第23話 兄茂の妻恵子の正体

 


 1965年4月私立の難関校の門をくぐった神崎亮。


 高校1年生の亮は私立の雄「滝水高校」に見事合格して未来に大きな夢と希望を抱いて意気揚々と高校生活を送り出した。


 入学早々ハンサムボーイの亮の周りには、たちまち女の子が集まって来るようになった。それも……まるで亮を取り囲むように女子達が集まっていた。


 チョットハ-フっぽい、目鼻立ちのハッキリした顔立ちと小顔に高身長の亮は、校門の前に姿を現しただけでも遠く離れた校舎から、一目で分かるくらいオーラ全開の目立つ男子だった。


「亮君本当にカッコイイ!」


「でも……私達じゃ相手にして貰えないわね。まぁ遠くから眺めるだけにしておきましょう」


「本当!本当!手が届かないわね」


 そんな女子から絶大な人気を誇る亮では有ったが、そんな女子には目もくれず寄りによって地味で目立たない女子に近付いた亮。それは……亮にとってはとっても気になる女子だったからだ。 


 いつも片隅にひっそりと世捨て人の様に目立たない様に、それも……いつも暗い表情の女の子。


 一体何故?


 それでも…何故そんな冴えない暗い女の子に目が行ったのかという事だ。


 実は…優しかったお手伝いさんにそっくりだったからだ。残念なことにそのお手伝いさんは若干48歳でガンで亡くなっていた。


 母が病弱だった為に、末っ子で甘えん坊だった亮は寂しさを紛らわすために、よくお手伝いさんのトキについて回ったものだ。


 するといつもどんな時も仕事の手を休めて絵本を読んでくれたり、鬼ごっこをして遊んでくれたりして、母以上に濃密な時間を過ごしていた。そんな優しかったトキをその少女を見ると思い出されて、恋しくてならないのだ。


 決して美人でも無い冴えない女の子だが、それでも……チョットした仕草や態度に懐かしいトキの思い出が蘇えり、ついつい近付いてしまうのだった。


 見た所によると……随分貧乏そうな生活環境に置かれた少女である事は直ぐに分かった。


 どんな理由が有るのか分からないが、人の噂では叔母さんの家にお世話になっているらしく、お弁当もちゃんと作って貰っていない様子。かといってパンを買って来て食べる様子も見受けられない。気の毒な話だ。


 あんなに優しかったトキを思うにつれ、この少女とトキがオーバ-ラップして、放って置けない思いに駆られた亮だった。 


 こうして…お弁当も持参していない様子に可愛そうに思い、こっそり後ろの席に回ってワザとアンパンを由香里の席の机の上に落として見た。


「あっ!これッ!」


 小さい声で「あっ落としちゃった。まぁいっか?君にやるよ!」

 それは見るに見かねての大芝居だった。


 いつしか同情心からこっそりでは有ったが、この少女由香里に近づいていた。

 亮にすればあんなに優しかったトキが、一瞬でも帰って来てくれた錯覚に囚われ由香里といると幼少期の楽しかったトキとの時間に戻れるのだった。


 だが、残酷な事にこの近藤由香里ちゃんは、60年余り前に曾祖母を亡き者にした仇の近藤家の末柄だった。


 亮は60年余り前のエリさん殺害事件は聞かされていた。

 半世紀以上前と言っても、父はハッキリその惨状を目の当たりにしていた。だから近藤家に対する並々ならぬ恨みはある。


 何故曾祖母があんな悲劇に見舞われなければならなかったのか?


     ◇◇


 最初のうちは何も知らずにトキの生まれ変わりに会うことが出来る喜びで一杯で亮自ら由香里に近づいた。こうして…由香里と友達としての付き合いが始まった。


 やがてこの「滝水高校」きっての美少女山口恵子と接する事になった。それは……恵子が由香里の小学校からの友達だったからだ。


 恵子は華やかな容姿に加え秀才で男子生徒の憧れで尚且つ高根の花で、手の届かない存在として崇められる存在だった。


 やがて……隣りのクラスの恵子も加わり3人は登下校も一緒の時が多くなった。

 そんな穏やかな日々の中、ある日…恵子の異常行動を目の当たりにする事となる。

 それは、今日明日に始まった事では無かった。以前から繰り返されていた行為だった。あんなに優しい恵子が、亮がいない時に限って行われる異常行為。


 サディストでもいうのか、由香里を支配して罵るのだった。どうも恵子の父親が校長先生らしいが、権力を振りかざして家族を日常的に罵倒し暴力を振るっていたらしいが、逆らうことが出来ずにそのうっ憤を弱い由香里で晴らしていたらしい。


 だが、亮は恵子のあの優しく美しい仮面の裏側をとうとう見てしまった。


 その日は絵画クラブだったが、思いの外早く描けたので家路を急いでいると、いつも3人で立ち寄る公園に、まだ2人恵子と由香里が居た。


 近づいているにも拘らず興奮状態の恵子はその辛辣な口を塞ぐことは無かった。


「由香里はなんで私の言う事が聞けないの?私言ったでしょう。お昼も食べないで我慢するなんて本当にバカ!何で叔母さんに言えないの……お金頂戴って……」


「だって……だって……そんな事言ったら…ウウウウッ(ノД`)シクシク……私……行くところ無くなっちゃうワァ~~ン😭ワァ~~ン😭」


「だから……バカなのよ……叔母さんの財布からお金を抜き取りなさいよ!ひもじそうで……汚らしい由香里なんか大嫌い!いつも暗い表情で……フン!辛気臭くて見ちゃいられないのよね!ハッキリ言っとくわね。お金を抜き取りなさい。分かった?」


 陰に隠れて見ていた亮は恵子の思いがけない一面に、友達の由香里がお腹を空かせて可愛そうに思い言っているのは分かるが、それにしても……度が過ぎる恵子には血の気が引く思いがした。だが、こんな恵子だが3人の時は至って優しい。


 ※サディスト:相手に苦痛を与えて喜ぶ人。残酷好きな人。


 こんな一面の有る恵子の度重なる言動にある時事件が起きる。









 





 




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