第9話

 昼食を早めに軽く取り、デリオン殿下の誕生会の準備をはじめた。ドレスの色はリボンの少ない薄水色、髪型はいつものポニーテールにサイド編み込みを入れてもらった。


「マリーナお嬢様、どうでしょうか?」


「わっ、かわいい! ありがとう、パレット」


 姿見の前でくるりと回った。


(こんなに可愛かったら、乱暴者って言えないでしょう! ……多分)


 パレットが下がり、私は屋敷の前で待っていた御者の手を借りて馬車に乗り込み、今から1時間半かかる王都に1人で向かう。


(少し怖いけど、王城にはお父様もお母様もいる)


 デリオン殿下のプレゼントに、ウサギの刺繍を入れたハンカチも持ったし、キレイなドレスと髪型も決まった。


 ――行くぞ! 王城へ!





 屋敷から何事もなく、1時間半かけて王都についた。王都に入る門を抜けて、中央にそびえ立つ王城へと向かう私が乗る馬車の前には、何台もの馬車が並んでいた。


(これら全て、デリオン殿下の誕生会に向かう馬車なの?)


 あまりの場所の多さに、交通渋滞に驚くしかない。馬車を操縦する御者は中と繋がる小窓を開け「お嬢様、もうしばらくお待ちください」と言った。


「ありがとう。この馬車の数だもの、気にしなくていいわ」


 御者はこの渋滞で、私が退屈して暴れないか心配したのかも。だが、もう前のように暴れたりしない。自分が乱暴になればなるほど周りは私を嫌い、私への対応がキツくなるはず。


 そうなれば、あの日見た夢なように騎士達に捕まるかも知れない。デリオン殿下との婚約破棄後。国外追放ならまだいいが、牢屋行きとかは避けたい。


(他の乙女ゲームでたくさん悪役令嬢の悲惨な……婚約破棄後の後日談を見てきたもの)


 ただ何事もなく両親とジロウ、使用人達とのんびり暮らしたい。結婚は婿養子に入ってくれる人がいれば、誰でもいい。


「マリーナお嬢様、王城に着きました」

「は、はい! ……ここまで、ご苦労様ありがとう」


 乗る時と同じく御者の手を借り降りた。周りの馬車からは着飾った私と同じくらいの子供が降り、両親と手を取り中へと入っていった。


(庭園の場所が分からないし、後について行けばいいかな?)


 その家族の後について行こうとしたが、城への入り口に、お母様の聖獣"ジロウ"が待っていてくれた。


《お嬢、庭園まで案内する》


「あ、」


 私の"ありがとう"の言葉は、ジロウによって止められる。どうしてか分からず、首を傾げた私に。


《今、ここでお嬢が普通に話すと、変に思われるぞ》


 周りを見ると他の貴族がジロジロ私を見ていた、そしてヒソヒソ話が聞こえてきた。


「あの子、カッツェ公爵家のマリーナ様じゃない?」

「あの乱暴者の?」

「マリーナ様も、デリオン様の誕生会にお呼ばれしたのね」

「誕生会で、暴れないといいが」


 マリーナの酷評が飛ぶのは仕方のないこと。前のマリーナはそうだったけど――今のマリーナはそんなことしない。


「行きましょう、ジロウ(小声で伝えた)」

《ああ、行こう》


 私は微笑んで会釈して、ジロウの案内で庭園に向かったのだった。

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