第5話 砂漠の町のポワゾン・ロゼ(5)

 アイネスは陽も落ちて真っ暗になった砂漠の一本道でハンドルを握っていた。外は漆黒の闇。車載スピーカーからモバイルフォンの呼び出し音に続いて、しわがれ声の男の通話音声が流れ出した。


「しょうもないトラブル起こすから予定が狂ったじゃないか」

「私だってもう少し居られると思っていたわよ。居心地のいい街だったのに残念だわ」


 運転を続けながらアイネスは応じる。道はどこまでもまっすぐだ。背後の町はとっくにバックミラーごしの暗闇に埋もれていた。


「だったらもう少しおとなしく穏便に収めておけよ。連邦捜査官の一人や二人、ぶっ殺して砂漠に捨てといたほうが時間稼げたんじゃないのか?」


 アイネスは薄く唇を歪めた。


「おとなしくもないし、穏便でもないことをさらっと言って。それも命令なの? そんなことしたら二、三日もしないうちにもっと大騒ぎになるわよ。で、私は次はどこに行けばいいのかしら?」


 ハンドルを握りながらそっけなく応じる。トランク一つの荷物を載せて、車は西へと向かう。バックミラーには無限の暗闇だけだった。


「変更なしだ。六カ月後にコリンズビル・シティセンターの四十九階のオフィス。時間厳守だ。遅れたら殺す」

「冗談だとしたら笑えないわね。それまではどこで何をしてろと?」

「死なない程度に好きにしてろ」


 埃を白く巻き上げるチェロキーのエンジン音が唸り続ける。

 アイネスは切れ長の目を少し伏せた。


「そうさせてもらうわ。ふふ、次の町にはどれぐらい居られるかしらね」


   

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砂漠の町のポワゾン・ロゼ ゆうすけ @Hasahina214

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