第21話 由香里殺害犯
1977年5月某日早朝、名古屋市熱田区の公園や民家の敷地内で見付かったバラバラ遺体殺害事件。調べを進めていくとその遺体は神崎兄弟の弟で神崎亮の遺体である事が判明した。
早速、愛知県警による特別捜査本部が設置され、凶悪事件の陣頭指揮を執る捜査一課長の下、「名古屋市熱田区バラバラ遺体殺人事件」の大規模な捜査態勢が敷かれた。
こうして…この事件を担当する事となった「男はつらいよ」のフーテンの寅さんに行動が似通っているベテラン刑事寅さん50歳と、若手で仕事に情熱を燃やす田代刑事26歳の2人が、必死になって捜査に当たっている。
「寅さん……まずはあの4人の過去を徹底的に洗う必要が有りますよね?兄茂と弟亮更には元亮の彼女で兄の妻恵子、そして…もう亡くなっている由香里の過去です」
「本当にそうだよな。まず高校3年生の時に不審死をした由香里の死因だが、あんな晩秋の寒い時期に何故あんなプ-ルで亡くなったかという事だ。不思議だよな?」
「やはり過去の因縁が災いしているのですかね?」
「本当にそうだよなぁ。150年前に何が有ったかという事だよな?まぁ……それより直近の由香里ちゃんの不審死を探らないと……」
「由香里ちゃんは高校1年の頃から亮が好きだった。でも亮は恵子が由香里の友達であるのを知って居ながら、隣のクラスの恵子に恋をしてしまった」
「そうだったなぁ。最初は亮が由香里に接近して友達関係だったらしいな。それも……タイプでもない由香里に近付いた。それって過去の恨み近藤家に復讐の為に近付いたって事?確かに……過去には相当な惨劇の数々が有ったらしい。だから……復讐の連鎖が続いているって事かもしれない?」
「本当ですよね。過去には神崎家の数々の残酷な末路といい、近藤家の孝明さんの自殺と言い、延々と恨みの連鎖が続いていますよね?」
「まぁ……過去の豪農大地主近藤家と小作人神崎家怨念の連鎖が今尚尾を引いているってことかなぁ?だけど……150年前の事なんか調べようが無いだろう?一体どんな恐ろしい顛末が有ったのか……ハッキリ記載されていないからなぁ?」
「次は兄の妻恵子ですよね。恵子が何故兄と結婚したかという事です。そこには由香里が大きく関わっていますよね?」
「由香里も性悪女子だったんだよな。友達の悪口を散々亮に言うなんて……酷い事をする。亮を奪われたくないからって言ったって仕方ないだろう。亮と恵子は付き合っていたのだから、諦めるのが普通だろう?」
「それでも……亮も悪いですよ。何で好きでも無い由香里に近付くんですか?そこが合点が生きません。それこそ過去の怨念復讐を兄弟で晴らした形になって居ませんか?由香里が死んだって事は……」
「本当だよな。亮が悪いよな。亮は学年一のハンサムボーイで秀才だった。それが……冴えない由香里に近づいた。そして由香里は亮に夢中になった。だが、亮は由香里の友達恵子と恋仲になってしまった。そこで頭にきた由香里は亮に恵子の秘密一番知られたくない秘密をぶちまけた」
「その恵子の秘密って何ですか?」
「実は…恵子の母方の親戚といっても遠縁に当たるのだが、昭和を震撼させた若い女性ばかりを狙った女性8人連続強姦殺人事件の当事者で「大熊事件」と言えばだれもが知っている有名な事件だ。あの当時は日本中を震撼させ連日新聞が書き立てた稀に見る殺人事件だった」
それは1937年の事だ。1950年代後半に一般家庭にテレビが急速に普及した。だから、まだテレビの普及もままならない時代の事だった。
大熊清隆は兄弟8人の末っ子で長兄は生まれて間もなく他界し、末っ子として誕生した清隆は両親から「ボクちゃん」と呼ばれて溺愛されて育った。
母親はロシア人との間に生まれた混血の私生児で、10歳の時に子供がいなかった小学校の教頭をしていた祖父に、養女として迎え入れられたという経歴の持ち主であった。
そして…父は何と……子供の前でも性行為をするような、とんでもない性癖の持ち主だった。
ロシア人の血を引く大熊は「アイノコ」「混血児」などと言われていじめを受けていた。幾ら環境のせいだと弁解して見ても言い訳にしか過ぎない。当然の如く死刑執行された。
遠縁に当たるので恵子には何の関係も無いのだが、それでも……親戚に日本中を震撼させた殺人鬼がいては縁談に差し支えるのは至極当然の事。恵子は絶対に知られたくなかった。
「道理で恵子さんが美人だった理由が分かりました。ロシアの血が混じっていたのですね。それは亮だって……いくら恵子が好きでも、そんな話を聞けば避けたくなりますよね。何も好き好んで8人も連続して強姦殺人を行なった男の親戚と結婚しなくても……亮のようにモテる男子だったら幾らでもいますもんね」
「それで……亮が恵子と別れた経緯は分かったが、兄茂がどうして恵子と結婚したんだい?」
「どうも調べで分かったのですが、恵子が亮が冷たくなったので兄茂に相談したらしいです。そこで兄茂が亮に問い質したところ、そんな犯罪者の親戚が居る恵子とは付き合えないと言ったそうなのです。こうして…気の毒に思った茂は恵子の美しさに一目ぼれしていた経緯が有り、恵子を気の毒に思い付き合い出したらしいです」
「だが、そんな殺人鬼の親戚が居る恵子との結婚を両親もよく賛成したもんだな?」
「だってかなりの遠縁だし、茂に懇願されて仕方なくOK出したらしいです。また両親も学校の教員ですし、恵子は名古屋大学卒業の才女ですから……」
◇◇
ベテラン刑事寅さんと新米刑事田代は今度は、由香里が殺害された有名進学校「滝水高校」の現場にやって来た。応接室に通され待っていると、あの当時の由香里の担任で、現在は教頭の地位にある45歳の教頭長島が現れて、質問に答えてくれる事になった。
「もう……この学校の近藤由香里さんが、不慮の事故で亡くなってから10年近く経ちますね」
「本当に残念な事故でした。あんなに活発な由香里さんが何故……今でも……何故あんな事故が起こったのか……皆目見当が付きません」
「あの当時の状況を詳しく説明して頂けませんか?資料は残っておりますが、何でも……由香里さんがプ-ルから野山の紅葉を眺める景色が綺麗だからと言って、1人でプールに行ったらしいですが、その時誰か一緒に行った友達はいなかったのですか?この資料には不慮の事故となておりまして詳しいことは書かれておりません。事件性が無かったので捜査も早々に打ち切られておりまして……」
※学校のプ-ルの水1年中張ってある理由:火事の時の消火に使われるので、1年中一定の水位を保って張っている。日光や紫外線で乾いて劣化するのを防ぐため。生活用水として災害時に水をろ過・殺菌して飲料水として飲む。
「本当にこの学校は野山に囲まれた風光明媚な場所でして、丁度紅葉の時期と重なった時期におきましたので……プールには何人かの学生もいたと思います。それで朝の集会時に全校生徒に問い質したのでございます。でも……これといった情報も掴めませんでした」
「そういう事なのですね。そこでチョットお聞きしたいのですが、神崎茂君と亮君、それに山口恵子さんの3人の話は何か……耳にしていませんでしたか?」
「嗚呼……神崎亮君は我が校のスター的存在でした。成績優秀で女の子に圧倒的人気でした。それと……恵子さんも成績優秀で綺麗な生徒でしたよ。ただ……その……神崎茂君の事は知りません。我が校の生徒では有りませんから……」
「それでは……その当時……亮君と恵子さんの話は何か出ませんでしたか?」
「全く聞いていません。エエ――――ッ!って事は亮君と恵子さんの2人に容疑が掛かっているのですか?……嗚呼……でも……事件が風化した頃……1人の生徒が……言っていた事を思い出しました。その子は臆病な男の子で、あの当時全校集会でもあれだけ皆に協力を仰いだにも拘らず、手を挙げなかったので……後から……人づてに聞いたのですが、その生徒が忘れ物をして学校に戻った時に、プ-ルからわめき声がしたというのです。時間帯もかなり遅い時間で午後6時頃だったと言うのです。でも鍵が開いていなくて入れず引き返したと言うのです。だから……由香里さんは誰かと一緒にプ-ルに居た事になります。でも……その子に問い質しても多分……男の子の声だった気がします。だけなんです。あの時の校長の指示でそれ以上大事になったら、我が校の恥、名誉の為にも……もうこれ以上の大ごとにはしない方針に変わったのです」
「ハァ!そうでしたか?って事は……あっ!我々はこれで失礼致します」
寅さんと田代刑事の2人は好感触を掴み、そそくさと学校を後にした。
「オイ!いよいよ犯人の目星がついて来たな。男の子の声という事はだな、神崎兄弟が一番犯行に近い存在って事だなぁ!」
「本当ですね。亮は亡くなっているので茂に事情聴取しましょう」
車は一路神崎邸へ。
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