第3話 三日目




 『箱庭』生活3日目の朝。私は起きて早々に箱庭ポイント交換の『スキル』タブを眺めていた。目的のスキルは、《解体》とか、そんな感じの…具体的に言うと、魚を捌けるようになるスキルを探している。


「うーん………あった、《解体》!」


 "生き物の解体をアシストするスキル"…なるほど?これで魚も、ついでに魔物も解体できそうだね。レベルがあるスキルだから、魔物の前に魚で鍛えておかないと。500Ptで交換、と。


 ということで、今日のメインは釣りです。釣り糸を垂らしている3分間は暇なので、魔法の訓練をやります。…つまり、昨日に引き続きエンドレスループです。

 確か今の段階の泉で釣れるのは、イワシ、アジ、サケ、サバ、カレイ、ヒラメだったよね。私はいま猛烈にサーモンのお刺身が食べたい。是が非ともサケを釣らねば。


「さてと…釣るか」


 泉の畔に椅子を持ってきて座り、箱庭ポイント交換の『雑貨』タブで交換した釣り竿を構え、糸を泉に垂らす。なお釣り竿は消耗品扱いなのか50Ptで交換できた。

 糸を垂らしてから3分経ったのか、ぐい、と釣り竿が引いた。引き上げるのにはテクニックなどは特に必要ないらしく、上に持ち上げるように引っ張るとすぐに、泉から魚が飛び出してきた。ただ、釣り上げてすぐに魚はインベントリに入ってしまったので、インベントリを開いて釣果を確認する。今回釣れたのは……


「アジかー…なめろうとかも美味しいよねえ。サケが釣れなかったら、今夜はアジのなめろうにしようかな」


 よし、次行ってみよう。




 *




 あれから、私は昼食時まで釣りと魔法の訓練に励んだ。お蔭さまで現在の泉で釣れる魚を全種類釣れたので、お昼は『イワシの南蛮漬け』を作って食べた。サーモンのお刺身は夕食の予定だ。


「美味しかったなあ、イワシ…ご飯にも合うし、野菜も摂れるし。良いよね、南蛮漬け」


 『箱庭』産の野菜達は美味しいし、同じく魚も美味しかった。『箱庭』スゴイ。神様ありがとう。


 そして午後、本日は釣りをすると決めたので、再びのエンドレスループに入った。でも今回は早めに切り上げて、魚を捌く練習をして《解体》スキルのレベルを上げようかな。そのためにも、たくさん釣らないとね。


「単純計算で、3時間で60匹釣れる訳だから、ノルマは60匹だね」


 3時間後からは、キッチンでひたすら魚を捌くことにしよう。




 〜約3時間後〜


「よし、これで60匹目。やっと終わったー」


 釣りのノルマを達成して、私は泉から離れてマイホームへと戻った。少し疲れている気がするけれど、まだまだ外は明るいので予定通り《解体》スキルのレベル上げをしようと思う。

 そういえば、箱庭レベルアップのお陰で、キッチンも広くなっていた。設備も豪華になっていて、ダイニングスペースも広がっている。

 さて、魚を捌いていくぞ。《解体》スキルのアシストに従いながら、1匹ずつ丁寧に捌いてゆく。最初こそガタガタだった切り口も、スキルレベルが上がっているのか段々と綺麗になっていくのが面白い。

 ちなみに今回釣った6種類の魚ーーイワシ、アジ、サケ、サバ、カレイ、ヒラメーーは、みんな一定の大きさだった。というか、知っているよりもだいぶ大きかった。よく釣れたな自分、と言いたくなるような大きさだった。でも、この"獲れるものが一定の大きさ"なのは、『箱庭』産の作物でも同じだったりする。まあなんというか、そういう仕様なのだろう。

 あとサバなどに付く寄生虫(アニサキスとか)については、こと『箱庭』産の魚に限ってはいないようだった。これも仕様なのかもしれないな。


 やがて今日釣った全ての魚を捌き終えると、私はステータスを確認することにした。魔法の訓練も頑張ったし、《解体》も頑張ったので、スキルレベルがどれだけ上がっているか楽しみだ。


「ステータスオープン」


ーーーーーーーーーーーーーーー

名前:ヘルミーナ

種族:宝石精霊族カーバンクル

性別:女性

外見年齢:15歳(実年齢:0歳)


基礎Lv:1

保有魔力:128500/128500


『所持スキル(アクティブ)』

《水魔法》Lv:8 《火魔法》Lv:6 《風魔法》Lv:6 《土魔法》Lv:6 《光魔法》Lv:6 《闇魔法》Lv:6 《時空魔法》Lv:3 《無属性魔法》Lv:6 《瞑想》Lv:5


『所持スキル(パッシブ)』

《魔法効率化》Lv:5 《魔力回復力上昇》Lv:5 《魔力制御力上昇》Lv:6 《解体》Lv:5

ーーーーーーーーーーーーーーー


「おお…魔法系スキルも《解体》も、だいぶ上がってるね。でも《時空魔法》はやっぱり上がるのが遅いなあ…」


 《時空魔法》は、《結界》というその名の通り"無色透明な結界を作り出す"魔法を使ってレベル上げをしていたのだけど…《時空魔法》自体が高難度のスキルなのだろう、レベルの上がり方が遅かった。


「でも念願の《転移》の魔法を覚えたし、そんなに焦らなくとも良いかな」


 そう、時空魔法がレベル3になった時に、私は《転移》の魔法を覚えたのだ。これは"行ったことのある場所に空間転移する"魔法で、どうやら異空間にあるらしき私の『箱庭』へ入るにはこの魔法が必要らしかった。これでお外に行ってもすぐ帰って来れる、と思うと安心感が段違いだ。

 ただし、すぐに外へと出て行くつもりはない。前にも考えていた通り、武術系のスキルを覚えてレベルを上げたり、箱庭ポイント交換で武器を手に入れて扱いに慣れてから、外界へと出るつもりだ。


「まずは使用する武器を決めよう」


 基本的には魔法戦闘をするつもりだから……長杖とか?いや、それだと攻撃力が低すぎるか。メイスは…扱いはそこそこ簡単そうだけど、打撃武器か…候補のひとつに入れておこう。何も武器種を1種類に絞ることはないものね。でもメイスがメイン武器は無い。見た目的に。

 やっぱりここは無難に剣かな?槍も捨て難いけど…よし、どっちも練習しよう。


 という訳で、箱庭ポイント交換の『スキル』タブで《剣術》《槍術》《戦棍術》を各200Ptで交換してみた。それと『武器・鉱石』タブで『初心者の剣』『初心者の槍』『初心者のメイス』を各100Ptで交換した。

 今日はもう遅い時間なので、武術の訓練を始めるのは明日からだ。ちなみに訓練する場所はマイホームの裏手にある拓けた場所だ。たぶん、元々そういう用途で作られていたんだと思う。妙に広いし。


「まあ、それは良いとして。そろそろご飯を食べようかな」


 待望のサーモンのお刺身ですよ。白米と味噌汁も用意したけど、アジのなめろうも結局作ったので、本日は生魚三昧の夕食です。

 いただきます!




 はい、飯テロキャンセル。大変美味でございました。さて、あとは金策、じゃないポイント策をしてから寝るだけだ。

 自分に《クリーン》を使ってから寝間着の白いワンピースに着替えて、寝室に向かう。ベッドに腰掛けたあと、宝石を作るために手の平を上に向けた。

 でも今日作るのはルビー(小)ではない。保有魔力が10万を超えたので、『幸運のルビー(中)』を作ってみようと思っているのだ。


「中くらいのルビー、形はいつもの楕円形で…、!」


 いつもより多くの魔力が抜けていった、と思ったら、手の平の上に直径3cmほどもある紅い宝石が載っていた。いや、サイズ大きくない?ルビー(小)は直径5mmくらいだったよ?

 と、とりあえず《鑑定》してみよう。


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『幸運のルビー(中)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くルビー。

・『幸運のルビー(小)』と比べて、幸運を招く力が強くなっている。

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「これで中サイズなのね…ていうか後半」


 ちなみに、ルビー(中)を作るのに要した魔力は3万ほどだった。あれ?……ちょっと《瞑想》して魔力を回復させよう。

 イメージが"中くらいのルビー"だったから『幸運のルビー(中)』が出来たのだろう。つまり、イメージを少し変えて…


「魔力10万で作れるサイズのルビー、形はいつもの楕円形で……、ええっ!?」


 手の平の上に載っていたのは、なんと拳大の紅い宝石だった。しかも心なしか、紅が濃い気がする…。


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『幸運のルビー(極大)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くルビー。

・最大かつ最高品質のため、かなり強い幸運を招く力を持つ。

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「…これ、売らずにアクセサリーにでも加工して、自分で持っていた方が良いのでは?」


 ちなみに『売却』するとポイントはいくらになるのか、な……!?


「いっせんまんぽいんと…??」


 …見なかったことにした。なお、『幸運のルビー(中)』は10万Ptで売却できたので、そちらは売り払った。

 それにしても…宝石精霊族カーバンクルが狙われる理由が実感できたなあ。そう思うのに、気になったことを試さずにはいられないのだ。

 私、額の宝玉が紅いから『ルビー』をイメージして作っていたけど、他の宝石も作れるのかな?なんて。とりあえず《瞑想》して魔力を回復させてから、ちょっと試してみたいと思う。


「小さめのサファイア、形はいつもの楕円形で……おお」


 出来てしまった。魔力消費はルビー(小)と同じく10000ほどだ。《鑑定》結果はというと…


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『幸運のサファイア(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くサファイア。

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 こうなっていた。これ、"幸運"以外の効果とか付けられたりするのかな?それもイメージしてみるか。まずはルビーで試そう。


「小さめのルビー、形はいつもの楕円形で、持たせる効果は"魔法の強化"」


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『幸運のルビー・魔法強化(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くルビー。

・所持者の魔法を強化する力を持つ。

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 出来てしまった。でも"幸運を招く"力はデフォルトっぽいね。じゃあ、次はルビー以外の宝石で効果を追加できるか試してみよう。


「小さめのエメラルド、形はいつもの楕円形で、持たせる効果は"身体能力強化"」


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『幸運のエメラルド・身体能力強化(小)』

・カーバンクルの力で作り出された幸運を招くエメラルド。

・所持者の身体能力を強化する力を持つ。

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 これも出来た。宝石精霊族カーバンクルの特殊能力ヤバイな。あとで欲しい効果を持たせた宝石をいくつか作って、ひとつのアクセサリーにして持っておこう。自己強化は必要だよね。

 ちなみに、私がいつもイメージしている"楕円形"って、確か地球では"カボションカット"とかって呼ばれていたはずだ。でもイメージしやすいのが楕円形なので、今後もそうやってイメージしようと思う。他の形については…必要に駆られたら頑張ってイメージしよう。私、宝石のカットの名称なんて詳しくないし。


 明日からは武術系のスキルのレベル上げもするけれど、まだ手をつけていない作業小屋での鍛冶や細工などもしたいな。やりたい事が多いのは楽しいことだけど、一気にやろうとすると疲れるから少しずつやっていこう。

 じゃ、今日はもうおやすみなさい……ぐぅ…。



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