第3話 気がついたら美味しいにゃ。

 スライムの魔石はそれぞれで味が違った。

 色はどれも水色だったが、その特性から持ちうる毒の種類で味が変化するのではと思えた。


「果物と思う風味だにゃ。タマネギ風味だけは吐き気がしたにゃが、これは仕方ないかにゃ」


 猫だから。としか言えない反応だった。

 魔物でもネコ科はタマネギの風味がダメと。

 それぞれを鑑定するとタマネギ風味は致死毒を持つスライムだと分かった。なので今後は風味を味わう前に鑑定が必須に思えた。


「何かを吐き出す時には使えそうだけどにゃ」


 それでもスライムに遭遇しない限り得られない魔石なので意味が無いと思えた。

 スライム魔石を全て平らげた私は改めて自身を鑑定してみた。鑑定結果は経験値が増えただけでLvアップはしていなかった。


 ────────────────────

 Lv:二〇    経験値:〇八一/二〇〇

 ────────────────────


 一匹で一つだけ増えたと思えばいいかもね。

 スライムならこんなものなのかもしれない。

 上位種を狙えばそこそこ成長するだろうが、


「まだ狙うにはLvが低いにゃ」


 どうせなら、それなりのスキルを得た上で挑みたいと思った。まだ水魔法もどんなものか試していないしね。スライムが反撃で撃っていたのは見えていたが毒溶液を吐き出すだけでしか使っていなかったので使い道は限られそうだ。

 仮に相性があるなら、使えなさそうな無駄スキルにもなりそうだしね。今のところ不要品を消すとか統合するとか出来ないし、こればかりは元世界のゲームのようにはいかないらしい。


「もう少し、MMORPGを嗜んでおけば良かったにゃ。ただ、ま、こんな状態になるなんて思ってもいなかったから、仕方ないにゃね?」


 あと、語尾の「にゃ」もなんとかならないものか。猫だからでは安直過ぎると思うのよね。


(そもそもの話、魔物が人語を解す時点で異質だったわ。私って何者なんだろう?)


 ホワイト・ピューマと呼ばれるネコ科なのは分かる。ネコ科の魔物、ただそれだけだ。

 ともあれ、このままスライムを待っても仕方が無いので、次は別の種族を狙う事にした。


(次は・・・少し戻るけど大物が三体居るわね)


 それは何の種族か分からない。

 だが、やるだけやってみようと思った。

 疾走スキルを使って森を駆ける。

 木々を避け蔓を器用に使って森を進む。

 気づけば器用と運気等がランクで出ていた。


 ────────────────────

 器用:F 運気:C 知力:S 精神:A

 ────────────────────


 運気は高いのか低いのか分からない。

 器用は蔓を使って飛び跳ねたからだろう。

 知力は記憶持ち、人格ありだからかも。

 精神はそこそこ大人だからかもね。

 悟りを開くとSになるのかもしれないが。

 大物の近くに寄るとそこには人が二人居た。


(初めての人間だわ! この世界にも人が存在していたのね。魔物だけかと思った。でも?)


 見るからに瀕死状態だった。

 性別は女性。裸でお腹がぽっこりだった。

 大物は豚っぽい容姿の人型の魔物。


 ────────────────────

 名前:なし 性別:オス 年齢:五

 種族:ブラック・オーク(魔物/成体)

 Lv:一〇〇

 経験値:〇九九九/一〇〇〇

 体力:〇〇二〇/一〇〇〇

 魔力:〇三/一〇

 スキル:土魔法/S 収納/S

 耐性:魔法攻撃/S 物理攻撃/S

 ────────────────────


 それは黒い身体のオークだった。

 Lvは一〇〇だ。それも敵わない大物だ。

 範囲警戒では危険視されていない。

 おそらく更なる猛者が居たからだろう。

 これでも十分過ぎるけどね。

 女性達も鑑定すると、


 ────────────────────

 名前:メアリー 性別:女 年齢:一五

 種族:人族(成人)

 Lv:三五

 体力:〇〇一/三五〇

 魔力:〇〇三/三五〇

 器用:A 運気:F 知力:C 精神:C

 スキル:剣術/A 体術/A

 耐性:毒耐性/B

 状態:瀕死/大量出血

 ────────────────────


 経験値は見えてないが状態だけは判明した。

 もう一人も鑑定したが、こちらは死亡直後だったためか鑑定出来なかった。


(出血死寸前って感じかな。というか魔物には無くて人にある項目が出てる。知力とか人のみなのね。ということは私ってやっぱり異質?)


 するとオークは死亡女性を突然持ち上げた。

 持ち上げたのち首を囓り取って飛び散った血液をもう一人に浴びせていた。


(行動が不可解過ぎるね。魔物だから仕方ないのかもしれないけど。というか人が死に絶えていても恐くも無いし、怒りすら湧かないのね)


 結局、今の私も魔物だから仕方ないのかもしれない。女性を助ける気すら起きない。

 むしろ、死に際で勿体ないスキルがあるから貰ってあげようと思ったほどである。今は使えなくても、いつか使えそうな気がしたからね。


(人にある器用が出るって事はそれだと思う)


 それが何故現れたのか知らないけれど。

 そうして私は瀕死の女性から、剣術と体術を貰ってあげた。

 それとオークからも魔法攻撃等と土魔法と収納なる不可解なスキルも頂いたのだった。

 だが、頂いた瞬間にとんでもない事が起きた。


(周囲に女性の遺体が大量に出現した? まさか、インベントリみたいな、スキルなの?)


 改めてそれを認識すると、


 ────────────────────

 容量:〇〇/二〇    品質保持:あり

 内容:なし       重量制限:なし

 ────────────────────


 視界に容量と内容が出てきた。

 やはりそういう類いのスキルのようだ。

 数量の上限はLvが関係しているっぽいね。

 女性の遺体も九八体あったからね。

 どれも首の無い遺体だけど。


(これはこれで対処に困る代物だわ。ぽっこり女性の遺体が山盛りって埋めるにせよ燃やすにせよ腐敗が始まるのは確定じゃない)


 一方のオークは呆然としたまま周囲を見回した。獲物が外に出てきたのか不思議がってる。

 瀕死の女性もそれらを見て事切れた。

 あまりの事にショックが強かったようだ。

 精神がCとはそこまで強くないって事ね。

 私はオークが呆然としている間に水の刃をイメージしてオークの首へと飛ばしたのだった。

 何処からともなく現れた水の刃で首ちょんぱされたオークは大量の血液を噴きだしながら、ぽっこりお腹の女性の上へと倒れた。

 私は様子見していた木の枝から飛び降りて、


「これは片付けが大変だにゃ」


 倒したオークを収納スキルに片付けた後、転がる女性達の遺体処理に悩んだのだった。


(オークは餌として重宝するからいいけど人を食べたいとは思えないのよね。不味そうだし)


 そんな不味そうな人族を食べる魔物はオークのような人型の魔物やらフェンリルだけなのだろう。私が元人間ではなかったら食べていたかもね、きっと。

 私の本能では食べて良いのか微妙な感じになりつつあるけども。物量からして無理だけど。



 §



 そうして私は早速得た土魔法で大穴を開け、


(風魔法で遺体を浮かせて穴に放り込む!)


 飛び散った血液などは水魔法で洗い流した。

 ぽっこり遺体達の上から大量の土を被せた。

 そして木の枝を風魔法で削りつつ、小さい墓標として押し固めた土の上に突き刺した。


「人を弔う猫の魔物って特殊過ぎるにゃ」


 とはいえそれをせずまま放置すると、寝床に大量の魔物が押し寄せてくる事が分かるしね。

 そんなことになれば私のような仔猫は真っ先に狙われてしまうだろう。人族とはいえ肉に違いはない。そんな肉を大量に放置も出来ない。

 その結果が弔いという形を選んだ理由だ。


「というかこの世界の女性はタワシが無かったのにゃ。私も剛毛があったから羨ましいにゃ」


 過去の自分の裸体を思い出すと色々と寂しくなった。胸は平面で腰まで寸胴だったから。

 身長はそこそこあったが子供体型だった。

 そして断崖絶壁とあだ名されていたものね。


(おっぱいも大きい人が多かったわね。ぽっこりの原因はオークの繁殖が原因だと思うけど)


 弔いを済ませた私は空腹感が突然湧いたので毛皮のある大木の下へ戻り、収納スキルからオークを取り出した。そして水魔法で大量の水を生成したのち奇麗さっぱり洗浄したのだった。


「中身の血抜きも洗浄で出来たのにゃ」


 今回は大物が過ぎるので部位ごとに解体して収納スキルに片付けた。オークのブツと大腸だけは地面に大穴を開けて埋めたのだった。

 そのブツでも玉だけは媚薬になるとかで確保したけどね。何処で使うか分からないけれど。

 残りは上半身と臓物、フェンリル以上に大きい魔石だった。オークの頭は女性達の遺体と共に埋めたから持ってきていないけどね。

 食べたいとも思えないし、遺体に残る思念に食い千切られろと思いながら、埋めておいた。

 私は一応でも女だし。救う気は更々無かったが気持ち無視も出来なかったしね。


(一応、豚だから火を通したいけど贅沢は言えないよね。火魔法を得たかったけど仕方ない)


 私は魔石を舐めつつ各部位を召し上がった。

 というか血抜きすると風味が良くなったね。

 血生臭さが消えて肉の風味が味わえた。


「魔石の甘さに加えて肉の甘さもあるにゃ!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る