小春日和 ・不思議草子。〜残像のゆくえ・満月の攻防〜
猫の尻尾
第1話:小春と一平太。
昔は狸に化かされたと言う話をよく聞いた。
宴会にお呼ばれして散々酒を飲んでいい気分で帰ってくる途中、綺麗な
お姉さんが現れて「おいで、おいで」をするので、いい気分でついて
いったら、いつの間にか朝まで草むらで寝てしまっていた、なんて話。
さて・・・とある神社に立派なクスノキが相当数あって、
その中でも「一番楠」と呼ばれる天然記念物のクスノキがある。
その根元に楠神社と言う小さな祠があって、ここに祀られてる狸がいた。
この祠の狸は娘の狸で吉右衛門狸と太一郎狸と言う兄がいて三兄妹の末の妹と
され狸族の名門と言われた。
人間で言うなら、この妹狸は、ええ氏のお姫様ってことになる。
そして、この祠の妹狸はただの狸じゃない。
仙山に住む何千年も生きてる狸をご先祖さんに持っていて動物園とかにいる
普通の狸とは格が違っていた。
ちなみに末の妹の狸の名前を「小春狸」といった。
小春は人間にはない不思議な神通力を持っていた。
「あ〜腹減った」
岡っ引きの一平太は年の頃なら25歳、なかなかの男前だったが未だ嫁も
もらってない甲斐性なし男だった。
それは夕方、一平太が南町奉行所から帰る途中にある神社の前を通った
時のことだ。
ふいっと見ると神社の 一番楠のあたりで、こっちを見ている町娘が
いるじゃないか。
一平太は、その少女が気になって足を止めると、誘われるように神社の
境内に入って行った。
近くまで行くと、町娘は、はにかみながらこっちをじっと見ている。
実は一平太は一週間前、この神社の前を通った時イノシシに追いまわされて
いる狸を助けてやったことがあった。
実のところ、一番楠のところに立っていた町娘は一平太が助けた、その狸が
町娘に化けていたわけで・・・それが小春。
助けてくれた恩返し・・・というより狸は一平太に 一目惚れ・・・
恋をしてしまったのだ。
それで町娘に化けて一平太に近づこうと一番楠のところで待っていたのだ・・・。
その町娘を見て一平太は
「可愛い・・・」
「舞妓にでもしたら超売れっ子になるだろうに・・・」
そう思った。
そのくらい狸の小春は可愛いかったのだ。
「あんた・・・娘さん、こんなところで何してるんだい?」
「あなたを待ってました」
「・・・・・」
「あはは・・・」
「冗談・・だよね?」
一平太はこの子は唐突に何を言ってるんだと思った。
今まで女に声をかけられたことなんか、これっぽっちもなかっただけに・・・。
「あんたと俺、どこかで会ってる?」
「私は一平太さんを何度も見てますよ」
「そうなの?」
「俺の名前、知ってるんだ・・・」
「知ってますよ、岡っ引きってことも、ごきぶり長屋に住んでることも、
現在、独身・・・彼女いない歴五年・・・六年かな? 」
「そんなことまで?」
「へ〜油断も隙もあったもんじゃねえな・・・」
「でも全部、当たってるよ・・・六年だけどな、彼女いない歴」
「あんた、あんたこそ、名前は?」
「私・・・小春です」
つづく。
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