第5話睡眠薬と出産

臨月期を迎えたあかねは、旦那の蒼馬に夜中の陣痛に向けて、いつでも病院へ行けるように、夜勤のない仕事を頼んだ。

しかし、会社は蒼馬の願いを聞き受けてくれなかった。

あかねは夜は不安な夜を迎えていた。

だから、蒼馬は臨月期は睡眠薬を飲んでは居なかった。

蒼馬は日に日に衰弱し始めたは。

その日は突然、だった。

睡眠薬を飲まず、ただ横たわっている蒼馬に、あかねは、

「そう君、もしかしたら、陣痛かもしれない」

「そうか、山田産婦人科に連れて行く」

と、蒼馬は病院に電話して車であかねを運んだ。

あかねはそのまま、分娩室へ。

蒼馬はロビーで待っていた。2時間ほどすると、医師が現れ、

「清水さん、今夜は産まれそうにありません。陣痛促進剤を点滴します」

「宜しくお願いします」


個室の部屋にあかねがストレッチャーで運ばれてきた。

「そう君ごめんね」

「謝る必要ないよ。明日は会社休むから」

「ありがとう。でも、会社って意地悪なんでしょ?」

「そんな事ないよ」

「私は、居酒屋でバイトしていた時に、そう君と同じ会社の人が来て、『あの、清水のクソたわけは、アゴで十分。給料、もう少し減らしてもいいんだけどな』って、聞いて、イジメられているのを知っているから」 

「そんな事は、心配しなくていい。明日、頑張ってな。出産、付き合うよ」

「ありがとう」

「さ、寝なさい」

蒼馬はあかねのベッドの横に、簡易ベッドを並べ横になった。


翌昼、あかねの陣痛が始まった。

分娩室に運ばれて、蒼馬も付き添った。

案外、分娩は静かだった。あかねは、深呼吸するだけ。

蒼馬はあかねの踏ん張り棒に捕まった手に自分の手を添えた。

間もなく、赤ちゃんが出てきた。

蒼馬は赤ちゃんのそばに行き、元気に泣いているのを確かめて振り向いたら、あかねの下半身が見えた。

血だらけで、何か内臓が出て来ている。

それを見た、蒼馬は立ち眩みがしてロビーのソファーにぶっ倒れた。

その晩、あかねと赤ちゃんを確認した蒼馬は帰宅した。

そして、睡眠薬を飲み1ヶ月ぶりの十分な睡眠を取った。

しかし、会社はたった1日だけ休んだ、蒼馬に重労働を与えた。

蒼馬は、怒りに震えたが、赤ちゃんが生まれた。

パパだ。ここで、負けてはいけないと頑張った。

会社は、蒼馬に67時間労働させるのであった。

2日も寝ずに、笑顔であかねと子供の様子を見に行った。

「そう君、大丈夫?寝てる?」

「あぁ、大丈夫だよ。来週の水曜日、退院だね。夕方、迎えに来るから。おやすみなさい。明日は早いから帰るね」

「うん、ありがとう」

赤ちゃんが退院前夜は、病院がフランス料理を準備した。

「看護師さん、僕の分は?」

「これは、出産を頑張ったママさんだけの料理ですから」

「じゃ、ワインは僕が飲みます」

「何、言ってるんですか?パパさん。病院がお酒出す訳ないなでしょう」

これが、退院までの話だ。

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