心霊伝染
ボウガ
第1話
霊感のある女性Aさんのお話。まだ若い頃に、バンギャをやっていた。あるアマチュアバンドを追いかけまわしていた。ボーカルのBがイケメンで、人柄もよい。だが、Bは背後にいつもとっかえひっかえ違う女の生霊を従えていて、多くの人から恨まれている、異常に好かれている事は理解していた。
AさんとBは、はっきりとした関係ではなかったものの、それなりの付き合いをしていて、Aさんは、彼との関係をはっきりさせたいと思っていた。一方でその話を切り出そうとするとかわされてしまう。
もともと生真面目な生活で、知的で物事をはっきりさせたいAさんは、あるときBに勢いよく迫ったのだという。
「はっきりしてよ!!」
その時Bは、
「そんなにいうならハッキリ言ってやるよ!!お前にはもう飽き飽きだ!!」
結局、そういわれてショックを受けたAさんは、しばらくバンドから離れていたが、それでもあきらめきれず、また彼のバンドを見るようになっていた。
その頃にはファンの間で妙な噂がたっていた。BさんにAさんが彼に付きまとっているとか、もとから厄介で距離感を間違えて迫っていたとか、あることない事いわれていたのだ。あるとき、出待ちをして、それとなくBさんに聞いた。
「どうして?私あなたをつきまとってなどいないわ」
「嘘つけ!!俺だってこの目でみた、お前が、俺のアパートの前でずっとたってるのを」
「え?そんなわけ」
Aさんは、Bさんに説明した。気分転換に仕事を変えようと、しばらく地元に帰っていたのだ。その頃の写真などをみせてBさんを説得すると、Bさんはたじろいで、そのまま立ち去ってしまった。
「私、生霊を飛ばしてしまっていたのかな……」
バンドに関わらなくなってからしばらくたったあと、Bさんからバンド活動をやめて、まっとうな仕事に就いたと連絡があった。バンドに熱中したあまり、バイトだけでフリーター生活が長く続いていたらしい。
なれない生活で疲れているし、話もしたいから合わないか、と言われて、Aさんは喜んで彼とあった。飲み屋をはしごし、最後はAさん宅。それからまた彼と復縁して、しばらく付き合っていた。だが、彼との復縁を喜ぶ一方で、妙な感覚にも悩まされていた。何か、彼と会うたび、彼との関係が深くなるたび、体が重く、だるくなっていく。
そんな時、もともとの彼のファンで友人のCさんから連絡がきた。
「あんた、一人だけ抜け駆けしたわね!!でもこの写真をみなさいよ!」
Aさんは送られてきた写真をみた。それはBさんが他の女と遊び歩いている様子だった。
「バンドがうまくいかなかったからって、血迷ってあんたなんかと付き合ってるみたいだけど、結局うまくいかないわよ!!」
もともとCさんがBさんを好きだったのをしっていたAさんはまずいな、と思ったが放っておいた。だがAさんは、その数日後、交通事故にあって右足を骨折した。Bさんは何かを悟ったのか、しばらくAさんとは関わらず、見舞いにも来なかった。
あるときCさんがニコニコしながら病室にやってきていった。
「久しぶり……この裏切りもの、私ある霊能者に、呪い返しを頼んだのよ……あんたの生霊は、Bの事を深く憎んでいたみたいだからね、そういう生霊はもう呪いと一緒だから、あんたに報復できるって聞いたわ」
「生霊?」
そうか、と思った。Aさんやファンが身に覚えのない場所で自分の姿をみたといっていたが、見間違いとかでなく、やっぱりあれが生霊だったのか。と
「それであんた、事故にあったってわけ、じゃあね」
立ち去ろうとするCさんに尋ねる。
「ねえ、その霊能者私にも紹介してくれない?Bの私物をひとつあげるから」
Aさんは我ながらすごい事を聞くなあと思ったというがCも何を思ったのかその霊能者を紹介してくれた。
Aさんは霊能者の連絡先を聞くと。すぐに病院に招いて、霊能者に相談を持ち掛けた。相談したいことがあったのだ。
というのも、Aさんは事故にあったときの事をよく記憶していた。その時霊感によって、自分を襲ってくる幽霊をみたのだ。一人二人じゃない、複数人だ。連絡すると、三日後に霊能者がきた。しわしわの年配の女性だった。挨拶してから、じーっとAさんの事を監視している。
「あの、相談があるんです」
「ふむ……」
「Cは呪い返しのせいっていうけれど、違いますよね?私が事故にあった原因、なんなんです?」
しばらくだまっていたが、霊能者はしぶしぶAさんの言う事を聞き、
「ああ、そうだ、まあ、金さえもらえればそれなりの事をするが、おままごとの様な事だってしなきゃ、生きていけないからねえ……“呪い返し”なんて演技だ」
霊能者は、皺皺の手をAさんの肩やら、腕やらにあてて、ふとめをつぶった。そしていった。
「あんた、付き合っている男に、色々なものをプレゼントされているね」
たしかにAさんはBさんと復縁してからというもの、様々なものをBさんから受け取っていた。もう過剰なほどに
「それが原因だよ、それに、他の女の念がこもっている……きっと、他の女からのプレゼントだね……もてる男で、いろんな貰い物や、遊んだあとにもらった送りものを、あんたに渡してたみたいだね、きっと悪い念がこもっているって理解していて、あんたを“ゴミ箱”代わりにしているよ、普通にすてるより、いいと知っている……あんたは霊感が強いが、霊がとりつきやすく、引き寄せやすいようだねえ」
彼女は霊能者によるお祓いを受けると、みるみるうちに回復し、医者も驚くような速度で退院をした。そして家に戻ると、霊媒師に言われたものを、紹介された寺にもちよりお焚き上げをしてもらった。すると、霊の体のだるさ、重さがすっとなくなった。
しばらくするとCからこんな連絡がきた。
「Bはバンドに復帰するってさ、あんたの付きまといにこまってたってさ、ファンの間でも厄介なファン、ストーカーだって噂になっているよ」
Aさんはため息をついた。
霊媒師でも寺院でも
「悪い人と関わるのはやめなさい」
といわれたが、言われる前から決意していた。女と遊び歩いているのはそういう人間だから仕方ないと許しても、人からもらったものを、粗雑に扱ったり、Aさんが入院したのに心配もよこさない彼に嫌気がさしたのだ。
それから、Aさんは考えを改め、好きな異性のタイプも変わった。今では、まじめでおちついた男性と幸せな家庭を築いているという。
心霊伝染 ボウガ @yumieimaru
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