第10話

 おお――ここが王城の庭園かぁ。乙女ゲームで何度も通った王城と庭園はゲームと同じ、数々のバラが咲く見事な庭だった。


《ジロウ、綺麗だね》

《ああ、ここは昼寝にもってこいの場所だ!》

《昼寝かいいね、そこの芝生の上とか良さそう》


 ジロウと呑気な会話をする私たちの周りの、他の令嬢、令息は両親に「しっかり、デリオン王子に挨拶しなさい」と言われて緊張している。それもそうだろう、今日の誕生会はデリオン殿下の婚約者決めと、側仕え――側近を決める誕生会でもある。


《大変そうだね》

《お嬢も、その中の1人だぞ》

《あ、そうだった》


 乙女ゲームを見ている感覚、部外者のような気分だった。


《まったく、お嬢は面白いな》


 今私とジロウはみんなに気付かれないよう、念話と言うものをしている。ここに着く前に人気のないところで、ジロウの魔法で口に出さず、会話をできるようにしてもらった。


 方法はジロウのオデコに私のオデコをくっ付ければOK。ジロウのオデコはフワフワして気持ちよかった。


「庭園にデリオン王子がいらしたわ」

「今日も素敵ね」

「早く挨拶したいわ」


 誰かのあげた声にみんなはこの庭園に現れた、デリオン殿下を見つめる。この乙女ゲームのヒーローの彼は、金髪と碧眼の瞳――黒い軍服を着ていた。


 殿下は用意された、パラソルの下の席についた。


 ――か、可愛い!


 男らしい学園のデリオン殿下より、まだあどけなさが残る、子供のときを見られるなんて幸せ。あの可愛らしさからカッコよく、男らしくなるのね。


《ここで見ている。お嬢、挨拶に行ってくるといい》

《うん、行ってくる》


 殿下にプレゼントと挨拶をするために、令嬢と令息の列ができている。私もその列に並ぼうとして、殿下と瞳があった。


 その瞳は大きくなり、キッと私を睨んだ。

 まさかのまさか……嫌われている? そう瞬時に思ったのは。前世、両親とその恋人にあのような瞳で睨まれたことがある。


「そのジンジャー色の髪! お、お前は宰相の娘マリーナ嬢だな!」


「はい……そうです。カッツェ公爵の娘マリーナです」


「やはりお前か……ら、乱暴者マリーナめ。お前は僕に近付くな!」

 

 乱暴者――マリーナ。

 デリオン殿下はマリーナにそう言い放った。


 その殿下の一言で周りは。


「あんなにデリオン王子に嫌われているとも知らずに、来るなんて」

「いくら宰相の娘だからと言っても、乱暴者だからな」

「デリオン王子と乱暴者は嫌よね」

「早く帰ればいいのよ」


 私へ心も無い罵声を浴びせた。


 言われることはわかっていた……目の前で言われると傷付く。私はプルプル震え、手を握りしめていまにも出そう涙を止めるようと――歯をギリッと食いしばった。


 その私の横に、ジロウが歩いてきて止まった。ジロウは周りを見つめ、ため息をつくと。


《人間どもはバカだ! ボクは姉さんに頼まれてマリーナをズッと見てきたが、先にバカにしたのはお前達の方だ。マリーナから手を出したことは一度もない!!》


 ジロウの怒りの声が聞こえて、庭園に立っていられない程の突風が吹いた。

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