第10話 休憩していたら猫が増えた。

 シロが眠る前にオークの魔石を舐めさせた。


「これは?」

「ちょっとした成長促進」

「はぁ?」


 舐めさせた理由は今のLvと身体の大きさだと私の旅に同伴するのは難しいと思った。

 なのであえて成長を促す事にした。

 あとは魔物肉も必要なので一緒に与えようと思った。


「ん! 甘い!」

「でしょ? 全部あげるから舐めていいよ」

「ん!」

「反応は身体に引っ張られているのかしら?」

「ふぉ?」

「オーク串焼きもあげる。全部食べていいよ」

「!!」


 現にLvは増えども身体は仔猫のままだ。

 一応、肩車で連れて行くのも有りだと思う。


(でも、都度服と下着を用意するには銀鉄袋の残量を考慮すると足りない気がするのよね?)


 私の成長はこれで止まると思うけどこの子は仔猫。成体に育つまでの間に何度作り替えるか分からない。それなら私と同じように仔猫から成体へと一気に育てた方がマシと思ったのだ。


(幼女は幼女で可愛いけど大蜘蛛に出くわさない限り糸を得るのは難しいのよね。それこそ芋虫型の魔物が居るならその糸を利用するのに)


 無いもの強請り。叶わないなら叶わないで対応出来る範囲で対応するに限る。

 魔石は有り余るほど有るのだ。大魔石だけは何処で舐めようか悩みどころだけどね。

 シロが魔石と串焼きを食べ終えると眠気に襲われたのか前のめりに倒れた。私はシロを咄嗟に抱き上げ、テントの中へと寝かせた。


「成長するか否か。無事に成体になってくれるといいけど」


 テントから出た私は竈の火を維持しつつ外で眠る準備を行った。


(夜行性だから眠る必要はないけど休みたいものね。火があるとどんな魔物でも寄ってこないから仮眠しつつ維持していきましょうか)


 夜の草原は、この場所を除き真っ暗だ。

 星空こそあるが何処か偽物ぽく思える。

 時折、魔物の眼光も見えるが、


「私に警戒してか近寄ってこないわね。寝込みを襲おうにも周囲の魔力糸に気づいて?」


 魔力糸に気づいているようには見えない?

 機を伺って襲おうとしている風にも見える。


「魔物に火は有効ではないと。動物だけと」


 私も魔物だったけどその辺の知識は疎いのよね。森の中だから火を使う者は居なかったし。


「だとするなら保険として周囲に与えた魔力糸が有効と。なら気にせず仮眠しようかしら?」


 仮眠していても魔力糸の揺らぎが私を目覚めさせてくれるから。害意のある盗賊共は自動迎撃でやられていたけどね。ここらの魔物が人族共と同じなんて思わない方がいいだろうけど。

 テントではシロの身体が白く光っていた。


「あ、身体の成長が始まった?」


 背丈が伸び、骨格が女性ぽく変化する。

 胸は少々薄いが、それ相応の体型になった。

 身長は私より少し低い。顔立ちは凜々しく見るからに格好いい系の美少女である。

 上は七五、推定Aカップ。下は八八。


「お尻は大きくタワシはないと。やっぱりこの世界の標準はそれなのね。私よりも髪が伸びたからリボンでも作って結んであげないとね」


 というか私の髪が短かったのは前世の影響が出ているのかしら? 耳の見えるショートヘアだったから今の髪型になったと?

 髪が伸びないのなら獣人族で出入りした方が無難かもね。隠せる場所が多いとも限らないし。後は魔人を隠す方が最優先かもしれない。


「シロは驚くでしょうね。目覚めたら成体になっていたから。前世の容姿とも異なるけれど」


 シロの前世、メアリーなる女性は巨乳で長い金髪縦ロールだった。逆に顔立ちは温厚そうなどこかの令嬢を思わせる風貌だった。

 とはいえ私が見たのは恐怖に歪んだ表情だったのであくまで想像の範疇なんだけどね。


「いや、前世とも言い難い変化か。ここは一体、何処なんだろう。私は一体、何処に迷い込んだのか? 異世界? 元世界? 元世界はないか。明らかに中世〇ーロッパな感じだしね」


 各自の風貌とか格好とか。

 ローブ女の服装もドレスっぽい見た目だ。

 下にパンツを穿かない文化圏なのも異世界だからだろう。


「猫吸いの禁断症状が出たらシロにお願いしよう。くすぐったいとか言いそうだけど」


 自力で解決出来るならそうしたいが、以前みたいな状況に陥ったら目も当てられないしね。


「そうそう。今のうちにスキルの整理もしておこうかしら」


 私は仮眠前に増えたスキルの統合を行った。


 ────────────────────

 名前:コネコ 性別:女 年齢:二〇

 種族:白猫族(魔人)

 Lv:五〇〇

 経験値:〇〇一〇/五〇〇〇

 体力:五〇〇〇/五〇〇〇

 魔力:五〇〇〇/五〇〇〇

 器用:A 運気:A 知力:S 精神:A

 スキル:疾走/S 木登り/A 穴掘り/A

     範囲警戒/S 収納/S 統合/S

     解放/E 武術/E 隠形/A

     威圧/F 魔力糸/C 魔力視/C

     属性魔法/D 隠蔽/E 偽装/B

 固有:魔眼(鑑定・石化・簒奪/S)

    獣人化(獣化・人化/S)

    体力自動回復/A 魔力自動回復/A

 簒奪:隷属魔法/F 治癒魔法/D

    光源魔法/E 索敵魔法/C

    罠看破/F 

 耐性:毒無効(○) 魔法攻撃/A

    物理攻撃/A 隷属無効 看破無効

 ────────────────────


 Lvが上がったからかランクの高い魔法スキルが自身のスキルに変化した。やはりLv制限が加わっていたと。利用頻度の低いスキルはどういう訳か選択が出来なかったけど。

 風、水、土、炎を属性魔法で統合した。

 他にも闇とか光とかもあるようだがスキルが増えたら追々統合しようと思った。

 すると私のスキル統合が終わった途端、属性魔法と隠蔽と偽装がシロに伝わった。


「シロに転送完了? なに、この文字は?」


 これには驚きどころではないよね。


 ────────────────────

 名前:シロ 性別:女 年齢:一五

 種族:白猫族(魔人/成体)

 Lv:一〇〇

 経験値:〇〇〇一/一〇〇〇

 体力:一〇〇〇/一〇〇〇

 魔力:一〇〇〇/一〇〇〇

 器用:F 運気:A 知力:C 精神:A

 スキル:威嚇/F 武術/F 属性魔法/F

     隠蔽/F 偽装/F

 固有:魔眼(鑑定/S)

    獣人化(獣化・人化/S)

    体力自動回復/A 魔力自動回復/A

 ────────────────────


 いずれ必要と思った物が伝わったのだから何かしらの意思が関与しているとしか思えない。

 その意思が何なのか私には分からないが。


「シロも無事にスタートラインに立ったと」


 偽装はそのままなのでシロが目覚めたら用意だけさせようと思った。魔人の脅威と対処を知っているようだから自分がその立場になった以上は隠すと思う。命は人も魔物も一つだから。


(でも、魔物で生きた経験が乏しいから、人への殺傷行為を咎めそうな気がする。人として生きて人として死んで目覚めたら魔人だものね)


 この子はかつてオークに犯されたのち、お腹が膨張して出血多量でショック死だったから。

 ともあれ、まだ夜の時間は長い。先々を憂うのはシロが目覚めたあとに行う事として私も仮眠するために目を閉じたのだった。



 §



 不意に魔力糸の揺れを感じた。


「はっ。ん? あらら」


 目覚めると黒猫が魔力糸に絡まっていた。

 偵察して餌持ちと気づいて夜襲してきたと。


「夜襲、ご苦労様」

「にゃー!」

「外せって? イヤよ」

「にゃー!」


 俺と同胞だろ? この糸、外せよ!

 何故か言葉が理解出来た。

 同胞ってどういう意味で言ったのやら。

 今や種族的に異なるのにね。

 テント内のシロも同じ。

 私は改めて黒猫を鑑定した。


 ────────────────────

 名前:クロ 性別:女 年齢:一八

 種族:黒猫族(魔人/成体)

 Lv:五〇〇

 経験値:〇二〇一/五〇〇〇

 体力:〇五〇〇/五〇〇〇

 魔力:五〇〇〇/五〇〇〇

 器用:F 運気:C 知力:C 精神:C

 スキル:威圧/A 隠蔽/B 偽装/A

 固有:魔眼(鑑定・透視/S)

    獣人化(獣化・人化/S)

    体力自動回復/C 魔力自動回復/C

 ────────────────────


 あら、びっくり。女だったのね。


「オスかと思った」

「にゃー!」

「下腹見たら分かるだろうって?」


 それと同胞とあったのは黒猫族だったから。


「固有で透視付きかぁ。鑑定持ちだから気づいて近寄ってきたのね。それと獣化時は言葉が喋れないと」

「にゃー!」

「悪いかって? 全然」


 他の種族がどのような者か分かったから。

 私は喋る事が可能だけどクロは違うから。

 とはいえ、今のままだと会話が成立しないので、私は妖艶な笑みを浮かべつつ提案した。


「人化したら解いてあげる」

「にゃ」


 クロは仕方ないと言って、身体は絡まったままだが、長い黒髪の奇麗な女の子に人化した。

 切れ長の金瞳が印象的で鼻も高い。黒い眉毛は細く、口元は機嫌が悪いのか歪んでいた。

 肌は白く胸とお尻も大きかった。

 一見すると日本人にも見えなく無いが金瞳と肌色が異なるので別人種だと分かる。


「これでいいか!」


 割とハスキーな声音ね。


「そうね。ちょっと失礼して」

「お、おい! 何処に手を!」

「弾力が私よりいいね」

「こ、このぉ!」


 機嫌が更に悪くなった。

 私は仕方なく顎の下を撫でた。


「ゴロゴロ」

「こういうところは猫なのね」

「な、何をやらせ・・・ゴロゴロ」


 続けて耳の間を撫でていく。

 クロの機嫌は撫でられる間に落ち着いた。




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