第7話:小春の膝枕。
「お〜見えたぜ・・・俺にも見えた」
「けっ、バレちゃしょうがねえ・・・」
そう言うと、とりもっこはアカンベーして逃げて行った。
「おそらくこれで、この若侍は大丈夫でしょう」
「まさかね・・・妖怪なんているんだな・・・俺が知らないだけだったんだ」
これでますます一平太は小春兄妹の神通力を信じるようになった。
「それより、この若侍どうするかな・・・」
「小春・・・俺こいつを見張ってるから悪いが、お前、新兵衛の旦那を
呼んできてくれねえか?」
「あ、それなら私が行って来ましょう」
「小春の足より私のほうが早いですからな・・・」
一平太は吉右衛門が走って中山新兵衛を連れてくるもんだと思っているが
新兵衛は思った場所に瞬時に移動できる神通力を持っているのだ。
それは小春も同じだったが・・・。
半時ほどしてようやっと新兵衛が現れた。
だいたいのことは吉右衛門から聞いてきた新兵衛は上屋敷に若い侍を
連れて若年寄のところに談判に行った。
いくら藩の偉い人の関係者だとしても人殺しは人殺し、そんな罪を
見逃していては町の平和は保てない。
小吉を切った若侍は吉岡藩の若年寄 立花 種次のせがれだった。
せがれが人を殺した下手人と知って種次は自分にも責任があると
覚悟を決めたらしい。
立花 種次は人のできた侍だったのが救いだった。
せがれのしでかした罪をもみ消そうとせず、自らもお上に隠居を申し出た。
立花家にお咎めはなくせがれ、の処分だけでことは終わった。
「今回は小春のおかげで早く事件が解決したよ」
「いつもならもっと手こずるんだけどな」
「新兵衛様にも褒めてもらったし・・・」
事件が早く解決したことでそのあとは一平太と小春はヒマをしていた。
「なあ、小春、天気もいいこったし、ちょいと釣りでもいくか?」
「きれいか?釣り・・・」
「私は一平太さんとなら、どこでも・・・」
「じゃ〜行くか、二匹釣って帰ったら晩飯のおかずになるしな」
ふたりは少し足を伸ばして上流の魚がいそうな溜まりまで歩いて行くと
釣り人が何人かいた。
そこならゆっくり釣り糸を垂れていられそうだった。
緑の木々の間から木漏れ日が差し込んで心地いい景色の中で小春は
自分にとって大切な時間を過ごした。
小春は草むらの上に風呂敷を自分が座る場所に敷いてそこにおかしこまりで
座った。
すぐ横で一平太が釣り糸を垂れた。
事件が起きると忙しくなる一平太にはたまにはこういうのんびりした時間が
貴重なのだ。
小半刻、釣り糸を垂れていたが一向に引く気配がない。
「釣れないね・・・」
「そういう時もあるさ・・・」
「果報は寝て待て・・・あわてたって魚は釣れねえよ」
そう言って一平太は横にいる小春の膝にゴロンと寝転んだ。
「そう言や〜膝枕なんかやってもらったことないな」
「いいな膝枕って・・・」
「言ってくれたらいつでもしてあげるよ膝枕」
一平太が小春に膝枕をしてもらったので木々の間から青い空が見えた。
「ほらよ、今日はいい小春日和だぜ」
「夕方になったら冷え込むかもな・・・」
「あまり寒くならねえうちに切り上げて、けえろうか、小春」
「そうですね・・・」
そう言って小春は一平太のほつれた髪を直した。
「一平太さん・・・危険な事件もあるから気をつけてくださいね」
「私、ものすご〜く心配してるんですよ・・・」
「無茶して、くれぐれも怪我だけはしないでくださいね」
「・・・・・・・・」
「分かりました?・・・聞いてる?」
「ねえ、一平太さん・・・」
「ねえ、聞いてる?」
「一平太さんってば・・・」
一平太は小春の膝に癒されて寝息を立てていた。
うたたねしたくなるような小春日和。
鈍感な一平太には小春の気持ちはなかなか伝わらないが、それでも小春は
一平太といられるだけで幸せだった。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます