Fate Ⅳ 復讐 (★・・性描写あり)
第21話 打ち上げ
楽屋にメンバー三人と金美が控えていると、ライブスタッフがアキとエミを連れて部屋に入ってきた。
「なんだかすみません」
金美は申し訳なさそうに口火を切る。
「お友達と一緒に来ているんじゃね、連れてこないとさ」
ウテナは金美の心情を推し量る。
「うわぁ、奇跡みたい」
「金美、貴方、流石だわ」
アキとエミが楽屋に通され目を輝かせている。
「――ワガママ聞いてもらってごめんなさい。ありがとうございます」
礼を言う金美にギターのイズナは優しい口調で答える。
「いいの、いいの。一人じゃ寂しいもんね」
赤髪のイズナはテーブルに置かれたジッポでタバコに火をつけ、紫煙を吐いた。
ドラムの小太り気味のエドが疲労の色を見せない面持ちで訊ねてくる。
「みんな若そうだけどアンダー二十?」
「アタリでーす!」
アキは明るい口調で答えるとウテナは残念がる。
「じゃあ、お酒飲めないじゃん!」
「残念! 未成年でした!」
金美も便乗する。
アキたちのタメ口が移ったかのようだった。
金美は自身の自然な言葉の発声に微かな違和感を覚えながらも、この瞬間を楽しもうと決めた。
「なら先にみんなで記念写真撮って、会場移動したらご馳走様するよ! このあと、みんな、予定大丈夫?」
イズナの質問に三人は声を揃える。
「大丈夫でーす!」
メンバー三人と金美達三人は、自分達の携帯でお気に入りの角度から何枚も撮って生涯の宝物になったと悦に入る。
赤髪の運転するトヨタのハイエース。一行は打ち上げの会場へ移動する。
時刻は二十一時になろうとしている。
車で十五分のところに下車した一行はシャッターの降りた三階建ての建物の前に到着した。
赤髪が施錠を解くとクローズの掛かった入口が顔を出す。
入口の鍵穴のロックを解除すると真っ暗なフロアに予備電源が天井の小さな照明を灯す。
金美は意外な場所に驚きを隠せない。
「楽器屋さん?」
「足元気を付けて。打ち上げは地下のスタジオだよ」
赤髪がその場を制するように言うと、スタッフオンリーの掛かったチェーン縛りのバリケードを外して道を開けて階段の照明スイッチを入れる。
少し埃が舞っているが、未知の場所への緊張感から歯牙にも掛けない様子だ。
「なんだかアジトに潜入しているみたいだよね! 楽しみ!」
「うん、ドキドキ!」
アキとエミも興奮を抑えきれない。
案内されたのは地下二階フロアのスタジオ二部屋の内のひとつ。
完全な防音加工が壁面になされており、ドアの厚さも通常の三倍以上はあろうかという重厚な作りだ。
ドラム一式とギター、ベース、キーボード、アンプにコードが複雑に伸びる先にはマルチエフェクターの機材が散らばっている。
「足元悪くてごめんねー。楽屋でソフトドリンク一杯飲んだけどもう喉乾いているでしょ。隣のスタジオに自販機あるから買ってくるよ。炭酸・スポドリ・お茶系、どれがいい?」
エドがリクエストを聴取する態勢を取る。
三人とも炭酸を依頼するとエドが消え、イズナとウテナとで談笑し始める。
「スタジオで打ち上げなんて夢みたい!」
アキは胸に両手を当てている。
「カッコいいよね。この散らかった感じがリアルで素敵!」
エミはイズナの顔を見てホッコリしている。
「ありがとう。ライブの前の軽い打合せはここでやるんだ。あとは会場入りして音合わせでリハやる感じ」
赤髪が簡単な段取りを伝えるとウテナも付け加える。
「そうそう、俺たちの隠れ家的存在みたいな」
「へぇー。ステキ、憧れる!」
アキの羨望の眼差しが部屋全体に行き渡る。
「えーっと、アキちゃん、エミちゃん。ちょっと手伝って欲しいんだけど今大丈夫?」
奥の部屋から姿を現したエドが申し訳なさそうに手刀を切る。
「はーい!」
二人は顔を合わせてニヤリと笑うと、手を繋ぎながら隣のスタジオへ向かう。
金美はギタリストとベーシストとに挟まれて、ある種のホストクラブ状態に陥っていた。
金美は今にも顔から火が出そうだ。
「今日のライブ最高だったなー」
「最高でしたね。スゴかったです。あんなの初めて」
「皆ノリがよくて嬉しかったぜ。こっちもテンション爆上がりで青天井」
両手の人差し指を上に向けてツンツンする仕草。
ウテナは笑いながらやって見せる。
「皆さんはもうすぐメジャーデビューされるんですか? 勢いがスゴいからインディーズの域をもうすでに超えていると思うんです」
「見る目あるねぇ、金美ちゃん。もちろんメジャーは目指してるぜ。この調子で動員増やし続けられれば今年中にメジャー果たせるんじゃねーか?」
「イケるイケる! ワンマンなら動員軽く三百は見込めるからな。今一番乗りに乗っているからこのまま爆速で進めばメジャーも夢じゃないぜ!」
「スゴいですねー。サクリの皆さんなら必ずデビューできますよ。私、友達から誘われて今回初めてサクリのライブ参加したんですけど、メッチャ楽しかったです」
「前から三列目くらいを頑張って守っていたもんね。よく見えてたぜ。後半大変だったでしょ」
「最後のサクリファイスで死ぬかと思いました。ある意味命懸けでしたよ」
「ははは。みんな破茶滅茶になるから見ている分には楽しいんだけど、観客からしたら死活問題だよな」
イズナがそう言い切ると開いている扉の方からアキたちの声が飛び込んでくる。
「お待たせー!」
隣のスタジオから三人が顔を出して冷えたドリンクを持ってきた。
「はい! 金美ちゃん。どうぞ!」
エドがグラスを差し出す。
「ありがとうございます!」
金美は両手で受け取るとコカコーラ・ゼロの炭酸の泡が勢いよく弾けた。
アキもエミも自身のコーラを持っている。
イズナは近くの冷蔵庫から五百ミリリットル缶ビールを三つ取り出し、メンバー間に共有した。
「あれ? ボーカルの方は? まだいらっしゃらないんですか?」
金美が訊くと、イズナはすぐに返答する。
「あぁ、アイツならライブスタッフとミーティングしてから合流する感じで、先に行って始めてくれって言っていたんだ。多分あと一時間ちょいで来るんじゃないかな?」
「ライブ終わったのに大変なんですね」
金美は同情する。
「ホントは全員で乾杯したいところだけど、一足先に始めちゃいますかー!」
ウテナは始まる気満々である。エドもそれに続き音頭を取る。
「よっしゃー、じゃあ皆さんグラスを持ってー、ボーカルいないけどウチらで先にぃー……」
―― カンパーイ! ――
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