第20話 殺害事件の追求



 豪農大地主近藤家と小作人神崎家にまつわる殺人事件。

 

 戦前まで続いた地主と小作人の関係、地主様と奴隷同然の関係も戦後農地改革のお陰で大逆転現象が起こっていた。


 どういう事かと言うと、GHQ最高司令官のダグラス・マッカーサーの指示で農地のある村に住んでいない地主からは、すべての農地を……それも安いお金と引き換えに没収した。地主が住んでいる村の農地も、定められた面積以上は没収された。こうして栄華を極めた地主だったが、戦後没落地主も多く生まれてしまった。それでも…銀行や銀行類似会社に投資を行ったり、企業などにお金を貸したりして副業に従事していた地主は没落は免れていた。 


 そして…GHQ最高司令官のダグラス・マッカーサーは、地主たちから所有地を買い上げ、小作人に安価に売り渡す「農地改革」を1946年から行った。



※「農地改革」:政府が地主の土地を買い上げて,自小作農家・小作農家に安く土地を売り渡した。こうして多くは自作農家になれた。


     ◇◇


 過去の因縁。

 遡る事150年余り前の明治初期から、延々と繰り広げられた血塗られた恐ろしい人間模様の裏側には、どのような因縁が潜んで居たのか?それを一つづつ紐解かなければ、あんなに仲の良かった兄弟茂と亮の変わり果てた惨たらしい殺人事件には到底辿り着かない。



 その事件というのは1977年5月某日早朝、名古屋市熱田区の公園や民家の敷地内で見付かったバラバラ遺体殺害事件だ。調べを進めていくとその遺体は神崎兄弟の弟で神崎亮の遺体である事が判明した。


 そこでまず最初に犯人と目されたのが妻の美枝子だった。


 早速、愛知県警による特別捜査本部が設置され、凶悪事件の陣頭指揮を執る捜査一課長の下、「名古屋市熱田区バラバラ遺体殺人事件」の大規模な捜査態勢が敷かれた。

 管理官は捜査本部をまとめる立場であり、捜査会議では進行役を務めている。

 

「5月某日早朝名古屋市の公園や民家の敷地内で見付かったバラバラ遺体は、公園の清掃員によって発見されたが、歯形からUAT銀行名古屋南支店に勤務する神崎亮26歳と判明した。何とも惨い事に、発見された場所は転々としていて、頭部を名古屋市熱田区の公園に、上半身は熱田区の公園の森の路上に、下半身は名古屋市金山の民家の敷地に、左腕と右腕はまだ見つかっていないそうだ。この猟奇的殺人事件の犯人の手がかりを一刻も早く見つけ出してくれ!ところで何か……新しい情報を掴めたものは要るか?」


 担当刑事で風来坊の様に行方が分からなくなったかと思えば、何処からともなく現れることから「男はつらいよ」のフーテンの寅さんに行動が似通っているので刑事仲間から寅さんと呼ばれているベテラン刑事寅さん50歳と、若手で仕事に情熱を燃やす田代26歳が管理官に説明している



「ハイ!あのですね?この神崎夫婦はセレブで通っていて、マンションの住人の話では旦那の亮は高級車を乗り回し、時計やスーツなど全てブランド品で統一していたようです。当然実家は凄い資産家で不動産会社を経営しているようですから、お金には困っていなかったように思われていましたが、銀行口座を調べた結果借金を抱えていたようです。どうも……亮の親戚筋の話では両親が風俗店勤務の妻美枝子との結婚に大反対していたようで、勘当状態だったらしいです。お坊ちゃまが生活の質を落とす事も出来ず生活苦に陥っていたようです。それでもマンションの住人の前では円満夫婦を装っていたようです」

 まず最初に、若手で仕事に情熱を燃やす田代26歳が口火を切った。この事件に並々ならぬ情熱を燃やしている。


「……という事は、妻美枝子の犯行という事なのか?」


「そう思われたのですが?実は…妻美枝子は1週間ばかり実家に帰っていたようなのです。夫の暴力から逃れるために暫く実家に身を寄せていたようなのです。それは裏が取れています。だから……死亡時刻から割り出すと美枝子の犯行は不可能です」


 今度はベテラン刑事寅さんが、饒舌に詳しく説明し始めた。


「この神崎兄弟のことですが、子供の頃から凄く仲の良い兄弟だったらしいですが、でも……妻恵子を巡ってゴタゴタが有ったらしいですね。第一弟亮の彼女を兄茂が奪ったのですから……どうも不審死をした由香里が亮と恵子の間を引き裂いたと聞きました。こんな理由が有って弟亮が苦しさを紛らわすために、風俗店勤務美枝子に救いを求めた事は十分に考えられます」


「本当にそれは辛かったに違いない。恵子の方だって絶対に弟亮の事をそう簡単に諦め切れる筈がないわな~?」

 

 またしても寅さんが話を続けた。


「そうなんです。このカップルは弟亮が由香里ちゃんを兄茂に紹介したのです。でも……兄茂は由香里よりも恵子が好きだった。高校生の時に弟亮が兄茂に由香里ちゃんを紹介したのだけれども上手く行かなかった。それでは何故紹介したのかというと、ナガシマスパ-ランドが1966年に本開業する事によって一緒に行こうという事になったのです。まだこの頃は弟亮は恵子とも由香里とも友達だったが『ナガシマスパ-ランドが開園したら行きたいね』と言っていたのです。こうして兄茂を交えて一緒に行く事になったのです。そこでいよいよナガシマスパ-ランドに出掛けた4人だったが、でもこの頃すでに亮と恵子は付き合い出していた。それを良しとしなかったのが由香里だったらしいです。亮と恵子が付き合っているのを知って居ながら由香里は強引に亮に接近した。それは由香里も又亮の事が諦めきれなかった。そして……どんな事をしても亮を自分のものにする為に、恵子の悪口を亮に話していた。こうして亮と恵子に亀裂が走ったのです」


「ハッハ~ン?悪口を真に受けた亮は恵子から距離を置くようになった。そこで由香里は亮が好きだったので亮に近付き、それを見ていた兄茂が可哀想な恵子に同情して慰めている内に仲良くなったって事?そして…結婚となった?」


「全て上手く納まったのに何故?由香里ちゃんは殺害されなくてはならなかったのでしょうか?あっイヤまだ……ハッキリ殺害されたって訳じゃないですけど……」


「どうも……死体がプールで浮いていたらしいネ!それも……晩秋の事……そんな寒い時期に……な~んか?腑に落ちないな~」


「一体4人の関係はどのようなものだったのですかね?由香里ちゃんの不審死の原因は当時の残っている記事に目を通したところ、残った3人のうちの兄茂と弟亮と恵子の、誰かに殺害された可能性もあると書かれてありました。それこそ弟亮にすれば元々彼女だった恵子を兄茂に奪われ、兄茂の奥さんになったら複雑ですよね」


「それから……近藤由香里と神崎兄弟だから……過去の血塗られた事件が発端となった可能性も……」


 益々難解になって来たこの呪われた一家には、どんな恐ろしい秘密が隠されているのか?


 

     ◇◇



 そして今度は、神崎亮の兄一家が残虐非道な形で殺害された。

 

 それは1992年10月某日午前0時半ごろ、愛知県T市の自宅が出火して全焼。現場からこの家に住む夫神崎茂さん44歳と妻恵子さん42歳夫婦、更には長女めぐみちゃん16歳と長男剛君10歳の殺害された遺体が発見された惨たらしい滅多刺し放火殺人事件だ。


 殺害された兄茂は地元では特に有名な資産家として知られており、個人でアパートや土地など約100件にも上る物件を所有し、不動産関連の収入で生活していた。以前は毎晩のように夜の街にくり出していたので愛人が何人か居たらしいが、愛人の1人が妊娠した事によって、その愛人宅に入り浸り状態だった。そんな理由から昼間は愛人宅で度々目撃されていた。


 


 それでは残虐非道な殺人事件の容疑者として浮かび上がった人物を、紹介しておこう。

 まず愛人2人に容疑がかかった。


 1人目の女里美25歳は名古屋錦の高級クラブ「蝶」のホステスだったが、茂との間に子供が出来た事によって2年前に「蝶」を辞めていた。


 ひと頃は茂の寵愛を一身に浴びて贅沢三昧の生活を送っていた里美だったが、茂と深い関係になる以前から若い男が居た事が判明し、真実を知った茂と里美には別れ話が出ていたという。娘まで儲けておきながら今更捨てられたら大変。それも娘は以前から続いていた若い男と里美の娘である可能性も出て来た。DNA鑑定が急がれた矢先に起きた犯行だった。


 若い男が本命で関係を続けつつ、茂とは金づるとして付き合っていた可能性も十分に考えられる。金づるを失った里美と男の犯行という事も十分に考えられる。


 

 もう1人の愛人智子とは金銭関係で揉めていた。


 高級クラブ「蝶」のホステス里美に入れ揚げ、智子が鬱陶しくなりあっさり捨てた。

 茂は冷酷な男で子供を授かった里美と子供可愛さに、今までは愛人智子にもお金を毎月支払っていたが、あっさりゴミのように捨て一切の連絡を絶っていた。お店を出して貰う約束をしていた矢先に冷酷に捨てられた恨みは強い。智子は現在36歳で以前六本木のクラブで雇われママをしていた。


 だが、羽振りの良かった茂にお店を出してやると言われ、新しいお店も決まりかけていた。だが、丁度そんな時に里美に子供が出来た事によって人生を狂わされていた。雇われママも辞めて店を持とうと張り切っていた矢先に捨てられてしまったのだから茂に対する恨みは相当のものだ。


 

 そして…更にはたった1人の弟との関係もこじれていた。


 それというのも弟亮は21歳の大学生の時に、風俗店勤務女性との間に子供が出来てしまった。当然両親は大反対、だが結婚を反対されたことに激怒した亮は、父親と凄い喧嘩になり押し問答の末父親を押し倒して怪我をさせてしまった。


 更に止めに入った、いつもどんな時も味方だった母親までもが大反対した事によって、カ—―ッとなってしまった亮は母にまで手を出してしまった。いつもどんな時も味方だったあんなに仏様の様な母までもが、結婚に反対した事が許せなかった。


  亮は愛知県内の最難関校だった私立T高等学校を卒業後、愛知県最難関大学名古屋大学を卒業した優秀な息子だった。


 両親は不動産会社を長男茂と2人で盛り立てて貰おうと期待していた。それなのになんで風俗店勤務女と結婚しなければいけないのか?それから子供が出来たと言っても誰の子か分かったものではない。まだあの当時はDNA鑑定を行う人も少なく正確性にも欠けていた。


 こうして両親との話し合いが決裂して勘当を言い渡されてしまった。


 神崎家は代々大地主さん。資産家として知られており、個人でアパートや土地など約100件にも上る物件を所有し、不動産関連の収入で生活していた。本来ならば二男の取り分も有ったのだが、勘当状態で両親が相次いで流行り病で他界した為、本来半分の遺産の取り分が有った筈が、バブル崩壊と共にアパートや土地など約100件あった不動産は60件程になってしまった。


 例え亮が亡くなっていると言っても祖父母にすれば孫で、亮の血を引く直樹がいる。こうして骨肉の争いが始まり殺害に至った可能性は十分に考えられる。




 だが、ここでひとつ重要な事が判明した。渦中の一家惨殺事件の兄茂と愛人里美の間に出来た沙織は、実は里美と若い男との間に誕生した事も十分に考えられる。


 そして…何と里美の若い彼氏とは、あの弟亮と風俗店勤務美枝子の間に誕生した息子直樹だった。


 だから……1992年当時里美が25歳で直樹が21歳だった。

 過去に何が有ったのか分からないが、直樹はクラブ蝶でボーイをしていた。

 不動産を相続していたにも拘らず、何故クラブでボーイとして働かなければいけなかったのか?






















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