第11話 休憩中に知った世界の真実。
機嫌が直ったクロを解放するとその場で胡座を掻いた。鑑定結果でも体力が減っていた事が判明していたから空腹で夜襲に訪れたようだ。
それは私が解放した途端に可愛い鳴き声がクロのお腹から響いたからね。
「あら、可愛い」
「うぐぅ」
恥ずかしそうに顔を赤く染めるクロ。
裸は見られても平気な割に、妙な所で羞恥心があると。彼女も元々が魔物なら裸を見られても気にしないよね。それは私も同じだからね。
私は収納スキルからフェンリルの生肉とブラッド・カウの串焼きを取り出してクロに示す。
「どっちがいい?」
「ちょ。ど、どこから出した!?」
「どこからって。スキルから」
するとクロは金瞳を薄く輝かせる。
「スキルって・・・ああ、収納持ちかよ」
なるほど魔眼を使って私を鑑定中と。
偽装でも収納は表に出しているからね。
「そうね。オークから奪ったスキルだけど」
「奪った? ま、まさか」
「内緒!」
「その笑顔が恐いわ」
「そう?」
手の内は明かさない。
クロの鑑定でも、私の魔眼は隠せているようだ。やはり私の固有スキルは少し特殊らしい。
クロはバツの悪い顔で頭を乱暴に掻いた。
「ちっ。簒奪持ちとか、分が悪すぎる」
「あら? 分かったの?」
「ホワイト・ピューマから進化する魔人は大概それを所持している。亜人と出ているから同胞と思ったのにとんでもない化物が居やがった」
クロは私が知らない情報を持っていそうね。
草原でLv五〇〇まで成長しているのだから私よりも詳しいのは仕方ないけれど。
でもね、こんな可愛い女子を相手に酷い言い草だと思う。
「化物とか酷いね。貴女だって魔人なのに」
「そこまで見えているのかよ」
「偽装持ちの時点でそんな気がしただけ」
「カマまでかけてきやがった」
カマかけではなくて本当に見えているけど。
私は睨み付けるクロへと改めて問いかける。
「で、どっちがいい?」
「焼いた奴。生はそこまで好きじゃねーから」
「そ。それじゃあ、これをあげる」
私は木皿ごとクロに差し上げた。
クロは奪うように木皿を地面に置く。
そのまま犬食いでガツガツと食べ出した。
「猫なのに犬食いって」
「上品に食うのは性に合わないだけだ」
「人の姿を採ったなら最低限は覚えないと危険よ? 魔人は恐れられているって聞いたし」
「構うもんか。恐れたければ、恐れればいい」
「それはごもっとも、なんだけどね」
それなら亜人に偽装する意味が分からない。
私は犬食いの所作はともかく会話が成立している事について気になった事を問うてみる。
「クロってさ」
「なんだよ」
「元人間?」
「・・・」
犬食いが止まった。
何を聞きたいのかって睨んでる?
「無言は同意と捉えるよ」
「ちっ。だからどうした」
お陰で機嫌が急降下したね。
「性別は?」
「女だよ。前も今も同じだが」
クロはそう言って犬食いを再開した。
前も今も同じ、か。シロもそんな感じだ。
一五才で亡くなって、一瞬は五才かと思ったら一五才になったから。あの変化だけは不可解だけど、私の前世の年齢も進化と同時に反映された時点で何かあるよね。
次はシロとのやりとりで聞こえた名前を問うてみる。
「アンって名前に心当たりは?」
「ぶっ。な、なんでそれを」
ビンゴ! なので畳みかけるように、
「メアリーって名前は?」
問うたら混乱したように叫んだ。
「なんで知っている!?」
私がオークを倒す前に亡くなった女性が彼女と。ということは、この世界は魔物に殺された人間は魔物に生まれ直す可能性があると?
そうなるとローブの女も生まれ直している可能性があるね。どんな魔物か分からないけど。
私はテントを開けて、
「この子から聞いたから」
「こ、この子?」
シロの正体を明かしてあげた。
「この子がメアリーよ」
「!?」
これにはびっくり仰天だろうか。
口から肉の食いかけがこぼれ落ちたから。
私も驚いたけどね。オークに犯されて死んだ子がどんな経緯で黒猫族にまで進化したのか。
単純に私と同じで死に物狂いだったとしか思えない。気がついたら死にかけの魔物だった。
最初は訳も分からず本能に身を委ねた。
いつの間にか草原で魔人になっていた。
なんとか偽装を生やして亜人とした。
それでも街に向かうにはスキルが足りないから猫の姿で草原を駆け回ったとかね。
「今は、シロって名前かよ」
「事の経緯、教えてくれる?」
「し、仕方ない。入るぞ?」
クロは渋々とテントに入りシロを膝に乗せて頭を撫で始める。
私もテントに入って事情を聞いた。
死亡前の事情を聞くと驚きしかないけど。
(こ、ここって、迷宮の中なのぉ!? だから草原の終わりが無かったの? この二人は探索者として迷宮に潜って死亡したと。生まれは迷宮外にある帝国と、やはり異世界だったかぁ)
ホワイト・ピューマの事も探索者として知っていたと。白猫族になるのは知らなかったぽいけどね。クロも黒猫族になっているけども。
それと、ローブ女。シェリーという名の女が二人をオークの元に遣わす原因だったという。
「大量に女性探索者が行方不明になったから調査依頼を入れてきた。自分が狙われたくないって理由で低位の探索者に手当たり次第ね。本当は行きたくなかったが、実家を脅しの材料に」
「されて、仕方なく調査に向かったと?」
「結局、オークに捕まって犯されて殺された」
あれが諸悪の根源だったのね。
その後、私の想像通りに転生進化したと。
隠す理由はシェリーに一矢報いるためと。
「偽装理由はメアリーが私のために買ってくれたマナポーションを取り返すためだ。私はあれを取り返すために」
魔人である事を隠して亜人とした。
普段は草原に隠れて奴を待っていた。
可能なら襲ってでも取り返すつもりと。
クロも元々は魔法使いらしい。
それを聞いた私は苦笑しつつ、どうしたものかと思案する。
(それってあの薬瓶? 回収したような?)
私は収納スキルから薬瓶を取り出した。
「それって、これ?」
「!? な、なんで!?」
ああ、目的の物はこれかぁ。
クロの驚きは相当なものだわ。
私は三本の薬瓶をクロに手渡す。
苦笑したまま事情を明かした。
「そのシェリーって女なら私が殺ったわ。魔力の糸で首を突いて瞬殺的な。遺体は燃やしたから、今頃は迷宮の土に還っていると思う」
「殺った? あの極悪非道な魔法使いを?」
「あの子も魔法使いだったのね」
得てして私が仇討ちしたも同然になったと。
「中身は今頃、何処かで魔物になっているんじゃない」
「ああ、あれも魔物落ちしたのか」
「魔物落ち?」
「迷宮で上位の魔物に殺された者は魂を迷宮に囚われるんだ。俺やメアリーのようにな」
「な、なるほどね」
というか、私は迷宮関係ないからね!
異世界で死んで迷宮に囚われているだけで。
ホント、どんな経緯でこうなったんだろう。
そこだけは不可解だ。
「低位の場合は何故か解放されるがな。この迷宮は唐突に不可解な事案が巻き起こる生きた迷宮だから何が起きても不思議ではないが・・・」
「生きた迷宮」
まるで生物みたいね。
外から見た事ないからピンともこないけど。
それからしばらくの間、重い空気がテント内に拡がる。シロを撫でつつ思案しているクロ。
未だに目覚めないシロ。魔石を舐める私。
私はその際に気になる事を問うた。
「ところで迷宮からは出られないの?」
「出られないことは・・・ない。従来の魔物なら不可能だが魔人となったなら別だ。それでも」
「それでも?」
「最低ボスを一体倒す。その条件が満たさない限り外に出る事は許されない。それは迷宮が出来たあと初めて外に出た魔人が語った言葉だ」
ボスを倒す、か。
(私が倒した大蜘蛛はボスだったのかな?)
それは流石に分からないけども。
その話の中で気になった存在が居た。
私は興味深げに問いかけた。
「その魔人は?」
「討伐されたよ」
「討伐?」
「魔物の常識で人を狩り、喰らえばそうなる」
「ああ、そういうことか」
私は人は狩っても喰らってないけどね。
不味そうだから喰らう気にもなれないし。
とはいえそれが、魔人を恐れるに足る事実ならシロが悪い魔人と言った理由も分かるかも。
クロが亜人と偽る理由も同じかもしれない。
ともあれ、今は聞きたい事が山積みだが、
「ん? どちら様?」
シロが目覚めてきょとんとしたので、この話は後回しとなった。クロは感極まったのか涙を流してシロに抱きつく。
「メアリー!」
「ふぇ? な、なんで、その名を?」
急に百合百合しい空気になったが、私は微笑みながらシロに正体を教えた。
「この子、アンだって」
再度、きょとんとなって涙が流れた。
私は空気を読んでテントの外に出た。
「アン? え? アンなの?」
「う、うん」
「見違えたね。おっぱいも縮んだね」
反応するのそこ!?
外に居た私もツッコミを入れていたわ。
「というかシロも縮んでいるけどね」
「ふぇ? あ、え? 育ってる!?」
「縮んでるのに育ってるってどうなの?」
「さ、さっきまで寸胴だったから」
「あー、魔物特有の急成長と」
「そうなのかな?」
中が百合百合しいから空気がピンク色だわ。
私も百合の気があったけど独り身には辛い。
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