第12話 兄茂と愛人里美の娘沙織の本当の父親は誰?





 万里子お嬢様が車で孝明と岐阜県の農村で、すれ違いざまに出会ったのは、あれは偶然ではなく、意図的にセッティングされたものだった。ましてや偶然の出会いをアシストした張本人ユキは現在「タキハナ」の従業員に納まっている。

 

 万里子お嬢様とユキは家が近所でユキが4つ年上だった事もあり、子供の頃は竹馬の友だった。そして…ユキの父親が万里子お嬢様の会社の従業員であっても、全く関係なく遊び回っていたので、幼い頃から万里子お嬢様を妹のように可愛がっていた。


 一方のタカエとユキの関係は、女学校時代にクラブ活動が同じで、大先輩タカエに厳しく叩き込まれていたユキ。


 でもタカエは厳しいだけでは無かった。飴と鞭を上手に使い分ける鬼先輩でもあった。滅茶苦茶厳しかったが、それでも……タカエ先輩からよく岐阜県美濃加茂市発祥の、蜂屋柿という渋柿を吊るして作った干し柿を沢山もらっていた。


 それはタカエは大地主の娘で、柿が沢山出来るからだ。


 大ぶりで上品な甘さのある極上品で、ユキは女学校時代から冬の時期にはよくその干し柿を頂いていた。そして…女学校を卒業してからと言うもの、決まって初冬に極上干し柿を送って貰っていた。


 10月下旬から11月中旬に収穫して、2~3週間ほど吊るして出来上がりなのだが、丁度その時期には地主の近藤家の当主が、毎日のように岐阜の多治見にやって来る事をユキは知っていた。

 

 それは自ら当主である地主さんも手伝い、一刻も早く干し柿を作って妻トミと娘タカエに食べさせたいからだ。それは愛する妻とタカエの2人が大好物だったからだ。


 男と言うものは特に娘が可愛いというが、この近藤家もまさにその通りで、あれだけ小作人には阿鼻雑言を浴びせかけてもヘッチャラなくせに、こと娘タカエにだけは頭が上がらない。嫌われる事が何よりも怖い父豊作だった。だから娘にせがまれると、イヤといえない娘タカエに甘々の父親だった。


 それでも…今までは当主の旦那様が、妻と娘が今か今かとうるさいので、従業員をせかす為に収穫時に飛んでやって来て干し柿作りを手伝っていたが、ここ2~3年は孝明がこの時期にやって来てそのお役目を果たしていた。


 そんな事情を知っていたユキは、奥様ヤエから尋ねられた時にその事情を説明していた。


「あなたが近藤家のお嬢様と女学校が一緒だったと聞いていましてよ。確か?珍しい男女の双子さんだって聞いた事がありますの。お坊ちゃまは今どちらに?」


「今の時期は岐阜県多治見市の柿農家で、干し柿つくりをしておいでです」


 孝明の現れそうな場所を聞き出し、万里子に孝明を近付かせていた。


 それでもヤエの父次郎の田畑が岐阜県に有り実家が岐阜だった事も有り、岐阜に、孫万里子お嬢様が顔を出すのは至極当然の事なので、何もユキに聞かなくても父次郎に聞けばいいのでは?


 それが……実は…父の次郎は苦労が祟り数年前に他界していた。母とヤエの妹は名古屋に移り住み住居の一切合切はヤエが負担していた。そして妹はうどん店の店員をしているが、母は高齢でそうはいかないので、現在ヤエがお金の援助をしている。


 だから岐阜県の小作人たちは万里子お嬢様が次郎の孫だとは知らない。ただ万里子お嬢様が「タキハナ」のお嬢様である事は近隣住民は皆知っている。


 それは、これだけの美人で昭和初期に外車を乗り回す女性など皆無に等しかった。そんな時に食堂に入った時、店主に尋ねられたので自分の身元を包み隠さず話していたからだ。


 こんな田舎に、あの当時車を運転する人間なんてバスの運転手くらいだ。そこに若い娘が、それもモデルの様なハイカラで、今まで一度も見たこともない美しい女性だったので、余りにも場違い過ぎて店主も訪ねた。


 こうして…近隣住民にあっという間に万里子お嬢様の事が、知れ渡ってしまった。


 このようなカラクリが有り、孝明と万里子お嬢様は出会うべくして出会っていた。


 そして…やがて、フラれてしまった孝明は耐え切れず自死を選んでしまった。

     


     ◇◇

 

 昭和初期の、孝明と万里子お嬢様が青春真っ盛りだった頃から、彼是50年の時を超えて、1977年5月某日早朝名古屋市の公園や民家の敷地内で見付かったバラバラ遺体は、公園の清掃員によって発見されたが、歯形からUAT銀行名古屋南支店に勤務する神崎亮26歳と判明した。


 更には何とも惨い事に、発見された場所は転々としていて、頭部を名古屋市熱田区の公園に、上半身は熱田区の公園の森の路上に、下半身は名古屋市金山の民家の敷地に、左腕と右腕はまだ見つかっていなかったが、後で分かった事だが、名古屋港に魚釣りに来ていた釣り人が、釣り上げた魚に服の一部がほんの少しだが、巻き付いていたらしい。更には写真に写っていた事件当日、本人が着用していたその服の一部の柄と似通っていた事も有り、それと骨の一部が網に引っ掛かり左腕と右腕は、名古屋港に捨てられたことが確認された。


 釣り人はバラバラ惨殺事件と、ショッキングな猟奇的殺人事件直後だった事も有り、また報奨金欲しさに僅かな事でも届けた。



     ◇◇ 



 1992年10月某日、日本中を震撼させた一家惨殺事件で、父親茂、母親恵子、長男剛、長女めぐみ4人の死亡が確認されたのだが、勘当された弟の神崎亮はその後どのような人生を歩んでいたのか?


 実は…悲惨な事に1992年10月某日に起きた、日本中を震撼させた一家惨殺事件で亮の兄一家が無残に殺害されたが、その遥か15年も前に弟亮はバラバラ遺体で発見されていた。 


 それでは弟亮はどのような道を歩んでいたのか?


 大学卒業と同時に銀行に就職した亮は、大学時代にアメリカに短期語学留学をしていたので英語がペラペラだった為大手都市銀行に見事合格。そして名古屋南支店に勤務する事ととなった。 


 1970年当時、神崎亮は風俗店勤務女性とコンパで知り合った。


 成績優秀だった風俗店勤務の美枝子は父親を癌で亡くしていた。その為母子家庭だったが、どんな事をしても大学を卒業して医者か薬剤師になりたかった。それは父の最期の姿が余りにもやせ細り悲惨だったから、身をもって死の恐ろしさを目の当たりにして、これ以上身内のこんな最期だけは、二度と見たくない強い思いから医学の道を志した。


 やがて、学費も捻出出来なくなり短時間で稼げる風俗に手を染めてしまった。だが、この事は学校にも友達にも内緒にしていた。そんな時に、「学生コンパ」で神崎亮と出会った。


「運命の女と出会ったんだ。背が高くて、きれいで、すごいお嬢様で、しかも薬剤師を目指している女の子。最高さ!」


 2人は出会って1年半後に入籍したが、その理由は息子が生まれたからだ。


 亮の当時銀行の初任給は8万円ほどだったが、急に生活水準を落とす事など亮に出来る筈はない。


「広い部屋でないとイヤだ!」


 その当時の2人の収入に不釣り合いの広いマンションに引っ越した。だが、美枝子は薬剤師を結婚を機に退職した。


 だが、噓で塗り固められた幻想だったことは、ほどなくして明らかになる。美枝子は大学を中退して風俗店で生活費を捻出していた。そして…子供が誕生するまで大学を中退した事や風俗店勤務の事は亮や友達に隠していた。


 デ-ト代はいつも美枝子が気前よく払ってくれた。元々父親は大手企業に勤務していたエリ-トだったが、交通事故を起こして人を引き殺してしまい、会社を首になってしまった経緯がある。更に運が悪い事に癌を患い若くして他界してしまった。


 だが、贅沢な生活が忘れられず、ブランド品の数々をさりげなくチラつかせ、いかにも良いとこのお嬢様風を気取っていたが、実は…父親ほど年の離れた男と愛人関係になりデート代や亮にプレゼントするお金を、全て援助してもらっていたのだ。


 美恵子の全てが分かり別れようと思っても、子供が誕生してしまってはどうにもならない。

 最初は強い愛で結ばれていた2人だったが、現実はそう甘くはない。


「なんで?そんな噓っぱちばっかりなんだよ?」


「あなただって悪いのよ。いつまでもお坊ちゃま気取りは捨てて頂戴!親に勘当されてあなたの給料だけで生活しなくてはいけないのだから……借金が300万円にも増えたのよ」


「何を――ッ!この売春婦が噓で塗り固めやがって――ッ!この噓つき女!」


 ”ボカン!“ ”グシャン!" ”ドスン!"


 こうして…亮のDVが激しさを増して行った。だが、美枝子もまた亮を足で蹴り、ビンタをくわせ、アザが残るほど突き飛ばし、財布、キャッシュカードを取り上げてお金を使えなくして、家の外に亮を放り出したりしていた。


 こんな喧嘩が常態化していたある日の事だ。


 ある日名古屋市熱田区の公園内で、人間の頭部らしきものが清掃員によって発見された。その遺体の一部は、のこぎりで切断された男性のバラバラ遺体だった。

 

 何とも惨い事に、発見された場所は転々としていて、捜査を攪乱させる為なのか、頭部を名古屋市熱田区の公園に、上半身は熱田区の公園の森の路上に、下半身は名古屋市金山の民家の敷地に、左腕と右手首はミキサーで砕いて海に流したようだ。


 のちに神崎亮の遺体である事が分かった。


     ◇◇


 そして…また一つ 分かった事がある。


 それは…神崎家の弟亮が学生時代の21歳の時に、風俗店勤務の彼女との間に誕生した息子直樹がいたが、2023年現在50歳を超している。



 そして…1992年10月某日、日本中を震撼させた一家惨殺事件で、父親茂、母親恵子、長男剛、長女めぐみ4人の死亡が確認されたが、兄茂は愛人里美に熱を上げて子供が授かったのを機に妻恵子と離婚話が持ち上がっていた。それだけ里美にぞっこんだったという事だ。


 だが、愛人里美に若い男がいる事が判明。それも生まれた娘沙織はその若い男との子供かも知れない。


 こうして…兄茂と愛人里美には別れ話が持ち上がっていた。


 そして…その里美の男というのが、弟亮と風俗店勤務をしていた妻美枝子との間に誕生した直樹なのでは?と言われている。


 という事は、娘沙織はひょっとして直樹の娘?


 















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