11.(幼少期編)侍女



「質問に答えて下さい! 私が聖女ワン・グランプリで落選したのはなぜですか」


 王宮で開催されている聖女ワン・グランプリが、もう終わろうとしている時です。


 私が退屈にしている時、王宮の審査会場の舞台袖で、係員に詰め寄っている出場者らしい令嬢の声が聞こえてきました。



 王立学園の初等部である私は、審査委員長である第一王子の婚約者であるシャルトリューズです。


 二つにまとめた銀髪を揺らし、来賓席から離れ、舞台袖の様子をのぞきに行きます。



 怒っているのは、中等部の生徒にも見えますが、金髪の美人なお姉さんです。


 清楚な服装であり、今年の聖女ワン・グランプリの審査内容を知らずに来た出場者ですね。


 今回から、聖女に必要な光魔法の素質を見ないで、聖女をイメージした可愛いコスプレ、可愛いらしい顔立ちを審査するようにと、内容が大きく変わっています。


 侯爵である、私のお父様も、声に気づいて近寄ってきています。



「それは、私が、お話します」

 私は、偉そうに、割って入ります。


 前回優勝者であり、第一王子の婚約者、そして女侯爵です……けど、初等部の令嬢です。



「すべては、あの第一王子がクソだからです」


 私の発言に、お父様が慌てています。


「聖女を発掘するイベントなのに、まがい物の聖女を選ぶ審査内容、全てが、第一王子が可愛い令嬢を見つけるためというのは、婚約者である私は許せません」


 私は怒っています。



「そうですよね、この内容は、聖女を侮辱しています」

 出場者の令嬢も怒っています。


「二人とも、こちらに来なさい」

 お父様も怒っています。あれ?


    ◇


 人気のない廊下に出ました。


「公然と王族を批判すると、侮辱罪で王都を追放される、分かっているのか」


 お父様の説教が始まりました。


「公然ではありません、舞台袖です」

 興奮している私は、反論しました。


 母親を亡くしたためか、娘が男の子のように育ってしまったと、お父様は嘆きます。



「落選した私は、もう故郷に帰るしかありません。どっちにしろ、王都からは出ていきます」


 出場者の令嬢も、引きません。


「じゃじゃ馬が2人も……あっ」

 お父様が口を滑らし、私たちから、にらまれます。



「わかった、この令嬢には私から説明するから、シャルトリューズは来賓席に戻りなさい」


 お父様が、困り顔で説得してきました。




「どうかしましたか、侯爵」


 人通りの少ない廊下でしたが、すっかり回復した第二王子のノア君が通りかかり、声をかけてきました。


「いや、第二王子様の手を煩わす話ではありません」

 お父様は、冷静に対応しています。


 でも、私は、同級生でもあるノア君を少し見て、ドキドキしてしまいます。


 ノア君も、私を少し見て、視線を下に落としました。


 出場者の令嬢は、こんな私たち2人を見て、薄く笑っているような気がします。



「わかりました」


 しょうがないので、納得したフリをして、会場の来賓席に戻ることにしました。



    ◇



 数日後、お父様の執務室に呼ばれました。


 私の侍女が、出産のため、屋敷を離れるという話です。


 私は、型通り、出産をお祝いする言葉を述べました。


 侍女は王宮から派遣される女性文官ですが、彼女は母のような存在でもあったので、内心は寂しいです。



「シャルトリューズには、新しく専属の侍女を雇った」


 お父様が、これまでにないことを言いました。


 初等部の私には、少し難しくて、ポカンとします。


 第一王子の婚約者である私の侍女は、国王陛下が女性文官の中から選び、屋敷に派遣されるのが、通常です。


「侍女を、侯爵家で直接雇う。これからは、定期的な侍女の交代はない。まぁ、シャルトリューズのお小遣いは、少し減るがな」


 笑って説明してくれました。



「紹介しよう。新しい侍女だ」

 扉から入ってきたのは、あの出場者の令嬢でした。


「よろしくお願いいたします。シャルトリューズお嬢様」

 彼女のカーテシーは、上級貴族並みに美しいです。



「ありがとう、お父様」

 私は、彼女に抱きつきました。


「こらこら、ここは旦那様に抱きつくべきでしょ」

 彼女がツッコミました。私を抱きしめながら。



    ◇



「彼女が来てから、屋敷の中が明るくなりました。私は、姉が出来たようで、とてもうれしいです」


 お父様とのディナーの時も、話が弾みます。


「これは思わぬ宝物を拾ったものだ」


 お父様も喜んで、自分のアゴを撫でています。


「宝物? どういうことですか、お父様」


「い、いや、シャルトリューズが王妃になったら、彼女は王妃の筆頭侍女という、最高の地位に就けるということだ」


 お父様がアゴを撫でています。



「はい、私は、王妃様になるよう頑張ります」


 お父様が何がうれしくて喜んでいるのかわかりませんが、とりあえず、優等生らしい返事をしておきました。



    ◇



 私が初等部を卒業するまでは、彼女が一緒に寝てくれる、そんな約束を交わしました。


 今夜は、眠りにつくまで、恋バナで盛り上がります。


「私は第一王子とは結婚しないの。これ内緒よ」

 第一王子の婚約者である私が打ち明けます。


「私が結婚するのは、ク……」


 なんだか、彼女は薄く笑ったような気がしましたけど、私は、秘密の名前を明かす途中で、眠りについてしまいました。




(次回予告)

 王太子がルーに結婚を迫り、断ったら第一王子と婚約しろと? ならば、教わった新技で……

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