第7話 目が覚めたら攻撃されてた。
目が覚めた。私が外に放置した盗賊共は首の無い亡骸と化していた。周囲に血液を撒き散らし臓物が垂れ流された状態でバラバラだった。
外は夕暮れ時、血臭が周囲に満ちるが、これは仕方ない事だった。
私は食事中のフェンリルと眼が合った。
「・・・」
「・・・」
眼が合ったがスルーされた。
食事くらい静かにさせろとでも言うような不可思議な反応だ。私も邪魔するつもりはない。
私は再度テント内に戻り、昼間の内に作っておいたオーク肉の串焼きを収納スキルから取り出してテント内で頂いた。
「冷めてても、うまぁ!」
人を喰らう魔物、焼き肉を喰らう魔人の差。
人肉は焼いても無駄に臭いだけだろうから手出しはしたくないね。これがオークとかイノシシなら有りだけど。人肉を食べている割に美味なのだから不思議としか思えないけれど。
食事を終えると人骨が地面に転がっていた。
割と奇麗に食べるのだなと感心した。
(腸も全て食ってる? 意外と食えるの?)
そんなフェンリル達は人肉を食べ終えるとそのまま遠方に逃げていった。
「やっぱり、滅多にありつけない肉だから?」
所詮、人は魔物にとっての餌でしかないと。
それでも、狩るか狩られるかのやりとりが行われていそうな気もするけどね。いつぞや見た女性達のように魔物目当てで森に侵入したり。
「それでオークに狩られて苗床になっていれば世話ないけど。魔物に人の常識が通じると思うなかれよね。元の世界はともかく私もこの世界の常識には疎いから通じるとは思えないけど」
私は森で生まれて、狩りをして。
魔人として、進化しただけの存在だ。
この世界の事を知るのは先々でいいだろう。
草原を点々と移動しながら何処かしらで、のんびり過ごすのもいいだろう。
「急ぎの旅って訳でもないしね」
私は血臭を風魔法で拡散させて周囲を水魔法で洗い流した。
「とはいえこれは見飽きるよね。娯楽が無いから仕方ないけど。いざ、狩りをしようにも獲物が居ないし」
そんな中、範囲警戒に何かが引っかかる。
「ん? 森から何か出て来る? 五つの点?」
危険視するほどのものではない。
一瞬、ゴブリン共を想像したが違うようだ。
私はテントを収納スキルに片付けたのち、釜を砕いて地中に埋めた。草原に寝そべって隠形スキル全開で草の間に隠れた。
すると森から出て来たのは、
「狩った狩った」
「すっげぇ疲れたぁ」
「お風呂入りたい」
「オークが重い」
「はいはい。頑張って牽いてね」
五人の人族だった。
一人は大剣を持った大男。
一人は大盾を持った大男。
一人は黒いローブを着た派手な女。
一人は荷車を牽いた弱々しい男。
一人は荷車を押す軽装の女。
(あれは・・・何らかのパーティかな?)
前世の知識が無ければ直ぐに襲いかかっていただろうが、私には前世の知識があるから警戒だけして見逃した。ここでバレて敵対した日には一瞬で追われる身に変化するだけである。
とはいえ、彼等を見逃すのは命だけだ。
(面白スキルはっけーん!)
私は遠く離れるローブの女と軽装の女から面白スキルを簒奪してあげた。生き延びる上で得たスキルだろうが私にとっては獲物である。
ここまで連続すると(新)も出なくなった。
────────────────────
簒奪:隷属魔法/F 治癒魔法/F
光源魔法/F 索敵魔法/F
罠看破/F 隠蔽/F 偽装/F
耐性:隷属無効 看破無効
────────────────────
上四つはローブの女から得たスキルだ。
耐性は隷属がローブの女、看破は軽装女だ。
隷属は一種の奴隷を作る魔法だろう。
(荷車を牽く弱々しい男は奴隷だったのね)
治癒魔法は怪我を癒やす魔法だ。
(今はまだ怪我していないから使い道はないけれど)
光源魔法は暗がりでも過ごす魔法だ。
(夜目があるから不要かもね。それでも人の中に隠れる時は必要かも)
索敵魔法は範囲警戒と被るが詳細情報が得られる魔法だった。何が何処に居るか判別出来るから。鑑定と併用が出来ない範囲警戒よりは便利かもしれない。
罠看破と隠蔽と偽装は軽装女から得た。
(あの子は斥候職かな?)
罠があれば看破する。
隠蔽は罠を隠すため。
隠形と被るが部分的に隠す時に使えそうな気がした。私の尻尾とか耳とかね。
尻尾と耳を隠せば普通の人族に見えると思う。人耳は無いから髪で隠すしかないけど。
(これは毛が伸びるまで待つしかないかな?)
偽装は鑑定情報を隠すためにあるようだ。
(そうなると魔人を亜人に。Lvを一二に。経験値を人族と同様に、統合と解放と隠形、固有から下は全隠しっと!)
試しに隠してみると、
────────────────────
名前:コネコ 性別:女 年齢:二〇
種族:白猫族(亜人)
Lv:一二
体力:一二〇/一二〇
魔力:一二〇/一二〇
器用:A 運気:A 知力:S 精神:A
スキル:疾走/A 木登り/A 穴掘り/A
範囲警戒/A 収納/A 武術/F
────────────────────
若干スッキリした見た目になった。
偽装を有効化したままだと、こうなるのね。
(無効化すると結果が丸わかりだから放置で)
これで看破無効が加わるから見えないと。
(でもこれってLv制限がありそうだね? 私の鑑定だと有効無効でも見えるけど)
仮に人族域に入る場合も考慮して、このままが無難だろう。この世界で魔人がどういう扱いなのか分からないし。亜人ですら奴隷にされていそうな気もする。一度奴隷にされるとかけた本人が死ぬか解除するまでそのままらしいし。
(行ったね。あちらに街でもあるのかな?)
仮にあったとしても、亜人もとい獣人に出くわさない限り、向かう気にはなれなかった。
私も見た目だけなら獣人に当てはまるし。
私は索敵魔法を行使しながら周囲に害敵が居ない事を知る。
「これは便利な魔法だね。光源は・・・灯りを点すだけなのね。夜だけなら、テント内で照らせばいいかな。どうせ直ぐに寝るから消すけど」
§
簡単な夕食後、暗闇となった草原で、私は周囲を夜目で眺めつつ索敵を開始する。
「めぼしい魔物なーし! 何か居れば確保するんだけどな。主に抱き枕用途で」
開始はしたが草原は安全圏なのか何も居なかった。森の中ならそれなりに魔物が居たから過ごせそうではあった。仮にフェンリル以上の魔物が現れたなら、楽しめそうだと思ったけど、
「無駄なエネルギーを使うだけだしやめとこ」
本能の攻撃欲よりも怠惰を選んだ私だった。
それこそ前世の私のように、猫が居る時と仕事時は活発になるが、それ以外は怠惰だった。
「猫吸いしたい。私も猫だけど」
しまいには禁断症状まで出る始末。
私は上着とズボン、下着を脱いで裸になる。
それを収納スキルに片付けたのち横になる。
そのまま〈獣化〉を認識して瞼を瞑る。
(固有欄には出ていないけど〈獣化〉は魔人スキルでもあるのね。逆は〈人化〉かな?)
すると痛みは無いが身体が変化していく感覚に襲われた。
(なるほど。こうやって元に戻ると)
体毛の無かった部位に毛が生える。
骨格が変化して脳やら臓器が部分的に小さくなる。筋肉が移動したり、胸が縮んだりした。
「完了かな? 変化する兆し、なし?」
私は改めて自分を鑑定した。
────────────────────
固有:魔眼(鑑定・石化・簒奪/S)
獣人化(獣化・人化/S)
体力自動回復/A 魔力自動回復/A
────────────────────
無かったと思ったら今、出たのね。
スキルを使って初めて出現すると。
そして水鏡で猫の姿を映してみた。
「なに、この大きな白猫。可愛すぎるんですけど! か、身体を丸めて猫吸いしよ!」
猫吸いの禁断症状が出た結果、自分を吸った。身体が柔らかいから出来る事でもあるね。
(でも少し匂うからお風呂に入りたいかも)
濡れるのが嫌いな猫でも清潔で居たいしね。
猫の姿で入らず人の姿で入った方がいいね。
§
私は猫吸いしたまま眠ったようだ。
テントを出さず草原でそのまま寝ていた。
(ん? ツンツンと突かれる感覚がある?)
太陽は真上にあり、昼間だと分かる。
瞼を開くと、
(あら? 目立ち過ぎたかな?)
私の周囲に複数の人族達が居た。
それも血走った目で剣やら槍を向けていた。
(あらら、殺意がビンビンだ。もしかすると討伐依頼でも出たのかな?)
私は欠伸しつつ顔を洗う。
お前等など恐くないという素振りでね。
(実際に恐くないし)
その中には先ごろのローブの女も居た。
「はやく捕まえなさい! こんな珍しい魔物は絶対に売れるわ!」
これはもしや、見世物小屋に売るつもりでいるのだろうか? 申し訳ないがそれは勘弁だ。
私は相手を鑑定し、隷属魔法の使い手が居る事を知った。もしかすると、奪われたと知って他の者に依頼したのかもしれない。
(隷属無効があるから怪我させてでも捕まえると。道理でツンツンすると思ったよ。怪我はないけど体毛が少し乱れているね)
鑑定すると魔法攻撃と物理攻撃の耐性がAに上がっていた。どうも寝ている間にあれこれと攻撃を受けたらしい。これで痛みがあったならこいつらを引き裂いて殺していただろうね。
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