第4話 七つの子
娘が九州の大学に進学して早半年、リモート授業の中、中々友人もできずに苦労していた。初めてのことばかりで試行錯誤の中、課題をこなすのに必死になっていた。
対面の授業も行えず、毎日パソコンに向かい自宅で過ごしていた。
実家に帰ろうにも県外への移動も制限された為、帰省も出来なかった。家族とはビデオ通話で話す日々、中々楽しみも見つけられないようにも思えたが、自分なりに一人暮らしの楽しみ方を見つけながら過ごしていた。
そんな娘から大学の前期授業を選択する中で、あと一つ、どうしようかと考えていると、相談の電話がかかってきた。
「小学英語と数学、小学声楽とどれがいいだーか?」
(少額英語と数学、小学声楽とどれがいいと思う?)
娘はそう聞いてきた。
「あんたさんは、どれがいーかね?」
(あなたは、どれがいいの?)
と聞き返すと、
「英語と数学は違う分野でもう選択しとるけんなぁ」
(英語と数学は違う分野でもう選択してるからなぁ)
と答える。
「そげだったら、消去法で小学声楽しか残っとらんじゃない?」
(それならば、消去法で小学声楽しか残ってないんじゃない?)
と答えてやる。
小学校の時から高校卒業まで合唱を続けてきた娘には声楽がまだ有利なんじゃないかと私は思っていた。その旨を娘に伝えると、
「やっぱりそげだよね。そげするわ。」
(やっぱりそうだよね。そうするわ。)
と小学声楽の選択を選んだ。
後日、教科書を購入した後、電話がきた。
「声楽の教科書をね、ひと通り見たんだけど、知らん童謡ばっかり載っちょってさ。聞いたことない歌ばっかでね。小学校でも習わんだった歌ばっかりだわ。歌えらんわぁ。」
(声楽の教科書を一通り見たけれど、知らない童謡ばかり載っててね。聞いたことのない歌ばかりで。小学校でも習わなかった歌ばかりだわ。歌えないなぁ)
と少し気落ちした感じでぼそぼそとしゃべっていた。
「でもね、お母さん、少し知っとる歌があったに。でも歌詞が違っとってね。七つの子って歌だけど、どこ探しても“カラスの勝手でしょ”って歌詞がないに!
~カラスなぜ鳴くの、カラスの勝手でしょ。~だないの?」
(でもね、お母さん、少し知ってる歌があったの。でも歌詞が違っててね。七つの子っていう歌なんだけど、どこ探しても”カラスの勝手でしょ”って歌詞がない!~カラスなぜ鳴くの、カラスの勝手でしょ。~じゃないの?)
と、真面目な声で聞いてきた。
娘よ、それは志村けん氏の替え歌であって、本当の歌詞は教科書に載っている歌詞が正解です!しかもその替え歌はあなたが生まれる随分前のことで、母が小学校の頃に大流行した歌なのだよ。と、言い聞かせた。
でも、うちの子はドリフが大好きで、暇さえあれば昔のテレビ番組を見まくってたよね。歌って踊って転げまわって笑ってたよね。娘とそんな昔ばなしをしながらふと思う。
志村氏は偉大なのだとつくづく実感する。私たち世代を夢中にさせたのに、その子の世代までも夢中にさせ、原曲を忘れさせるほどに替え歌を浸透させる。氏の偉大さに他ならない。娘が真顔で言った時には面食らったが、娘と同じ感覚でいる子供たちはまだまだたくさんいるのだろう。この時改めて氏の早すぎる死が残念でしかたない。だが、向こうでも万人を笑わせていてくれるであろうと祈るほかない。
そういえば、ドリフが大好きだった娘は、一般的に子供が好きなものにはあまり興味を示さなかった。周りの子供が夢中になるアンパンマンに対して。
「だって、アンパンマンはパンでしょ?」と。クールだ。
だが、娘よ、お前さんの好きなトーマスは、ただの機関車だ!
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