第7話

 お母様の執務室で「ごめんなさい」と大泣き。隣のカルロは慌て、お母様は何も言わず私を見つめていた。ワンチャンに至ってはいつの間にか側にいて、私の頬をペロッと舐めた。


《お嬢、落ち着くのだ》


「そ、そんなの落ち着けないよ……私、悪いことしをしたの」


「マリーナお嬢様、俺は平気ですので、泣かないでください」


 カルロは「大丈夫」だと、私の頭を優しく撫でてくれた。


「カルロ、マリーナを甘やかさない」

「はい、奥様」


「マリーナ、悪い事をしたと分かったのですね。いまのあなたはそれがわかり、反省もしています。二度としないと言えますか?」


 冷え冷えしていた部屋の温度が戻る、お母様の怒りがおさまったのかな? 私は両手で涙を拭きコクコク頷いた。


「二度としません」


「よろしい。あなたはカルロのヤケドを治したのですよね。どうやって治したのでしょうか?」


 カルロのヤケド?


「それが、わからないのです……泣きながら、謝っているうちに金色の光に包まれ……気付いたら、ベッドに寝ていました」


「そう、金色の光ね。いま出せる?」


「え?」


《ハァ? 姉さん、いきなりですか?》


 アレを出せと言われて出せるものなの?

 それに、アレは私が出したのかもわからない。


「お母様、無理だと思います。あの時の光は私が出したのかわかりません。もしかすると、カルロが出したのかも」


 本当にあの時、ほんとうに何が起きたのかわからない。カルロの大ヤケドを見て、自分のしでかしたことに驚き、泣き喚いていた時に光ったのだから。


「そう……一度調べなくてはなりませんね。もう一つ、私の相棒のジロウが見えている?」


「ジロウ? あ、もしかして、ここにいるドーベルマンみたいな犬の事ですか? 君の名前はジロウと言うのね」


《そうだ、お嬢、よろしく頼む》


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ジロウとの会話を見ていた、お母様は執務机から立ち上がり私の肩を掴んだ。


 ――え、お母様? どうしたの? そんな怖い顔をして。


「あなた、ジロウと会話をできるの?」

「え? お母様はジロウと出来ないのですか?」


 まずい、出来ないのが当たり前だとすると、マリーナはおかしな子だと思われる?


「あの――」


「マリーナ、すごいわ! ジロウは"今"なんて言っているのですか?」


《お嬢、腹が減った》


「お母様、ジロウは「お腹が空いた」と言っています」


 ウンウン。

 他には? 

 お母様の瞳がキラキラ、少女の様に輝く。


《……喉も乾いた》


「喉が渇いたとも言っています」


「そうなのジロウ。いま、ご飯の用意するわ! マリーナは話があるのでここにいなさい。カルロは戻ってゆっくり休みなさい」


「は、はい、奥様」


 お母様はウキウキしていて、カルロは慌てて立つと、礼をして執務室を出て行った。2人が出ていくと、ジロウは私が座るソファーの横にドシっと座った。


《お嬢、撫でてくれぬか?》


「え、あなたを撫でてもいいの?」


《いいぞ、ただし優しくお願いする》


「わかった」とジロウの頭を撫でる、フワフワで触り心地が良い。


「ん~、ジロウはフワフワだわ。気持ちいい!」


あねさんが毎日、ブラッシングをしてくれるからな。それと、お嬢……さっきの小僧にワシの姿は見えていないぞ》


「カルロに、ジロウの姿は見えていなかったの?」


《ああ、ボクは特別な存在だからな》


 クククッと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る