第6話主人の隠し事に気付く
あかねは赤ちゃんのお世話に追われていた。
だが、沐浴や夜ご飯は旦那の蒼馬が担当した。
あかねは生まれたばかりの息子に、授乳させ、また、熱湯で殺菌した哺乳瓶でミルクを飲ませた。
慣れない事だらけで、夫婦ともに疲れた。
夜泣きで眠れないあかねは、産休だから昼間に寝ていた。
だが、旦那の睡眠不足は目に見て分るくらいだった。
ある日、授乳させ寝ている息子を横目に本棚から、蒼馬が良く読んでいる小説を取り出した。タイトルは「バトルロワイヤル」だった。この、小説は15年前に書かれた本で、残酷な文章だが、面白かった。
そして、本棚に戻そうとすると、何が引っ掛かる。あかねはそれを引っ張り出した。
『就寝前』
と、書かれていた。白っぽい錠剤と赤い錠剤が1つ。何の薬か、ネットで調べた。
白っぽい錠剤は、デパスと書いてあり検索すると、『精神安定剤』と書かれていた。
赤い錠剤は、ベゲタミンAと書いてあり、
『強力な睡眠薬』と書かれていた。
思い当たる節はあった。余りにも、旦那の睡眠時間が短い事を知っているからだ。
あかねは、旦那が睡眠障害を患っていた事を初めて知った。
夜勤明けの、蒼馬の姿を見ると、あかねは近付き抱きついた。
「ごめんね、そう君。知らなかったの」
蒼馬は驚いて、
「どうしたの?」
「そう君、不眠症なんだよね?」
「……バレたか」
「今夜から、料理もするし、沐浴もするから、ゆっくり寝て!」
「いや、2人の子供なんだからじゃ、沐浴だけは僕が続けるよ。新米ママさんは大変って聞いたから」
半年後、旦那がブツブツ独り言を言うようになった。
「どうしたの?」
と、蒼馬にあかねが問うと、
「今、そこにおばあちゃんいるでしよ?部屋違えて入って来たんだよ」
「えっ、おばちゃん?いないよ。しかも、夜中の3時だよ」
「……じゃ、いないんだね。……そっか〜」
明らかに、蒼馬はおかしくなっていた。
そして、子供と昼寝中、あかねの携帯に電話が掛かってきた。
画面には、蒼馬の勤める会社名が表示されていた。
電話に出ると、直ぐに迎えに来てほしいと。
あかねは、蒼馬が倒れたと思って、子供をベビーチェアに固定して、会社に向かった。
「落ち着け、落ち着け、清水」
「うるせぇ〜、てめえらがオレの残業代ピンハネしてることは知ったんだ!何が、係長だ、何が課長だ。ほら、掛かって来いよ!」
と、係長の右腕を捻り上げ、係長は悲鳴をあげた。
「口だけの、よえぇ男だな?てめえは。おい、課長、掛かってこい!」
と、清水は課長に言うと、課長は向かってきた。
空手をやっていたらしいが、みぞおちに一発入れると、その場に倒れ込んだ。
周りの人間は、清水の行為はちょっと荒いが、当たり前だと思っていた。
実際に、給料はピンハネし、労働基準法違反をしていたからだ。だから、誰も警察に電話しなかった。
電話すると、ピンハネと違反が公になるからだ。
ピンハネの張本人の事務のお局さんに向かって、椅子を投げた。
お局さんは、その場で失禁した。
丁度、あかねが会社に到着して、まだ、課長と係長に暴行を加えようとしたが、
「あなた、辞めて!」
と、言う言葉に気付きそのまま、更衣室で着替えて、またオフィスに戻り、
「お前ら、訴えてもいいからな。どうせ、初犯の傷害だから、罰金10万ですむ。だが、お前らは会社クビだよ。おい、小便漏らし、オレのピンハネ分は渡せよ!明細付けて。あばよ!糞ども」
と、吐いた。
その晩、蒼馬は上気分でビール飲んだ。
会社は依願退職扱いにして、退職金350万円、ピンハネ分は420万円だった。
聞くところによると、ピンハネ分は、課長、係長、お局が出し合って作ったものだった。
それから、弁護士に依頼してパワハラ、ピンハネを訴えた。
1年半後、そいつ等は懲戒免職になった。
それは、後になって聞いた。
あかねは、壊れていく旦那が心配になってきた。
でも、家庭では優しいパパ。会社がどれくらい酷い事をしてきたのか?あかねは蒼馬の行動で理解した。
よく10年間耐えた、旦那を褒めてやりたい気分になった。
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