第13話
ジロウはお母様のところで私を下ろしてくれた。お母様に近付こうとしたけと、怒られるかもと足が止まる。
《マリ、甘えればいい》
頭の上のトラ丸は簡単に言うけど、どう甘えていいのかがわからない。前世の私は両親に甘えた記憶がない。そして、マリーナも両親に甘えたことがない。
手を伸ばせば届く距離なのに……遠く感じる。
「カカナお母様、私……」
「気にしなくていいのよマリーナ。あのダメ殿下はいつまで自分のした事がわからず、私の可愛いマリーナを傷付けるのかしらね」
両手を広げ、お母様は私を抱きしめてくれた。
ああ――温かい。お母様の腕の中って、こんなにもフワフワで気持ちがいいんだ。
「お母様ぁ……」
私はお母様に抱きつき、しばらく腕の中でワンワン泣いていたのだけど……辺りが冷え冷えしてきたように感じる。あんなに温かかったお母様の胸の中が寒い?
まさか? ヒェ――お母様が、静かにキレていらっしゃるぅ!!
「お母様、カカナお母様、落ち着いて! そうだ! お母様みてください」
頭の上にずっといたトラ丸を掴み、お母様に見せた。
「マリーナ、それは聖獣じゃない? 何処で手に入れたの?」
「えーっと、話をすれば長くなりますが……」
元々は魔法大国クエルノからの、殿下へのプレゼントだったと。ジロウの風で何処からか飛んできて、私にくっつき、こうなったと説明した。
お母様は一瞬呆気に取られ、フッと笑った。
「あの、おバカな殿下よりも、ウチの子が"聖獣の卵"と"聖獣様"に好かれた。オホホホホ――! あのおバカに聖獣はまだ早すぎですのよ!」
「お、お母様! ここ一応、王城です」
慌てて止めたのだけど、お母様は。
「別にいいのよ、私の可愛いマリーナに向かって酷いことばかりおっしゃる殿下が悪いのです! それを止めることをしない、甘々なあの方達はもっと悪い!」
あの方達ってまさか、国王陛下と王妃⁉︎
すぐ、カカナお母様の口を止めなくては! 不敬罪になる!!
私はお母様に抱きついた。
「マリーナ、カカナお母様のこと大好き。マリーナ、ずっと言いたかったの」
「きゃあ――! ウチの子が一番可愛い! 誰があんなおバカな殿下の婚約者にさせるものですか! さあ、帰りましょうマリーナ」
ここにいてはウチのマリーナが"けがれる"と、お母様に背中を押された。
「え? お母様、お仕事は?」
「別に、ここに居なくてもいいのよ。何かあったら魔法省から連絡がくるわ。それにしても可愛いブタさんの聖獣様ね」
ブタさん……
《ワシはブタではない!》
《クク》
《笑うなぁ!》
「ジロウ、意地悪やめて! 違いますお母様トラ丸はブタさんではなく、可愛いネコです!」
そう、福々して――モフモフで可愛い!
お日様の香りで、お腹が一番モチモチでいいはず!
まだ、触ったことないけど……
「まぁこの子、ネコだったの? そう、トラ丸と言うのね、これからマリーナをよろしくお願いするわ」
トラ丸の頭をナデナデした。
《ああ! ドーンとワシにまかせろ!》
胸を張るトラ丸。
(フフ、トラ丸……お母様にトラ丸の声聞こえてないと思うけど、まっいいっか!)
お母様とジロウに乗らず、私とトラ丸と一緒に馬車に乗って屋敷へと帰ったのだった。
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