第2話:一平太について行く小春。
「あ〜名前は、小春さんか?・・・小春ちゃんでいいかな?」
「俺は小春ちゃんを見るのは今日がはじめてだけど・・・」
「まあ、いいわ・・・」
「若い娘がこんなところにいたら物騒だぜ」
「はやく家にけえんな」
あまり関わらないほうがよさそうと思った一平太は小春を置いてさっさと
帰ろうとした。
すると小春は一平太の袖をつかんで引っ張った。
「なにしてんだよ・・・離しな」
「一平太さんちについて行ってもいいですか?」
「私、帰るところも行くところもなくて・・・」
「え〜行くところがないって?」
「困ったね」
「父ちゃんと母ちゃんは?・・・」
「いません・・・」
「私、を連れて帰ったらきっと一平太さんのお仕事のお役に立てると思います」
「俺の商売知ってて言ってるんだよね」
「危ないことがつきものだぜ」
「盗賊とか人殺しとか、そんな連中ばっか相手にしなきゃいけないからさ」
「とても小娘には向かない商売だと思うけどな?」
「大丈夫です、私不思議な神通力があるんです」
「二・三日前くらいに起きた出来事でも時間を遡って、そこで起こった残像が
見えるんです」
「だから人が殺された現場に行けば、犯人が誰か分かりますよ 」
「ね、私を連れて帰ったら、あっと言う間に事件解決です」
「そんな馬鹿な・・・そんなことにわかには信じがたいと思わねえか? 」
「まあ、もし小春ちゃんにそんな力があったら俺にとっちゃあ、この上ない
美味しい話だけどよ・・・」
「だいいち俺、神通力とか超能力とか信じないタイプだし・・・」
「それにさ、どこの娘さんかも分からない娘を勝手に連れて帰ったりしたら
それこそ誘拐になっちまうだろ?」
「私は立派に成人してますから、大丈夫です」
たしかに小春は二十歳になったばかり。
「そんなこと言われてもね〜」
「そりゃまあ、小春ちゃんが俺んちに来てくれたら飯とか洗濯とか
してくれちゃうと助かっちゃうけどね 」
「先も言いましたけど、私、家もないし行くところもないんです」
「ね、連れて帰っても徳はあっても損はないでしょ」
そう言われると、そこはそれ、打算的になるわけで・・・。
「しかたねえな・・・じゃ俺んちへ来るかい・・・小春ちゃん」
「はい、お願いします」
「そうさな、小春ちゃんを連れて帰ったら絶対近所の連中が騒ぐに決まってる
からな」
「さしずめ、あんたは俺の従兄弟?・・・ってことにしとくかな」
「本当のことなんか言った日にゃ〜何言われるか分かったもんじゃねえからな」
「え?彼女じゃいけないんですか?」
「そんなこと言ってみろよ、天と地がひっくり返るくらい大騒ぎになるよ・・・」
「世間ってそんなもんだよ、小春ちゃん」
「小春って呼び捨てでいいです」
「従兄弟ってことなら・・・呼び捨てのほうが自然でしょ」
「お、そうか・・・そうだな」
「じゃ〜小春・・・帰るか」
「はい」
そういうわけで、狸の小春は一平太の世話になることになったのです。
岡っ引きと神通力を持った小春狸のコンビがここに誕生したのです。
つづく。
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