第9話 休憩していたら冷汗掻いた。

 不可思議な事が起きた。

 私の隣に居たはずの金猫が、裸の幼女に変化したのだ。むしろ進化の方が正しいかしら?

 経緯は不明だがフェンリルの魔石を介して私との魔力的な繋がりが出来たのは確かだった。


「むにゃむにゃ」

「口元が可愛い」

「んん」

「ふふっ。娘が出来たみたい」


 これは私が魔人となった事で起きた事案なのか分からない。一つ言える事は金猫ではなく白猫なのよね。この子が願ったのか、または私の知らない要因が重なったのか、不可解過ぎる。

 一応、この子を鑑定すると、


 ────────────────────

 名前:シロ 性別:女 年齢:五

 種族:白猫族(魔人/仔猫)

 Lv:二〇    経験値:〇〇一/二〇〇

 体力:二〇〇/二〇〇

 魔力:二〇〇/二〇〇

 器用:F 運気:A 知力:C 精神:A

 スキル:威嚇/F

 固有:魔眼(鑑定/S)

    獣人化(獣化・人化/S)

    体力自動回復/A 魔力自動回復/A

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 名付けた覚えがないのに名前が付いていた。

 固有スキルも種族特性からか石化と簒奪は無いものの鑑定が生えていた。


「鑑定があるなら、スキルを数回示せば生えてきそうね」


 知力はCとあるから理解力はあるのだろう。

 但し、言葉が話せるかどうかは不明だ。これだけはこの子が目覚めてみないと分からない。

 私は進化したシロの頭を撫でていると焦げ臭い匂いに気づく。


「あらら、肉が黒焦げじゃないの。仕方ない、そこらに居る、黒いのに差し上げましょうか」


 勿体ないが食える物でもないので、近づいてきている黒いのに向かって肉を投げてあげた。


「飛んでいる間に冷めるから大丈夫でしょ」


 気配を隠しても私からは丸見えだしね。

 狩るか狩られるかの関係であっても今くらいは休戦してもいいと思う。

 黒猫は落ちてきた肉に気づき食らいついた。


「ガツガツ」


 外側はほぼ炭だが、中は無事だと思う。串から抜く時にうっすらと肉汁が出ていたからね。


「一時的な、お隣同士。それで許してくれると助かるのだけど?」


 寝なくても良いが今は休みたい気分だから。

 黒猫は満足したのか私の元から離れていった。一応、言葉を解してくれているようだ。


(そういえばオスだったっけ?)


 発情期と被ると身の危険がありそうだ。

 私は残りの牛串を焼きつつ、食事の五本だけを残して、五〇本を収納スキルに片付けた。

 少々冷めてしまうが猫舌だから仕方ない。


「うまっ。シロにあげる時にも味わったけど。冗談抜きでうまいね」


 コップに水を注ぎつつ残りの肉も平らげる。

 食後は竈の火だけを残してシロを私の膝に乗せフェンリルの毛皮で覆ってあげた。

 寒くはないが裸のままだと可哀想だから。

 それからしばらくして、


「んぁ?」


 私が頭を撫でているとシロが目覚めた。

 きょとんとキョロキョロと周囲を見回す。


「え?」

「ん?」


 私は撫でたまま首を傾げた。

 声は出せている。


「ここは?」


 これは自分が猫だった事を忘れているのだろうか? 私と同じように首を傾げていた。


「広すぎる草原?」

「そ、草原?」


 何だろう? 大混乱って感じがする。

 幼子なのに中身が違うような。


「見たまんまの大草原」

「大草原?」

「で、貴女はシロ」

「私は・・・え? シロ?」

「うん。鑑定したら出てきたし」

「鑑定・・・え?」


 本当に混乱しているようね。

 なので改めてシロを鑑定すると、


 ────────────────────

 名前:シロ 性別:女 年齢:一五

 ────────────────────


 年齢が飛躍的に育っていた。

 身体は子供のまま。精神だけが育っていた。


(一体、何が起きたのやら?)


 変化が起きたのは、私との繋がりが出来てから。瀕死の仔猫と繋がって、急激に育った。

 私は気になってスキル欄を覗いてみた。


 ────────────────────

 スキル:威嚇/F 武術/F

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 何故か武術スキルが生えていた。

 元々は剣術と体術、統合して武術とした。


(これは確かオークに孕ませられた女の子から簒奪したスキルだったはず。それがなんで?)


 私は混乱するシロに簡単な質問を行う。


「メアリーって名前には覚えがある?」

「!?」

「オークに犯されてぽっこりだった?」

「何故それを?」


 マジで? つまり死に際のスキルには元の持ち主の魂の欠片がこびりつくって事にもなる?

 魔物が相手なら、そういう事はないけれど。


(そうなると、安易に死に際の人族からスキルを奪うべきではないね。何らかの形で魔物の肉体に魂の欠片を与えてしまうから・・・)


 何故そうなったのか分からない。

 金毛の仔猫も死に際だったから、カッチリ当てはまっただけなのかもしれないが。

 ともあれ、考えても仕方ない話より、今はこの子の処遇を考えなければならないようだ。


「貴女は一度死んでいるって気づいてる?」

「え、ええ。アンの死体のあと大量の遺体を」

「そうね。見てから事切れたね」

「み、見ていた、ので?」

「見ていたっていうか、私もその時は魔物だったから、人族がどうなろうが関係無かったし」

「は? ま、魔物? 獣人族では?」

「今は魔人よ。オークも私が食ったし」

「食った? オークを食った? 食った?」

「貴女も魔物から魔人になったけど?」

「へ? 魔人? え、身体が小さい?」


 これは混乱が混乱を招きそうだ。

 瀕死から目覚めてみたら幼女だった。

 証人となるべき人物が元魔物だった。

 元魔物だから漁夫の利でオークを食った。

 あの時は弱肉強食の世界で生き残るための戦略だったし奇麗事だけでは片付かないのよね。

 魔物には魔物の世界の掟があるようだから。


「お肉あげるから、ゆっくり考えなさいな」

「お肉・・・これは?」

「ブラッド・カウの肉」

「きょ、凶暴な魔物!?」

「これはブラッド・カウの魔石。濃厚な味ね」

「ま、魔石を食べてる?」


 黒猫みたいに焦げ肉を獲りに来たりね。

 フェンリルみたいにお膳立てしたら勝手に食べたりね。私が育った森の中なら似たようなせこい魔物なんて沢山居たからね。人の常識で認識しないで欲しいよね。私も元は人間だけど。


「だから言ったでしょ。元魔物の魔人だって」

「魔人。良い魔人も居るのですね」

「悪い魔人が居るみたいな言い方ね」

「居るみたいというか居るのですが?」

「そう。これゴブリンの魔石。美味しいよ?」

「ゴブリンの魔石・・・キュウリ味?」

「そうね。キュウリの風味よね。やっぱり」

「ま、魔石に味ってあったんだ」

「魔物や魔人しか味わえないと思うよ?」

「・・・」


 というか魔人というだけで危険視されると。

 悪い魔人が多くて良い魔人は居ないか。

 それよりも人の価値観で良い悪いが決められているだろうから、純粋に私も悪い魔人入りしてそうだわ。既に数人、反撃で殺しているし。

 私はシロが食事を行う間に近くの草原を土魔法で耕して大穴を開けた。表面をコンクリートのように固めて、水魔法で大量の水を張った。


「近場に大きな石はないかな? あ、あった」


 大きな石を地面に置いて炎魔法で熱した。

 真っ黒になると風魔法で浮かせて水の中に落とした。その瞬間、大量の水蒸気が発生し、


「ブクブクと泡だったねぇ」


 簡易的なお風呂が完成した。

 石と煤を水魔法で取り出して準備万端だ。


「程よい温度になったかな?」


 今はタオルを持ってないから、お風呂から上がったら風魔法で乾燥させるしかないけど。

 私は食後のシロが興味深げに見ている前で裸になり、かけ湯をしたのち、お風呂に入った。


(ふぅ〜。生き返るぅ。一度、死んでるけど)


 尻尾が濡れてしまうが仕方ない。

 あとで念入りに乾かさないと。

 するとシロが毛皮を脱いで隣に立った。


「あ、あの。私も?」

「軽く、お湯をかけてね」

「はい!」


 よく見ると奇麗な顔立ちよね。

 身体は見るからに寸胴だけど。


(この子の服も作らないとね)


 裸のままだと流石にあれだし。

 胸が育つまではミスリルパンツでいいね。

 上着は黒い毛皮のワンピースでいいかな。

 育ったら無意味になりそうだから、オークの魔石でも舐めさせてから作った方がいいかな?


(私の時と違って育つかは分からないけど)


 お湯に浸かって幸せそうな顔をするのは万国共通っと。泳がないから、育ちは良いようだ。

 幼女なのに敬語を使っていたりするしね。


(あ、ようやくLvアップしたかしら?)


 経験値が増えたお陰でLv五〇〇にまで上がった。例の黒猫と同類となったけど仕方ない。


(偽装は今まで通り変更なしでいいね)


 下手に示すと面倒が舞い込むし。

 魔人と気づかれると本当に危ないらしいし。

 それと、


(シロもLv四〇に? 私の重複した経験値が流れているのかしら。ゴブリンだけで経験値が増えるとは言い難いものね)


 前世のLvは三五だから、私の苦労はって嘆きそうよね。気づいていないから後が大変だ。


「温くなってきたから上がるよ」

「あ、はい」

「身体を乾かすからこっち来て」

「はい」


 風魔法で念入りに乾燥させた私は、ブラを着けてパンツを穿いた。上着とズボンも着た。


「シロは毛皮だけ着たらいいわ」

「は、裸のまま?」

「朝になったら服を作るわね」

「は、はい」




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