世界の変化

第58話 妹弟との食事

 お待たせしました、新章開始……ちょっと仕事が忙しかったり、他の書籍化作業とかしてただけで、エタってはおりませんぞ。

 お待たせして申し訳ない。引き続き応援お願いいたします。



「兄さん、こっち」

「遅刻だぜ、兄ちゃん」


 6時の待ち合わせに5分遅れて着いたら、奥のテーブルに座っていたスーツ姿の二人が手を上げて俺を呼んだ。

 妹の深鶴みつると弟のかいだ。

 会うのは随分久しぶりだな。


 此処は六本木のとある地下にあるイタリアンレストランだ。昔からある店で、味がいいのに手頃な値段が良い。

 まだ両親が健在だったころに連れて行ってもらった、俺達にとって思い出の場所だ。


 昔は煉瓦剥き出しの地下の倉庫のような店内な上に、壁が落書きだらけで雑然とした雰囲気だったが、改装したのかすっかり綺麗になった。

 赤と白のギンガムチェックのテーブルクロスだけが昔と同じだ

 

「元気そうだな」

「おかげさまでね」


 かいが痩せた顔に笑みを浮かべて言う。

 前より顔色が良くなった気がするな。


「仕事はどうだ?」


 蘭城さんの父親の伝手で蘭城財閥の系列企業に転職したのは知っているんだが、その後は俺も色々とあり過ぎて連絡が取れてなかった。

 少し落ち着いたらしく、二人からご馳走したいと言われて今日は此処に来ている。


「楽しくやってるわ。おかげさまで」


 深鶴が満面の笑みで言う。

 痩せ型の櫂に対して深鶴は背が低くてぽっちゃりタイプだ。こっちはこっちで、もう少し健康的になるべきじゃないかと思ったりもする。


「お待たせしました」


 俺が席に着いてすぐに、黒いベスト姿のウェイターさんがテーブルに皿とワインを満たしたガラスのデキャンタを並べてくれた。

 もうすでに注文はしていたらしい。


 大皿に盛られたパスタや紙のように薄く焼かれた四角いピザ、グリーンサラダ、それにパンを入れた籠が並べられた。

 料理も昔と変わってない。


「じゃあ、乾杯」

「久しぶりの再会に」

「兄さんの無事に」



 一しきり食べてほとんどの皿は空っぽになった。

 今も変わらない懐かしい味だが、借金がある時とは違って感じるな。


 深鶴は相変わらずの食欲で半分くらいを一人で食べたしワインも良く飲んだ。とはいえ顔色一つ変わってないが。

 櫂は食べな過ぎて、こっちは別の意味で心配になる。


「仕事はどうだ?」

「さっきも言ってたわよ、兄さん。楽しくやらせてもらってるわ」

「俺も」


 二人が言う。

 親が借金を押し付けられて亡くなり、その後は年が離れた長男だからというのと、当時は二人とも未成年だったから俺が働いてきたが……まさかこんな風になるとは数か月前は予想もしてなかった。

 

 無事借金もなくなり、こいつら二人の新しい人生も開けそうだ。

 とりあえず親代わりの役割は果たせてよかった。


「そういえば、動画見たけど……兄さん、本当に凄いんだね」 


 深鶴がしみじみという。

 言われてみると、俺がダンジョンで戦っている様子をこの二人は知らない。

 以前は動画を撮るなんてしてなかったからな


「それにあんな危険なことをしてるなんて思わなかった」


 櫂が言うが……レッドドラゴンと戦ってたり、他の配信者と戦っているのは特殊な状況だとは思う。


「いつもはあんなのじゃないから安心してくれ」

「今はどうしてるの?」

「あのアカデミアのポーション、兄ちゃんが関わってるんだろ?」

「危険なことをしてない?」


 二人が心配そうに聞いてくる。


 危険が無いとは言わないが、戦うモンスターは以前に比べて楽になった。

 以前はレッドドラゴンとかの深層でのモンスターとの戦闘がメインだったが、今は主に中層でのドロップアイテム集めが殆どだ。


 楽になっているのはいいが、感覚が鈍るのも不味いからたまに自主的に深層で戦っている。蟒姫ボゥチーにも慣れないといけない。

 深層に行かなくてよくなったのに、そうなったらなったで自分で行っているんだから、色々と変わるもんだ。


 とはいえこの平穏は嵐の前の静けさかもしれない。

 鈴木の後ろにいる連中が俺達のことをそのままにはしてくれないだろう。


 冬夜商事の薬は試験販売をしていたがその後は販売延期になって、音沙汰がない。

 ただ、これで何もなくなるなんて能天気なことは考えられない

 また仕掛けられた時のことを考えると、あまり鈍っているわけにはいかない。


「どうしたの?」

「いや、少し考え事を。安心してくれ、そんな危険なことはしてない」


 主に戦うモンスターのランクは下がったが、危険は増した気もする。

 とはいえ、そんなことをこの二人に言うことは出来ない。


「でもね……朝起きたら兄さんが死んでるんじゃないか、とか、借金取りが来るんじゃないかと思ってた」

「今は幸せだよ……そんな風な心配をしなくていいからさ」

「これから兄さん孝行させてもらうからね」


 二人が顔を見合わせて言う。

 ……この二人のためにも死ねないな。



 メインは牛肉のカツだった。薄く延ばされた肉にこんがりキツネ色のさっくりした衣がよく合っている。

 添えられたソースは、ニンニクの香りが強くて辛みがある。あっさりしたカツによく合っていた。


 これで十分に満腹になったが、追い打ちをかけるようにティラミスとコーヒーが出てきた。

 かなりの量だったな……深鶴も満足そうだ


「そういえば、実は困ったこともあってさ」


 コーヒーを飲みながら櫂が俺を方を意味ありげに見ながら言う。


「なんだ?」

「私達、名前が草ヶ部でしょ。しかもあのセーラさんを助けたのとダンテとのバトルの動画がバズった直後に転職してきたわけじゃない」

「職場で、もしかして関係あるってめっちゃ聞かれたよ」


「そうなのか」


 ダンジョンの動画って言うのは結構広い範囲で見られているらしいな。

 一部の物好きが見ているだけかと思っていたが。

 

「さすがに兄ちゃんだとかなんて言えないからさ、知らぬ存ぜぬで通したけど」

「でも本当はアピールしたかった。あれは私の兄さんなんだよって、すごいでしょって」

「俺も」


 ちょっと自慢げな口調で二人が言う。

 俺の知らないところでどういう噂が立っているのか……SNSはたまに見るが、それ以外の情報は余り入ってこない。

 聞きたいような気もするし、聞きたくないような気もする。


「できればそれは遠慮してくれ」

「分かってるよ」

「昔からそうだよね、兄さん」


「中学でなにかの賞を取ってステージの上にあげられた時も、なんか嫌そうだったもんね」

「あれは面白かった」


 二人が顔を見合わせて笑う。

 そういえばそんなこともあった気がする……しかし、よくそんなこと覚えてるもんだ。

 

 まあ二人とも楽しそうなのは、本当に嬉しいことだ。

 自分のしたことの意義を感じる瞬間だな。



 プロットは出来てきますので、書け次第上げていく感じになります。 

 よろしくお願いいたします


 


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