第6話:妖怪とりもっこ。
「え〜い知らんと言っておろうが・・・」
「あまりしつこいと手打ちにいたすぞ・・・」
「おっと、物騒なこと言っちゃいけませんや」
「たとえお侍でもやっちゃいけないことってあるんですぜ、旦那」
侍は何も言わず刀を抜いた。
「さすがに自分の屋敷の前で人を切るのはまずいでずぜ旦那?」
「え〜いっ、やかましいっ!!」
そういうと侍は一平太に斬りかかってきた。
「おっと、タダで着られるわけにはいきやせんや」
小春は思わず飛び出していた。
「一平太さん、その人妖怪に取り憑かれてるよ」
「よ、ようかい・・・なに言ってんだ小春」
「妖怪なんているわけねえよ・・・」
「間違いないって・・・取り憑かれてるから正気を失ってるだよ」
「なんで妖怪が取り憑いてるって分かるんだよ」
「人間からは出ない、すっごい妖気を感じるもの・・・」
「一平太さん気をつけてね?」
「おいお侍・・・あんた妖怪に憑かれてるんだってよ」
「いい加減なことを言うな、岡っ引き」
「お〜っと俺を切ったら、三河町の橋の上で小吉をやったのは自分だって
白状してるようなもんですぜ」
「問答無用!!」
そう言うと侍は二の太刀を一平太にあびせた。
一平太もだてに岡っ引きをやってるわけじゃないが、どうやら侍の方が
腕は一枚上のようだった。
「一平太さん、誰か呼んでこようよ」
「一人じゃ勝てないよ」
「そうだな・・・このままじゃ不利だな」
「油断してたら俺も明日の朝にゃドブ川に浮いてるかもな・・・」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないって」
一平太は十手を構えて応戦したが、屋敷の塀までじわじわ追いやられた。
もうこれでダメかと思ったその時、どこからか飛んできた石つぶてが
侍の肘に当たった。
侍が怯んでると木の影からもう一人、恰幅のいい侍が出てきた。
「お兄ちゃん・・・」
小春が叫んだ。
お兄ちゃん呼ばれた侍は昼間、小春に会いに来た吉右衛門狸だった。
吉右衛門は一平太をいましも切ろうとした侍に刀を抜いて応戦した。
「いらざる殺生を見逃すわけにはいかんな」
「貴様、何者だ・・」
「誰でもよい」
「え〜い、貴様も岡っ引きと一緒に死ね!!」
そう言って侍は吉右衛門に斬りかかった。
その太刀を、はねのけた吉右衛門はすかさず侍の頭巾を切り飛ばした。
頭巾を切り飛ばされた侍は顔を覆ったが・・・瞬間に見えた顔は、
また若い侍のようだった。
続けて吉右衛門の太刀が侍の肩に一撃くらわした。
「みねうちだ・・・人は切りたくはないからな」
若い侍は刀を落としてガクッと膝を落とした。
その隙に一平太は縄で若い侍をぐるぐる巻きに縛った。
「すいやせん、どこのどなたか知りやせんが助けてくださってありがとう
ございやした」
「一平太さん、どこのどなたじゃなくて・・・」
「私のお兄ちゃんだよ・・・吉右衛門って言うの」
「え?お兄ちゃん?・・・小春って天涯孤独じゃなかったのか?」
「私には、お兄ちゃんがふたりいるんだよ」
「それがし小春の兄でござる・・・自己紹介があとになって申し訳なかった」
「いえいえ、とんでもねえ、お兄さんは俺の命の恩人でさあ」
「それにしても小春にこんなつええ兄貴がいるなんて思わなかったよ」
「ごめんね、こんな怖いお兄ちゃんがいるって言ったら長屋において
くれないと思って・・・」
「一平太殿・・・小春がご迷惑かけているようで申し訳ない」
「どうか今後ともよろしくお願いしますよ」
「えへへ、頼まれちゃったよ」
「あ、そうそう忘れるところであった」
「このものに取り付いている妖怪を祓ってやらねば・・・」
そういうと小春の兄は、なにやら呪文を唱えて若侍の頭を3回ほど叩いた。
そうすると一匹の妖怪が若侍から抜け出てきた。
「あ、やっぱり、とりもっこだ・・・」
小春が、こそこそ逃げてく妖怪を指差した。
そいつは「とりもっこ」って言う妖怪らしい。
こいつは心が弱ってる人やよこしまな考えを持ってる人を好んで取り憑くらしい。
普通は妖怪の類は人間には見えないんだが吉右衛門に呪文を唱えられた
ことで姿を現したので一平太にもそいつがはっきり見えた。
つづく。
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