第59話 配信者の動画への出演とそのコメ欄

『こんばんわ、視聴者の皆さん。蓬田清十郎よだせいじゅうろうです。

今日は、なんと俺のチャンネルにニンジャマスターが来てくれました!!!それにセーラさんと長壁さんもです』


 蓬田なる配信者がテンション高めにドローンに向かって話す。

 年は20歳を少し過ぎたくらいだろうか。綺麗に短く整えた黒髪、黒いスーツに白いシャツと細いネクタイで、モデルのようにオシャレだ。

 ただ、体が細すぎてちょっと心配になるな。魔法使い系だろうか。


 ここは鑓水ダンジョンの2階層だ。階層が浅いから壁も淡い水色だ、

 ダンジョンウォーカーズが騒いだお陰で一時は近づきにくかったが、すっかり静かに戻った。


≪待ってた!≫

≪レアキャラ登場!≫

≪生ニンジャマスター!≫

≪ようやく見れた≫


≪セーラちゃん、可愛い!≫

≪長壁さん、こっち向いて!≫

≪いや、注目すべき相手が間違ってるだろ≫


 今日は俺も配信用のゴーグルを付けさせられている。

 画面の中にずらずらとコメントが流れていった。


「ということで、よろしくお願いいたします。俺のチャンネルに来てもらって光栄です」

「いや、こんなオッサンですまないな」

「いや、とんでもない。伝説の……えっと、ブルーカラー?にお会いできて本当に光栄です。最強の討伐者アタッカーですからね」


 蓬田君が興奮気味に話す。

 彼はあの鈴木との戦いからの帰り道で会って水を分けてくれた配信者だ。


 正直言ってかなり疲れていたから、あの時の水を貰えたのは気分的に助かった。

 そんな縁で蘭城さん経由でお誘いが掛かったので、今回だけは出ることにした。


「早速ですが……覆面を取ってほしいんですけど……視聴者も期待してます」


 蓬田君が言うが。


「それは、さすがに勘弁してくれ」


 どうやら弟たちの状況を見る限り、どうやら配信なるものを見ているのは一部のそう言うのが好きな奴というだけじゃないらしい。


 顔を知られるのは流石に面倒だ。

 ダンテとの戦いでは画像が微妙に粗かったせいか、リアルではそこまで面が割れてないらしい。


 幸い、今はダンジョンの外で気付かれたことはない。

 SNSはともかくとしてせめてリアルではこの状態でいたい。


「この下は普通のオッサンだぞ。見ても面白くない」


≪ええー残念≫

≪棟梁殿は顔を見せぬものだ≫

≪だけど顔が分からない方がニンジャっぽくていいぞ≫

≪そうかもしれんが、やはり見たい≫

≪髭のイケオジを期待している≫

 

 蓬田君が残念そうな表情を浮かべて少し考え込んだ。


「じゃあ……できればちょっと腕の披露をしてもらえませんか?その後は少し戦闘について語っていただくということで」

「まあそれならいいよ」


 正直言ってプライベートを妙に探られたりするよりはこっちのほうがいい。

 どうせ戦闘の場面はレッドドラゴンとの戦いで撮られてるから今更隠しても意味がないしな。


「もう少し下りてモンスターとでも戦うか?」

「いえ、俺と模擬戦をしてほしいんです。俺は今の所12階層が限界なので、ニンジャマスターには到底及びませんが」


「君のはどんな能力なんだ?」

「俺は火炎系の魔法使いです」


 蓬田君が言う。やはり魔法使いか。

 雰囲気的に武器を振り回すタイプじゃないのはなんとなく分かった。


『ふむ、ならば妾にやらせよ』

 

 燁蔵かぐらの声が聞こえた。

 まあ火炎系の魔法使いならこっちも火炎系で迎え撃つ方が分かりやすいかもな。 


「それならいいよ。じゃあやろうか」


 魔法使いなら距離が必要だろう。少し下がって燁蔵かぐらを鞘から抜く。

 一振りすると赤い火の粉が飛び散った。蓬田君が緊張したように表情を引き締める。


「失礼が無いように……殺す気でやります」

「ああ、遠慮なく来ていい」


 火炎系と言ってもいくら何でもレッドドラゴンのブレスよりは弱いだろう。

 蓬田君が何かつぶやいて両手を上にあげる。


 空中に炎が浮かんだ。

 見ているうちに渦を巻くように焔が波打って小さな火球が大きく膨らんでいく。

 

 20秒ほどして1メートルを超えるくらいまで火球が成長した。

 火球からこっちまで熱風が吹き付けてくる。タメは長いが威力はかなりありそうだな


「止められるか?」

『今更そんなことを申すのか?妾を誰だと思っておるのじゃ、お主は』


 燁蔵かぐらの素っ気ない声が聞こえた。

 まあ大丈夫か。


「行きます!」


 蓬田君が言って両手を振り下ろす。

 空気を震わせて巨大な火球が飛んでくるが、目の前で焔が吹き上がって火球を受け止めた。


 炎が一瞬拮抗するが、そのまま燁蔵かぐらの焔の壁が火球を呑み込む。

 何事も無かったように焔が消えて、僅かな熱気だけが残された。


 

「俺の全力が……」


 蓬田君が呆れたように言う

 燁蔵かぐらが止めてくれたが、予想より高火力だ。当たれば恐らく15階層のモンスターくらいなら倒せるだろうな……とはいえ今のはタメが長すぎるが。


 ただ、今のは完全に威力に振った攻撃っぽい。

 それに、火力に特化してあれだけの焔を作ることができるなら、威力を絞って発動までの時間を短くするとかも出来る気がする。


「いや、大した威力だと思うよ」

「本当ですか?」


 蓬田君が嬉しそうに言う


「ああ。その操作能力なら……」

『そうじゃな、お主は見どころがあるぞ』


 不意に声が聞こえて、蓬田が驚いたように俺の方を見た。



 燁蔵かぐらの声だが……今の声はいつもの俺にだけ聞こえる声じゃない。

 いつの間にか、燁蔵かぐらが俺の横に立っていた。カラフルな平安風の着物を着て扇を持ったいつもの姿だ。


 蓬田君が燁蔵かぐらを見て首をかしげた。 

 何が起きてるか分からないって顔だが……俺も状況がつかめない。なぜこいつがいきなり姿を現しているのか。

 

『童よ、妾は1000年以上生きておるゆえにの、妾に及ばぬのは致し方ないと心得よ』


 燁蔵かぐらが勿体ぶるように言って手にした扇で蓬田を指す。


『しかし、中々の資質を秘めておるようじゃ。修練すればまだ強くなれよう。

慢心せず、そのまま精進いたせ。よいな』


 蓬田君があっけにとられたって感じで頷いた。

 燁蔵かぐらが満足げにほほ笑んで姿を消すが……とんでもないものを見られた気がする。


≪なんだ、いまの平安美女≫

≪CGじゃないよな?≫

≪生配信でそんなの無理だろ≫

≪まさか、刀の精とか……そんなの?≫

≪剣娘?≫

≪いや、刀剣女子だろ≫


≪なに?性能いい武器の上に、中の人が女の子ってこと?≫

≪ていうことは他の刀もそうなのか≫


≪うらやましいぞニンジャマスター≫

≪セーラちゃんと長壁さんだけじゃないのかよ≫

≪クソが、完全にハーレムじゃねぇか≫


 バイザーをコメントが猛スピードで流れていく。

 ……なんか益々目立った気がする……ていうか、なぜ出てきた。



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