赤ずきん《レッドショルダー》と、鉄の狼

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

赤ずきん《レッドショルダー》と、鋼鉄のオオカミ

 遥か未来、遠い宇宙のどこか。


 地球へのワープ帰還に失敗した莉夢リム・ヴィルヘルミナは、とある星の古代文明遺跡にたどり着く。

 遺跡は森に囲まれていて、空気もある。

 宇宙船は、壊れてしまった。もう、地球へ帰ることはできない。

 仕方なく、遺跡の中へ。


「おばあちゃんの言っていたとおりだわ。この星は、空気もある」

 

 幸い、食料には困らない。あと数ヶ月は。

 遺跡を探索して、宇宙船用の修理部品が見つかればよし。なくても、船の代替品さえあれば、それに乗り込んで。

 

 遺跡の最奥部で、全長約二〇メートルほどの獣型搭乗式ユニットを発見した。

 台座の上で寝そべる雄々しき姿は、まさに狼そのもの。しかし体長は戦闘機をも凌駕し、自力で飛行可能なのか、スラスターまで搭載しているではないか。

 特徴的なのは、首輪に相当する部分だ。トラの頭の形をしている。なにか、いわれがあるのだろうか?

 

 祖母からもらった「頭巾」と呼ばれるヘルメットには、この鈴と同じようなマークが貼られている。


「あなた、お名前は?」


 ダメ元で、狼型ロボットに声をかけてみた。


 莉夢が頭部に被っている特殊合金製頭部保護装甲、『赤ずきんレッドショルダー』は、高性能翻訳機能を持つ。機械文明の言語も解読可能で、瞬時に人間の言語へと翻訳を行う。

 肩まで包み隠すマントが血の色をしているため、この頭巾型ヘルメットを被っているものは、周りから『赤ずきん《レッドショルダー》』と恐れられた。


 狼の頭が、ムクリと起き上がる。

 

『ワタシの名前は【八^¥q二w三八血くぇ『@絵rgしpg@で@p】』


「日本語でお願いするわ。ロシア語はさっぱりなの」

 

『古代アーローン語は、ロシア語ではありません。ワタシの名前は、あなたたちの言葉で【鋼鉄の狼】の意味を持ちます』



「なるほど。では今後、私はあなたのことを【鉄狼テツロウ】と呼ぶことにするわ」


『鉄狼ですか。豪快でありつつ、ややチャーミングですね』


 シャレのわかる人工知能でよかった。


「鉄狼。あなたはどうして、こんな場所で打ち捨てられていたの?」


『ワタシはあなたのお祖母様とともに、銀河の脅威となる敵と戦っていました。すべてが終わり、この遺跡にて身体を癒やしていました。再び現れる、脅威に備えるため』


 人間同士の争いが起きて、活動する機会は失われてしまったという。

 鉄狼が搭乗に値する資格者は、結局現れなかった。


「ああ、コイツらね?」


 莉夢は、惑星探査で発見したデータを拡張機能で広げた。

 一見すると、赤ワインのボトルのように見える。

 しかし実態は、各星域を脅かす高度機械生命体たちのデータであった。


『その機械生命体群を撃滅せしめんため、ワタシは開発されました』


「わかったわ。では地球の平和を守るため、私に力を貸して」


 莉夢が、鉄狼に手を差し伸べる。

 

『お安い御用です。レッドショルダー。かつて悪しき帝国が統べる星を焦土と化した、赤い悪魔』


「莉夢と呼んで。大群のいち個体ではなく、私にはちゃんと名前がある」


『承知しました。リム』


 リムは背中から、鉄狼に乗り込む。

 


『目指す星は?』


「地球よ。亀浦島カメウラシマ


『把握しました。亀浦島まで、高硬度ジャンプします。シートベルトのご用意を』


 指示通りに、莉夢は行動した。

 

 刹那、ドン、という衝撃とともに、青い海が目の前に。



 さっきまで森の中にいたはずなのだが?


 四本脚のまま、鉄狼は浮遊している。


 高度知的生命体によって、海に浮かぶ島が破壊されようとしていた。


「亀浦島が!」


 クラゲのような浮遊物体が、亀浦島を覆うドーム状のバリアを削っている。


『変形シークエンスを、作動します。側面のレバーを引いてください』


「わかったわ!」


 莉夢が、コクピット脇のレバーを引く。


 鉄狼が、二足歩行形態に変形した。

 さしずめ、鋼鉄の狼男というべきか。


「鉄狼、その目は武器になるかしら?」


『ワタシの大きな瞳は、敵を焼き尽くすためにあります』


 鉄狼が、目から光子熱線を放出する。

 扇状に、クラゲ機械生命体の群れをくず鉄に変えた。


「その大きな耳は、なにができるの?」


『ワタシの耳は、敵の攻撃を瞬時に把握するソナーとなっております』


 クラゲ宇宙人が放つ衝撃波や雷撃を、鉄狼は音だけを頼りにすり抜ける。


 鉄狼は、首長竜型機械兵器に肉薄した。

 これが敵の旗艦なのだろう。亀浦島の半分くらいの大きさがある。

 口から火炎放射を吐き、首長竜も鉄狼を寄せ付けようとしない。

 正確無比な攻撃に、鉄狼も無傷では済まなかった。それでも、爪によって大ダメージを与えていく。

 


「あなたの大きな爪で、あの化け物を壊せるの?」


『造作もありません。ワタシの爪は、あなたの敵を切り裂くためにあります』


 鉄狼の爪から、高出力の熱線ブレードが展開された。

 光る熱線ブレードが、首長竜の長い首を切り裂く。


 司令塔を失った首長竜が、のたうち回る。


「相手も変形するわ!」


『第二形態のようです』


 首長竜の背中から、人型ロボットの上半身が生えてきた。

 武器腕のロケット砲が、亀浦島に照準を合わせる。


「鉄狼、あなたにも大型兵器はないの?」


『ございます。ワタシの口は、ハウリングランチャーを展開し、あなたの敵を焼却します』


「それでお願い。ハウリングランチャー展開!」


 鉄狼が、再びオオカミモードに変形した。さらに腰を落とし、口を大きく開ける。


 相手が、ロケットを発射した。


「ハウリング、ルルルルルァンチャー!」


 莉夢が、レバーのトリガーを引く。


 青白い熱の光線が、ロケットを突き抜けて首長竜ロボを焼き尽くす。


 敵ロボの反応が、消滅した。


『目標沈黙、確認』



「ふうううう」


 莉夢は、赤ずきんのバイザーを解除する。地球の大気を、大きく吸い込んだ。 


 ひとまず、脅威は去った。


「ありがとう。鉄狼。あなたのおかげで、地球は救われたわ」


『こちらこそ。使命を果たせて、うれしいです』


「聞いていい? どうして鈴の形がトラの頭なの?」


『それは、カッコいいからです』


 かつて祖母が教えてくれた理由と、同じことをいう。


 やはり、コイツは祖母の残した乗り物だ。

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赤ずきん《レッドショルダー》と、鉄の狼 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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