第11話:九尾の狐伝説。

小春は呉服問屋の嫁に付き添ってる女は九尾の狐だと一平太に話した。


さすがの一平太も九尾の狐の言い伝えくらいは知っていた。


九尾の狐または九尾狐(きゅうびこ)と言って、中国に伝わる九本の尾を

もつ狐の霊獣または妖怪であるが、そののち日本にも渡って来ている。


有名どころでは鳥羽上皇に仕える女官となった玉藻前たまものまえが、

その美貌と博識から次第に鳥羽上皇に寵愛されるようになる。


しかしその後、上皇は次第に病に伏せるようになり、陰陽師・安部泰成が

その原因が玉藻前の仕業だと見抜き、玉藻前は九尾の狐となって宮中から逃げるが

上皇は討伐軍を編成して三浦介義明、千葉介常胤、上総介広常を将軍に、

陰陽師・安部泰成を軍師に任命し、九尾の狐が逃げた那須野へと軍勢を派遣して

九尾を倒したと、そう言う話。


一平太もにわかには信じがたかったが、小春が長屋に来てから妖怪の類が増えて

ような気がしていた。


いや、それは小春のせいではなく、今までは妖怪が市中を徘徊していても

人間や一平太に見えなかっただけ、知らないだけだったからだ。


もしかしたら今までの事件も、すくなからず妖怪が絡んでいたかも知れなかった。


一平太と小春は早速、呉服問屋にでかけてみることにした。

一平太ひとりでもよかったが、神通力のある小春がいてくれたほうが心強かった。


今や、一平太には小春がいることが普通になっていた。

あの、吉岡藩のせがれが起こした辻斬りの事件以来、ふたりはいろんな事件を

解決していた。


小春と組んでから、ふたりの犯人検挙率はほぼ100%だった。

小春さまさまの一平太だった。


それと同時に一平太の心に小春を愛おしいと思う気持ちが芽生えていた。

結婚とはいかないまでも、一生を小春と過ごしてもいいと思っていた。


小春は最初っから一平太に惚れて、ついてきたんだから一平太の好意的感情に

なんの不服もなかった。


一平太は小春が人間の娘だと思ってますからね・・・。


もし一平太が小春の正体を知ったら・・・このあたりが非常に切ないところでも

あるんですが・・・。


さて呉服問屋に着くと、藤兵衛が出迎えてくれた。


若旦那と嫁と付き添い女はでかけているらしく、店はなんとなく、みすぼらしく

見えて客もおらず ガランとした状況だった。

藤右衛門も、どこかやつれている様子だった。


嫁が店に入ったら、付き添い女は帰っていくのかと思っていたらちゃっかり店に

居座ってしまって、奥方より偉そうに、店を差配なんかしていたらしい。

そのせいで奥方は病にふせてしまったそうだ。


「邪魔するぜい・・・」


「あ、、旦那・・・ようこそ、お越しくださいました」

「あいにく息子と嫁はでておりまして・・・」

「やはり旦那の言ったとおり、あの嫁は疫病神なんじゃないでしょうか」

「ですが、息子があの嫁にぞっこんでして、私の言うことなど聞く耳持たずで、

放蕩三昧です 」


最初は旦那の話を半信半疑で聞いていたんですが、まさかこんなことに

なってるなんて・・・ 。


「そうですかい・・・」

「このままじゃ店ごと乗っ取られて、しまいにゃ奥方の命も危ないかもしれねえ」


「あっしはね、この目で見たわけじゃねえんだが、この小春は不思議な神通力を

持ってて、それで、あんたんちの嫁が妖怪だって見抜いたんだよ」


「にわかには信じられないような話だけどな」


「いえいえ、このような状態になってみて、そのことが本当のことだろうって

よく分かります」


「でも一平太さん・・・お嫁さんと付き添いの人がいないんじゃ・・・」


「そうだな・・・また出直しってところか・・・」

「まずは、あんたんちの嫁と、お付きの女の正体をあばかなきゃいけねえな」

「話はそれからだ・・・」


つづく。

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