第3話 バラバラ遺体




 殺害された兄茂だったが、どこから歯車が狂ってしまったのか?そうは言って見たものの死人に口なしとはよく言ったものだ。


 それでは21歳の時に風俗店勤務女性との間に子供が出来てしまった亮は、どのような人生を送って来たのだろうか?


 弟亮は21歳の大学生の時に、風俗店勤務女性との間に子供が出来てしまった事によって、両親との話し合いが決裂して勘当を言い渡されてしまったが、そうはいって見たものの折角合格できた名古屋大学を、みすみす退学させる訳にもいかず、親の強い勧めで無事名古屋大学を卒業することが出来た。


 その内目が覚めて、そのような女とは縁を切ってくれるだろうと切に願っていたが、どこがそんなに良かったのか、ましてや玉のような男の子が誕生して一層その女との絆は強くなってしまった。


 これでは引き裂こうにもどうにもならない。


 そうこうしている内に、1995年の晩秋茂のたった1人の生き残りで、遊びにやって来た孫沙織のインフルエンザが移ってしまい、運悪くおじいちゃんが亡くなってしまった。そういえば1995年のインフルエンザ死亡率は近年になく死亡率が高かった。そして2年後にはおばあちゃんがすい臓がんで他界していた。



     ◇◇


 神崎亮は茂とは違う道を歩んでいた。

 大学卒業と同時に銀行に就職した亮は、大学時代にアメリカに短期語学留学をしていたので英語がペラペラだった為、大手都市銀行名古屋南支店に勤務する事ととなった。 


 1970年当時は合同コンパと言って、男子学生と女子学生のコンパで盛り上がっていた。亮は風俗店勤務女性とはこのコンパで知り合った。


 成績優秀だった風俗店勤務の美枝子は父親を癌で亡くしていた。その為母子家庭だったが、どんな事をしても大学を卒業して医者か薬剤師になりたかった。それは父の最期の姿が余りにもやせ細り悲惨だったから、身をもって死の恐ろしさを目の当たりにして、これ以上身内のこんな最期だけは、二度と見たくない強い思いから医学の道を志した。


 だが、学費も捻出出来なくなり短時間で稼げる風俗に手を染めてしまった。この事は学校にも友達にも内緒にしていた。そんな時に、まだあの当時は「学生コンパ」「お見合いパ-ティ-」「異業種交流会」ほどで、今ほど多種多様の合コンなどなかった時代だ。

 

 亮は最初はこの女を唯一無二の女と考えていた節がある。

「運命の女と出会ったんだ。背が高くて、きれいで、すごいお嬢様で、しかも薬剤師を目指している女の子。最高さ!」


 二人は出会って1年半後に入籍したが、その理由は息子が生まれたからだ。


 亮の当時銀行の初任給は8万円ほどだったが、急に生活水準を落とす事など亮に出来る筈はない。

「広い部屋でないとイヤだ!」


 その当時の2人の収入に不釣り合いの広いマンションに引っ越した。だが、美枝子は薬剤師を結婚を機に退職した。


 

 だが、噓で塗り固められた幻想だったことは、ほどなくして明らかになる。美枝子は大学を中退して風俗店で生活をしのいでいたのだ。そして…子供が誕生するまで大学を中退した事や風俗店勤務の事は亮や友達に隠していた。


 デ-ト代はいつも美枝子が気前よく払ってくれた。元々父親は大手企業に勤務していたエリ-トだったが、交通事故を起こして人を引き殺してしまい、会社を首になってしまった経緯がある。更に運が悪い事に癌を患い若くして他界してしまった。


 だが、贅沢な生活が忘れられず、ブランド品の数々をさりげなくチラつかせ、いかにも良いとこのお嬢様風を気取っていたが、実は…父親ほど年の離れた男と愛人関係になりデート代や亮にプレゼントするお金を、全て援助してもらっていたのだ。

 

 美枝子の全てが分かり別れようと思っても、子供が誕生してしまってはどうにもならない。


 最初は強い愛で結ばれていた2人だったが、現実はそう甘くはない。


「なんで?そんな噓っぱちばっかりなんだよ?」


「あなただって悪いのよ。いつまでもお坊ちゃま気取りは捨てて頂戴!親に勘当されてあなたの給料だけで生活しなくてはいけないのだから……借金が300万円にも増えたのよ」


「何を――ッ!この売春婦が噓で塗り固めやがって――ッ!この噓つき女!」


”ボカン“ ”グシャン" ”ドスン"

 こうして…亮のDVが激しさを増して行った。だが、美枝子もまた亮を足で蹴り、ビンタをくわせ、アザが残るほど突き飛ばし、財布、キャッシュカードを取り上げてお金を使えなくして、家の外に亮を放り出したりしていた。


 こんな喧嘩が常態化していたある日の事だ。


 ある日名古屋市熱田区の公園内で、人間の頭部らしきものが清掃員によって発見された。その遺体の一部は、のこぎりで切断された男性のバラバラ遺体だった。


 一体誰のバラバラ遺体なのか?


 何とも惨い事に、発見された場所は転々としていて、攪乱させる為なのか、頭部を名古屋市熱田区の公園に、上半身は熱田区の公園の森の路上に、下半身は名古屋市金山の民家の敷地に、左腕と右手首はミキサーで砕いて海に流したようだ。


 益々深まる謎……ひょっとしてこの遺体は……?









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