プロローグ②

 私はテーブル席で、柔らかいローストビーフに舌鼓を打っている。


「シェフ、ローストビーフおかわり!」


 何度目かのローストビーフのおかわりの最中、会場内がざわつきはじめた。舞踏会への入場口に立つ騎士、役員があわたたしく動き出し、役員の凛とした声が会場に響いた。


「第一王子デリオン・ロベルト様と男爵令嬢リリア・マロン様の入場です!」


 遂に主役が来た、婚約破棄のときがはじまる。


 私は婚約破棄を受けるためにテーブル席から、乙女ゲームと同じ位置、会場の真ん中へと移動した。そんな私の前に並んで立つのは、この乙女ゲームの主役の2人だ。


(さすが、美男美女ね)

 

 婚約者の私が現れたことで、デリオン王子は鋭い瞳を向け、第一声を上げた。


「公爵令嬢マリーナ・カッツェ。今宵、お前との婚約破棄を言い渡す」


 私はそれに打ち勝つように王子見据え。

 王子と私の視線が花火を散らす。

 

(これよこれ、夢の中だけど迫力があるぅ。なんだか、私も乗ってきた!)

 

 悪役令嬢マリーナのようにクスリと笑い、ドレスの胸元から扇子を出して広げると顔を隠した。


「まあ! 公爵令嬢のわたくしと婚約破棄ですって? そんなことをして、デリオン殿下はわたくしの家からの支援がなくなっても、良いのかしら?」


(よしよし、長いセリフだけどゲームの台本通り言えたわ)


 乙女ゲームのデリオン王子は公爵カッツェ家から、多額の資金が提供されていた。そのお陰で彼は学園だけでは学べない、学問、魔法などを多く学べている。


 私の言葉に眉をひそめた王子だが、フッと笑い。


「笑わせるな、あんな端金などすぐに返してやる! もう貴様らからの支援など要らぬ、これからは自分の力だけで学ぶ!」


「自分の力で学ぶですって? あらあら、ぽっと出の男爵の子にうつつを抜かす、あなたが何をご自身で学ぶというのかしら? ……オホホホホ、デリオン王子は滑稽なことをおっしゃるのですわね」


 数年後。王子は独学で学び、自力で資金を作り立派な国王となる。まぁ、この乙女ゲームの設定上だけど。


 この発言に王子は顔を真っ赤にして、腹立ちを表した。


「私が滑稽だと……貴様、いずれ王太子となる私を侮辱するとはな、マリーナ嬢、許さんぞ! 貴様は私の大切なリリアを傷つけた!」


 嫉妬をしたマリーナが乙女ゲームで「男漁りに来たあなたが勉強ですって?」とヒロインの教科書を捨てたり「淑女としての礼儀がないわ」「複数の異性に近づくなんて……恥を知りなさい」と、ヒロインを罵る。


「あら? わたくしは男性の後ばかりを追う、彼女に真実を申し上げただけですわ」


 この言葉に王子も思うところがあったのか、言葉を詰まらせた。


「うっ、その減らず口が幼い頃から嫌いだった。貴様と婚約破棄だと言ったら破棄だ!」


「……破棄ですか? その物言い、まるで駄々をこねる子供のようで、まったく話にならない。この婚約破棄の話はお父様と相談の上で決めます。提供したお金を全て返していただかないといけませんので」


 最後のセリフを言ったあと、私は乙女ゲームと同じように会場を出ようとしたのだが。何故か、大勢の騎士達に囲まれた。


(何? ゲームとは違う進行?)


「貴方たち邪魔ですわ、そこを退きなさい!」


 退場して、私の役は終わりなはず。


「待て、私自身が君の父上、宰相殿と話をする。貴様は私を侮辱した罪、大切な人を傷つけた罪――貴様は不敬罪だ! 国王陛下にもそう伝えた。誰かこいつを牢屋にぶち込め!」


「「かしこまりました!」」 


「ち、ちょっと待ちなさい! こんな場面、この乙女ゲームにはないわ。離してわたくしに触らないで! ここから退場して私の役は終わりなの!」


 マリーナの出番はここで終わりだった。

 だが、騎士に捕まる私を見下ろし、デリオン王子は首を傾げて。

 

「場面? 役? なに、わけなわからない事を言っているんだ。お前は罪人だ! 牢屋の中で数年? いや、一生反省しろ!」

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