサイズの土台と鎖が出来ました。…ほんと、ゲーム的だなあ。助かるけど。

 宝石を土台にはめ込んで、鎖を通して、と。はい、完成!


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『幸運の宝石花(ネックレス)』

・カーバンクルの力で作り出された宝石を贅沢にあしらったミスリルのネックレス。かなり強い幸運を招く力を持つ。

・次の付加効果を持つ:魔法強化、身体能力強化、治癒能力強化、状態異常回復、体力回復、魔力回復、魔法抵抗力強化

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 《鑑定》結果は以上の通りだった。宝石に付けた覚えのない"魔法抵抗力強化"という付加効果は、おそらくミスリルを使用した結果現れた効果なのだろう。なかなか良いものが出来たじゃない?派手だけど、大きさはそこまで大きくないし、普段は服の下に隠しておくから問題ないよね。


「まだ《調合》と《錬金》には手を出してないけど…一応これで、お外に行く準備はできた、かな?」


 …ああ、そういえば剣と槍とメイスを『初心者』シリーズから変えてないな。あとは服装も、まともな物を交換しないと。あと、料理も多めに作ってインベントリに入れておいて…。


「はあ……お外行くの、怖いなあ」


 これに尽きる。なんせ私は絶滅危惧種の宝石精霊族カーバンクルだ。絶対に危険な目に合うと思う。


「でも、お肉は食べたいんだよなあ…」


 外界に出て魔物を狩らないと、肉は手に入らないのだ。野菜、果実、魚介は『箱庭』で手に入るけれど、やっぱりお肉が食べたい。

 私は結局、準備を万端にして行くしかないのだ、と結論を出したのだった。



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