第2話八年ぶりの再会
朝、目覚めてふっと窓の外を眺めると一筋の光の先で虹がかかっている。
昨夜は雨でも降っていたのか…。
早朝から幸運な気持ちで胸が一杯になるとすぐに身支度を整えた。
家を出て電車に乗り込むとスマホを手にする。
目覚めてからは自分のことばかりだったが、やっと外の世界と繋がるツールを手にして通知を確認していた。
桃園若菜から連絡が届いており僕はそれに目を向ける。
「随分大人っぽくなっていたね。昨日は数分ほどしか話せなかったけど。また皆で会おうね」
それに了承の返事をして次の通知に目を向けた。
「再会するまでの八年間の思い出を今度話そうね。皆色々とあったと思うけど…私達も桜井の空白の八年間の思い出を埋めたいから」
栗林菜々子からの通知を目にしてそれにも返事を送ると次の通知に目をやった。
「待っている間に気持ちばかりが大きくなっていって…私も他の二人も我慢の限界だったはずだよ。やっと再会できて…普通に桜井の実家に顔を出して連絡先を尋ねればよかったんだけどね。なんだろう…劇的な再会を心では望んでいたのかも…」
柿田白菊からの気持ちを表明するような通知を目にして僕は少しだけ彼女らに対して申し訳ない気持ちになってしまう。
僕自身も行動に移して彼女らの連絡先を入手すればよかったのだ。
けれど大学生活や社会人生活に追われて殆ど蔑ろにしていたのだ。
充実した学生生活や社会人の忙しい毎日で彼女らとの甘い思い出さえも遠く彼方の記憶だと忘れ去っていたのだろう。
だが今日からは違うのだ。
僕らは再び出会えてここからまた何かが始まる予感を覚えて…。
花見の日から一週間が経過した次の休日に僕らは会う約束をしていた。
この一週間の間も連絡を取り合っていたのだが平日は仕事に追われて僕らは会うようなことはなかったのだ。
やっと休日が訪れて僕らは八年ぶりにまともに顔を合わせることになる。
休日のランチタイムでしか提供しないメニューが有るおしゃれなレストランを予約した僕は先んじて目的地へと向かっていた。
彼女らは三人揃って来るらしくグループチャットでやり取りをしている。
僕はそれに返事をするわけでもなく眺めているだけだったが、どうやらもうすぐ目的地に着くようだった。
六人掛けの完全な個室で彼女らを待っていると遂にその時は訪れた。
「久しぶり。皆大人になったね」
彼女らの格好や容姿を目にして変わったところや未だに変わらない部分を目にして思わず笑みが溢れた。
全くの別人に変わっていたら僕らは再会しても気付かなかったかもしれない。
けれど彼女らは昔の面影も少なからず携えていて僕は少なからず安心していた。
「
桃園若菜は苦笑交じりにそんな言葉を言うと僕の隣に腰掛けた。
栗林菜々子と柿田白菊は僕らの対面に腰掛けると鞄を自席の後ろに置いた。
「皆はアルコールって飲めるの?」
栗林菜々子が全員に問いかけるので僕は不思議に思ってしまう。
「あれ?皆は会ってなかったの?」
僕の問に答えをくれたのは柿田白菊だった。
「うん。誰かが麟とまた再会できたら…その時に全員で会おうって約束していたんだ」
「へぇ〜。何で?あんなに仲良かったんだから…寂しくなかった?」
「寂しかったよ。けれど依存的な関係だって皆薄々気付いていたから。自立するために一度離れたんだよ。悪い意味じゃなくて。いつかまた独り立ちした自分で皆に会いたかったってこと」
「なるほど。本当に皆大人になったんだね。学生時代を知っているからなんか不思議だわ」
全員に目を向けてそんな感想のような物を口にすると彼女らも苦笑する。
「それで?どうするの?飲む?」
桃園若菜が栗林菜々子の質問を再び掬い上げると僕らに尋ねてくる。
全員一致で飲むという決断となり僕らはランチタイムのコース・メニューをいただきながら飲食を開始するのであった。
食事の最中に僕らは八年間であった、お互いが知らない思い出を話して聞かせていた。
順番にと言うよりも話したい人が自然と話しをしていき二時間ほどの長い食事の間で僕らは大まかだが皆の思い出を聞くことが出来た。
皆共通しているのは恋愛が出来なかったということだろうか。
その理由を尋ねるような野暮な人間はここには存在しなかった。
皆自分自身の気持ちに気づいているのだ。
けれどまだ言えない。
八年間溜め続けていた思いを爆発させるのはかなり大変だった。
僕もだし皆だってそうだろう。
この複雑で歪な形をした想いを彼女らにぶちまけるのはかなりの労力やエネルギーが必要だと思われる。
このまま昔のようにただの仲良し幼馴染で終わっても良いのではないだろうか。
そんな消極的な気持ちさえ僕の心の片隅では存在していると言える。
でも…。
このままではいけないと全員が何処かで感じているのだろう。
食事が終わっても席を立とうとする人間はここにはいなかった。
もっと一緒にいたい。
もっと話をしていたい。
もっと相手を感じていたい。
そんなことを全員が共通して感じているようだった。
でも直接そんな気恥ずかしい言葉を口にする人もいない。
複雑な雰囲気に包まれたまま僕はどの様にこの現状から殻を破ることが出来るかを考えていた。
ふっと思い浮かんだ言葉を何気なく口にしたことによって、ここから物語は大きく変わろうとしていたのであった。
「家来る?」
下心があったわけではない。
久しぶりの再会で話も尽きないであろうと思われた僕らに場所を提供する為に口にした言葉だった。
彼女らは僕の言葉をどの様に受け止めたのかは定かではない。
けれど全員一致で僕の家に来ることは決定したのであった。
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