第2話 食べるつもりのない生贄が盛大に勘違いしてて怖い
「そこのあなた!」
うまいこと生贄の少女よりも二回りは年上の女に変化した僕が、こほん、と咳払いをして、刃物を片手に戻って来た彼女に声をかける。
「どちら様でしょうか」
彼女が持っているのはそれはそれは見事な鉈である。本気度がビンビンに伝わってきてひたすら恐怖である。
「え、っと――……、
しまった! その辺の設定をまるで考えていなかった! だって人間って上下関係に厳しいから、誰ですかとか聞いてくると思わなかったんだもん! もっと無条件にハイハイって話を聞いてくれると思ってたよ!
「白金ぇ?」
きゅっ、と目を細めて僕を睨む。
あっ、もしかして『白金様』って言わなかったから?! えっ、細かっ! そんなところも指摘してくるんだ?!
「えっと、だから、つまり、わた、私は白金、さ、さ」
嫌だよ! 自分に『様』をつけるとか!
「わかった! お母様ですね?」
「えっ?」
「白金様のお母様が、姿を変えて降りて来られたと、そういうわけですね?!」
「えっ……と、そう。うん、そう。私、白金の母」
そういうことになっちゃった!
そっか、そういうことになりますか! 女性になっちゃったもんね!? 下手に気を利かせすぎた!?
「白金様のお母様があたしに一体……。ハッ、そうか! そういうことですね!」
「えっ、そういうことって、どういうこと?!」
「お義母様!」
「は?」
いまなんか意味合いの違う『おかあさま』じゃなかった? 僕の気のせいかな?
「やはり白金様が求めてらしたのは、そっちの意味の『食べる』でしたか!」
「は?」
待って待って待って。そっちの意味って、どっちの意味?
「わかりました。不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします!」
「えっ、何?」
がしゃん、と持っていた鉈を投げ捨て、その場に平伏する。
「白金様の花嫁として、その大役、見事果たしてみせましょう!」
「は? た、大役……? ていうか、花嫁?」
えっ? 何? さっきの『おかあさま』ってつまりそういうこと?! 義理の方の?! 義理の方の『お義母様』ってこと!?
とりあえず、自死からの捧げ物展開は回避出来たけど、今度は何か違う方向でまずいことになっちゃった!
ど、どうしたら良いんだ。
と、その時、僕の頭の中に声が響いてきた。
(聞こえますか……、『元・白蛇』よ……)
そ、その声はもしや神様!? 僕を天竜にしてくださった神様!?
(あなたの脳内に直接語り掛けています……)
あっ、はい、その辺は説明していただかなくてもわかります。
(結婚おめでとう、良かったね……)
神様!?
良くないでしょ!
僕の心の声、読み取ってないんですか!?
(そろそろ身を固める頃合いじゃないかなって思って、知り合いに色々声かけてたんだけど、必要なかったね……やるじゃん……)
神様!?
いや、ちょっと諦めさせようと説得出来ないかなって思って年配の女人の姿になったら僕の母親だって勘違いされちゃったんです! ってここまで説明しないとわからない感じですか、神様?!
(プークスクス。か、勘違いされちゃったの……? ウケるんだけど……)
神様!?
(ごめんって……。もう笑わないから……。では、この全知全能の私が素晴らしい案を授けようぞ……)
本当かなぁ。なんかもうちょっと疑わしいんだけど。
(あっ、いま私を疑った……? 全知全能の神である私のこと、疑った……?)
どうしてそういうところは読み取れるんですか!
(まぁ良いよ……。私、神様だから……。寛大だからさ……)
はい、神様が寛大な御心の持ち主であることは疑ってないです。そこに関しては本当に疑ってないです。
(えっ、じゃあどの点を疑ってるの……? その辺詳しく聞いて良い……?)
後にしてもらえませんかね! 素晴らしい案、早よ!
(ごめんって……。何、もう『元・白蛇』ってば反抗期……? やだ……。昔はもっと
早く! 生贄の少女がこっち見ながら何か首傾げてるので! あと僕を大きくしたのは神様ですから!
(仕方ないなぁ……。ていうかね、もう姑だと思われてるんだからさ、そんなのもう嫁いびり一択でしょう……?)
一択なんですか?!
(一択だよ……。もうそれしかないよ……。頑張っていびり倒して、「もうこんなところ嫌です!」って言わせるんだよ……。いまの子は忍耐が弱いから、すぐ音を上げるよ……)
そ、そういうものなのか……? でも、神様のおっしゃることだし。
(そう、全知全能の私だからね……。というわけで頑張って、『元・白蛇』よ……。私、帰るね……)
あ、ありがとうございます?
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