第12話 休憩中に知った転生の真実。

 大変、百合百合しい二人の魔人をテントに残した私は、消えかけていた竈の火を再び燃焼させた。火の番は不要と思ったけど、


「魔物様の御一行のお出ましと」


 クロを解放した時に周囲の魔力糸を全て取っ払ったから改めて威圧する必要が出たのよね。

 この迷宮は探索者に優しくない場所らしい。

 どうも獲物が暗がりで寝入ったと思い込んで囲まれてしまったらしい。


「鑑定っと!」


 周囲に居るのは夜行性の魔物。暗闇に溶け込む類いの黒猫と灰猫が主だった。それこそ猫天国と言っても差し支えないが、私としては白猫と金猫が欲しかった。黒猫はテントに居るし。

 猫達はのそりのそりと狩りの様相で近づく。

 獣人の探索者と思い込んでか知らないが、


「人化した姿のままだと舐められそうね」


 私は咄嗟に衣類を収納スキルに放り込む。

 裸になると同時に獣化を認識した。

 体毛に覆われ目に見える形で獣に変わる。


(目の位置がかなり高い? あ、テント以上になってる。人の姿でLvアップすると獣化した時の大きさが変わるのね。覚えておこう・・・)


 下手に獣化しないように、という意味で。

 巨大獣ほど討伐依頼が入る率が高いから。


(脳や臓器の大きさが変えられなくなった?)


 だから身体の方が大きくなったのかも。

 猫達はビクッと立ち止まり、大きく育った私の姿を見て怯えた。凄い酷いよね、その反応。

 するとクロが訝しげにテントから出てきた。


「一体なに・・・が!?」


 テントが暗くなったから何事と思ったのだろう。私に気づいて、下顎を地面に落とした。

 ギャグの表現を素でやってしまうとはね。


(クロってば、末恐ろしい子!)


 隣にはきょとんとしたシロも居た。


「おっきい猫さんだぁ!」


 その猫さん、私です。

 仔猫から一変、巨大猫になってしまった。

 周囲で怯えていた猫達は私の視線が外れた瞬間に血相を変えて逃げ出した。猫天国終了か。

 私は惜しい気持ちを胸に秘め、


「威圧のつもりが怯えさせたわ」


 大猫の姿のまま溜息を吐いた。

 下顎を元に戻したクロは私の声に気づく。


「その声、ま、まさか?」

「そのまさか」

「じゅ、獣化して、喋れたのか?」


 私は人化を認識し元の姿に戻る。

 身体の大きさが縮み体毛が減っていく。

 クロはともかくシロは呆然だった。


「今のところ、私だけだと思うけどね」


 私は裸のまま同じく裸のクロを見つめる。


「今のところ?」


 クロからオウム返しをされたので呆然のシロに目を向けた。シロの頭を優しく撫でて、収納スキルから下着と上着を取り出した。取っ払うのは一瞬でも身に付けるのは手動なのね。

 パンツを穿いてブラを着け、


「この子も同じだと思う」


 興味深げに見つめる二人の前で、ズボンと上着を着た。銀色のブラとパンツに興味津々?


「メアリーが、か?」「シロも?」

「まだ獣化していないから分からないけど」

「なるほど」


 クロはともかくシロの尻尾を見ると何処か楽しげだった。感情が尻尾に表れるのは同じと。

 私はシロへと気になった事を質問する。


「ところで気持ちの整理は出来た?」

「はい。魔人になってしまった以上はどうしようもありませんから。アン、クロも同じ立場ですし。私だけくよくよしても仕方ありません」


 顔色を見ると清々しい感じがした。

 それこそ楽しむような、そんな雰囲気だ。


「潔いのね」

「前向きだってよく言われます」

「バカの一つ覚えだけどな」

「クロ、それはひどいよ!」


 それを聞き、私は楽しげに微笑んだ。

 だが、今後はどうするのか気になったので、


「それでどうする?」

「どう、とは?」

「このまま私に付いてくるか、二人だけで何処かに隠れるという手もある。魔人だからバレたら最後追われる事は確定しているでしょうし」


 あえて今後の目的を問うてみた。

 魔力的な繋がりはあっても所詮は他人だ。

 私のような異世界人が相手だと、色々と不都合も生じるだろう。常識も魔物と大差ないし。

 クロは合点がいったのか考えを口にする。


「ああ、そのことか。それなら付いていくさ」

「それってシロに対してかしら?」

「いや、アンタにだ。俺の目的も無くなったからな。その責任はアンタが取らないと意味がないだろう? 逃げてとんずらするなら追うぞ」


 ああ、先ほどの沈黙はこれを考えていたと。

 シロも同じ考えなのか、頷くだけだった。

 私は素直に諦めて同行を許可した。


「そう。それなら付いて来たらいいわ」

「魔人としての人生も楽しめそうだ」

「やったぁ!」


 するとクロが逆に私へと問うてくる。


「ところでアンタの目標とかあるのか?」


 私は一瞬きょとんとするも、先ほど聞いた条件を思い出して口にする。


「私はボスを倒して外に出るかな? 私ってさ元々この世界の人族ではないからね。迷宮を彷徨くのもいいけど、迷宮の外も見たいから」


 大蜘蛛なら条件は満たしているかもだけど。

 私の返答を聞いた二人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。


「「え?」」


 これはどういう「え?」なの?

 すると二人は反対を向いて話し合った。


「初めて聞いたぞ。迷宮内への迷い人とか?」

「私も初めて聞いた。そんな事もあるんだね」

「それで済むのはシロらしいが」

「でもでも、これは別の意味で凄いよ!」

「まぁそうだが。ああ、だから喋るのか・・・」

「魔人としても異例中の異例だろうね?」

「大きいもんな。色々と」

「うん! おっぱいとかお尻とか!」


 迷い人? それはどういう意味だろう?

 私はきょとんとしたまま二人に問う。


「そ、その迷い人って何?」


 問われた二人は困惑しつつも説明を始めた。


「稀にな、世界の外側から記憶を持って訪れる赤子が居たんだ。それを総称して〈迷い人〉と名付けられた。それが数百年前から続くこの世界の常識だ」

「赤子で生まれて、だいたい三才になってから未知なる言葉を発するの。過去に数人だけ居てね。今や世界の標準語で体系化したんだよ」

「なるほど、私の同類が過去に居たのね?」


 だから日本語のまま通用すると。

 私の場合は赤子に宿る前に迷宮へと吸い込まれて魔物になったと。赤子よりも手っ取り早く大人になれたからいいが、死ぬかと思ったわ。


「魔物として生を受けて、魔人になったのはアンタが初めてだろうがな?」

「うんうん。初めてだと思う」

「それは嬉しいような、嬉しくないような?」

「まぁ魔人になったなら、討伐さえされなければ寿命は無いと思った方がいいぞ。ハイエルフやエルダードワーフと同等の者もいるしな!」


 寿命が無いということは・・・今の容姿から変化しないってことかぁ。ま、人外だものね。

 というか先ほどから思っていたけど、


「そ、その口ぶりだと会った事が有るの?」


 魔人に詳しいのは不可解だったのよね。

 自身が魔人だってこともそうだろうけど。

 するとバツの悪い顔でクロは口走った。


「有ると言えば有る」


 何かあったのかしら?

 その返答はシロが引き継いだ。


「より正確に言うと城の地下に監禁されているよ。私達は過去にそこで魔人から話を聞いたからね。捕まって牢に入っている時の話だけど」


 この二人って何気に悪童だったの?


「あれはメアリーがパーティーで粗相して」

「そうそう私が・・・違うでしょ。陛下の前で暴れた誰かさんが喧嘩を売った皇太子を殴って」

「悪かったって。メアリーが皇太子の見てはならない場所を直視して不敬になったと」


 なんだ。お仕置きという名の牢屋入りか。

 この二人、貴族か何かの子女だったのね。


「だってぇ、大事なモノが無かったもん!」

「ああ、皇太子が女と知った話だったな?」


 これは聞き捨てならない言葉だったけど。


「で、実家は見事に下まで転落したと」

「揃ってね。侯爵から騎士爵にドーンと」

「それはメアリーの実家だけだろ。ウチは公爵から男爵に下がっただけだ」

「同じだよぉ!」


 上位も上位の貴族子女って。

 それが転落して家を追い出されて。

 平民として探索者になったと。


「何気に波瀾万丈な人生ね」


 そう思って口にしたら、


「「そうでもない」」


 揃って首を横に振った。


「どういうこと?」

「皇太子は迷宮追放刑だ。過去に悪事を働いていたからな。それを俺が陛下の前で暴露した」

「それでも実権は残っているから、召遣いの手を使って、あれこれしてきたのだけどね?」

「そ、その話し振りだと妙に心当たりが?」


 あるのよね。あれこれしてきたって点で。

 所持金に白金貨があった事もそうだけど。

 元皇太子なら持っていても不思議ではない。

 平民風情が持つ貨幣ではないからね、あれ。

 その返答は苦笑するクロが示してくれた。


「アンタが滅した極悪非道な魔法使いだ!」

「やっぱりかぁ」


 私は空を見上げながら額に右手を置いた。

 シロは何の事か分からないからか、クロから耳打ちで聞かされていた。耳は頭の上よ?

 人と同じ感覚で行っても聞こえないよ。

 それはともかく、


「つまり、あの場には手駒共も共に居た?」

「大勢、居たなら、そうだろうな」

「それなら、この剣は?」

「お? これは近衛の剣だな。だとするなら遂に護衛含めて全滅したか?」

「全滅! なら迷宮街も平穏になったね!」


 だから、理由が無くなったから責任っと。




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