第60話 同業者との出会い・上

「おお、草ヶ部。またいろいろと大変だったようだな」

「ああ、まさに」


 あの配信の数日後、小津枝に呼ばれてアカデミアに顔を出したら、小津枝が面白そうに笑いながら出迎えてくれた。


 あの配信は共有されてあちこちに出回って大量の再生数を稼ぎ出しているらしい。

 蘭城さんも申し訳なさそうにしていたが、今回のは突然燁蔵かぐらが姿を現したのが悪いというか、問題の発端だ。


 燁蔵かぐらにも多分悪気はなかったようだし、文句の持っていきどころがない。

 顔バレしてないことはせめて救いだな


「まあそれは置いておいて、今日はビジネスの話だ。いいか?」

「そう言う用事か」


 今はポーションの材料になるドロップアイテムを集めたり、小津枝の精製のための護衛をしている。 

 あの後色々と実験して、ダンジョンの中層で精製をすると圧倒的に効率がいいことが分かった。 


 これでようやく供給が安定した。

 ネットで高値での転売が出ているという話もあったが、そう言うのも解消されている。

 小津枝もようやく休暇が取れて娘さんとプチ旅行にいってきたらしい。

 

ということでアカデミアのビジネスは今の所順調だ。

 今日も社内では活気のある声が聞こえてくる。なんとなく社員も増えた気がするな。

 今日のはどういう話なんだろう。



 小津枝の先導で応接室に入った。

 殺風景な会議室と違って流石に応接室には立派なソファと大きめの木の机が置かれていて、壁には何やらよく分からないカラフルな前衛絵画がかかっている。

 

 空調で快適な温度になった部屋にはすでに先客がソファに座っていた。

 1人はメガネ姿で茶色のジャケットを着た背の高い男だ。

 30歳くらいだろうか。柔らかそうな髪を左右に分けている、インテリ風だ。


 もう一人は40歳くらいっぽい。こっちも黒のジャケットを着ている坊主頭で厳つい印象だ。。

 少し背が低いが、ジャケット越しでも鍛えあげたがっしりした体格は感じられる。

 こっちは多分俺と同業だな。


 ソファに座っていた茶色のジャケットの男が立ちあがってにこやかに笑みを浮かべて会釈をしてきた。


「初めまして、ニンジャマスター……草ヶ部さん。お会いできて光栄です。

私は星野俊介といいます。合同会社ドンナの社長を務めております。こっちは当社の採取担当、ブルーカラーの阿嘉田あかだ浩司」

「ああ、始めまして。草ヶ部です」


 握手をすると、細い体には似合わない強い力で手を握られた。

 ソファに座っている男、阿嘉田が視線を合わせて軽く頭を下げてくる。


 白地に金の稲妻のようなモチーフを描いた名刺には社名と本人の名前が書いてあった。

 会社名は全然聞いたことが無い。俺が不勉強なだけかもしれないが。


「今日は御社と協力のお願いに伺いました」

「協力?」


「今、当社は革新的なバッテリーを開発しています。その為にはダンジョンの中のドロップアイテムが必要だ。しかし当社の採取担当では必要な分を確保するのが難しい」


 回りくどい挨拶とか腹の探り合いとか、そう言うのを省いて星野が言う。

 完全に同業か。

 

「おいおい、社長。俺を無能みたいに言わないでくれ」

「ああ、すまんな、そういう意図じゃないよ」


 阿嘉田が座ったままで抗議するように言って、星野が笑って言い返す。

 険悪な感じは全くない。年も差があるし雰囲気も違うが、何とも関係がよさそうだな。


「草ヶ部さん、ブラックドッグは御存じですか?」

「ああ、何度か戦ったことがある」


 ブラックドッグは八王子ではあまり出てこないが、他のダンジョンで何度か戦ったことがある。

 20階層より下に出てくる文字通り黒い犬のようなモンスターだ。

 見た目は獣のようだが、属性としては雷撃系とでもいうのか、稲妻を操るタイプのモンスター。


 球状の雷撃を吐いてくるのと、体を稲妻に変えて高速移動してくる。

 動きが速く捉えにくいモンスターだ。稲妻状になっての体当たりはかなり速い。

 犬の形態での噛みつきや爪の攻撃も雷撃を纏っているから、一撃の攻撃力も侮れない。


 何度か戦って倒したことはあるが、耐久力が高い。

 それに不利になったら割とすぐに逃げるし、倒しにくい相手でもある。


「さすがですね。それなら話は速い。

我が社の新製品のためにブラックドッグのドロップアイテムの採集を依頼したいのです。如何でしょうか」


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