第61話 同業者との出会い・下
「当社では今、バッテリーを製作しています。これにはウィル・オ・ウィスプのドロップアイテムを使用しています」
星野が資料を広げて話すが……書いてある図面とか専門用語とかはさっぱり分からなかった。
ただ、ウィル・オ・ウィスプは分かる。
ウィル・オ・ウィスプは1メートルほどの稲妻を纏った光球のようなモンスターだ。
耐久力がないから簡単に倒せるが、基本的に群れで出てくる上に、高速での体当たりはかなり威力があるから厄介だ。
20体ほどに囲まれたときは結構危ない目にあわされた。
「そしてバッテリーのアップデートのためにブラックドッグのドロップアイテムが必要なのです。
一度だけ取れたもので試してみましたが、全ての性能が従来型より劇的に向上しました。ぜひこれを実用化にもちこみたい」
「ただ、俺の能力ではブラックドッグに止めを刺すのが難しいんだ」
「なので草ヶ部さん、ブラックドッグのドロップアイテムの採集をお願いしたい。
そのかわりに、彼が中層での狩りを手伝います。彼の能力は中層階の狩りでは無類の力を発揮する。きっと草ヶ部さんの負担を減らせると思います」
二人がかわるがわるに言う。
バッテリーか。スマホに自動車、パソコン、あらゆるところにバッテリーは使われているが。
「どんなのなんだ?」
「半年前に新作のスマホが出ただろ。充電一切なしで一月持つというやつ。それのバッテリーがこの会社のだ」
小津枝が言うが……その辺は全然関心がないから分からない。
なんかテレビで見たような気はするが。
今使ってるのも1年ほど前に携帯ショップですすめられるままに買った国産のモデルだ。値段とサイズが手ごろだったからこれにしたんだが。
小津枝が察してくれたように苦笑いした。
「お前な……今や金持ちなんだからもう少し物欲を持てばどうだ?」
「使えるからいいんだよ」
まあ言われてみれば充電なしで一月持つというのは普通なら考えられない高性能ではあるな。俺の機種は普通に使って二日持てば上出来だ。
それに使われているのがこいつらのバッテリーなのか。
「その新作とやらは、そんなにすごいのか?」
「聞いたところでは……革命的だ。電気を使う製品の常識を変えるレベルだろうな」
小津枝が教えてくれる。
この辺のことはよくわからんが……まあこいつが言うんなら凄いんだろう。
「聞いていただきたい、草ヶ部さん。これは我が社の利益に留まる話ではありません。
世界の自然環境の悪化への対策はもはや待ったなしです。
ですが、自棄になってトマトスープを名画にぶっかけても何も変わりはしない。
世界を変えるのは行動、革新、そして技術です。そして我々の技術がそれを切り開く」
なんか話しているうちに星野の口調が変わって声が高くなっていく
……見た目は穏やかインテリ風だが、なかなかテンションの高い人だな。
「だから、草ヶ部さん、それに小津枝さん。ぜひ協力をお願いしたい。これも地球のため、人類すべてのため、そして未来の私たちの子供たちのためだ!」
「どうする?」
一しきり演説を終えた星野と小津枝が俺を見るが。
「まあ……俺はいいんですけどね」
今のまま中層での狩りをしていてもいいんだが、役割分担をするのも悪くはない。
それになんというか……柴田もそうだが、同じ立場の奴がいるのは安心する。
直接繋がりは無くても、同じ境遇で戦っている奴の存在は精神的に力になる。
「草ヶ部がいいなら、こちらとしては特に拒否する理由はないですね」
「本当ですか?感謝します!これでもはや完成したようなものだな、阿嘉田」
小津枝が言って、星野が嬉しそうにガッツポーズする。
……この辺もあまりビジネスマンって感じではないな。後ろで阿嘉田が呆れたように小さく首を振っていた。
「ではもう少し細部を詰めて具体的にどういう風に協力体制を形成するのかを決めましょう。その後は正式に契約書をかわすという事で」
「ええ、ありがとうございます。草ヶ部さん、小津枝さん。今後とも是非よろしくお願いします」
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