第56話 もう一通の手紙と新しい剣・下

「これは、凄いですね」

「でもなんとなく……悪者っぽいです、師匠」


 長壁さんが言う……まあ確かにそうかもな。

 ただ、かなりの攻撃力だ。これは頼れるな。


 とはいえ、使って分かったんだが、これはかなり消耗が激しい。

 俺がまだ不慣れというのもあるとは思うが……おいそれと振り回せるもんじゃなさそうだ。


 ダンジョンでドロップアイテムを集めるために長丁場を戦うことを考えると、消耗が激しいのはかなりのマイナス要因だ。

 探索用というより、それこそ強力なリュドミラみたいなのと戦うことがあった場合の決戦用って感じだな。

 

『どうだ、我が力は』

「よくわかったよ。強いな」

 

 自信ありげな口調で蟒姫ボゥチーが言う。

 ただ、これほどの能力を持つ剣があの鈴木を主と仰いだのはよくわからん。

 勿論、使い手の強さと剣が主を択ぶ基準は関係ないのは知ってはいるが。


『あの男は正直言って剣技も未熟であったし、人格的にも問題はあった。だがあの野心は気に入っていたからな、至らぬ部分も含め助けになってやろうと思っていた』

「なるほどな」


 あれを野心と言っていいのかは分らんが……ただ、俺には見えなかったものが鈴木にもあったんだろう。

 蟒姫ボゥチーは見た目はかなり厳つい感じではあったが……案外面倒見がいいのかもしれない。


『それに、まがりなりにも一度は我が身を捧げた者。

たとえ不出来な主とは言え、わが忠誠を誓ったものをあのように処する輩は許してはおかん』


 蟒姫ボゥチーが強い口調で言った。

 鈴木の主が誰だか知らんが、誰かを軽く扱ったり舐めた真似をすると報いがあるな、と思う。

 能力を考えれば、かなり貴重な武器のはずだ。


 もし鈴木を俺が殺していたり、あいつらが鈴木を尻尾斬りしなかったら……こいつは俺に従わなかっただろうしな。

 ……気を付けよう。



 ガーゴイルを倒して辺りが静かになった。

 とりあえず周りに敵はいなさそうだ。


「ところで、この辺でいいか?」

「ああ」


 小津枝が言う。

 あんなのが出てくるようだと、これより下に降りるのは危ない。


 それに前に火竜の火種を加工するとき並みに時間がかかるなら、かなりの長期戦になる。

 ここでも決して油断はできない。

 

「とりあえずここで試してみるよ」


 そう言って小津枝が背負っていたバックパックからいくつかのドロップアイテムを取り出す。

 赤黒い火蜥蜴サラマンダーのドロップアイテムと灰白色のヘルハウンドのドロップアイテム。

 今の主力商品の素材だ。


「じゃあ、何かあったら止めてくれ」

「分かった」


 小津枝が床にドロップアイテムを置いて何かを呟くと、前と同じように小津枝の周りに魔法陣のような文様が浮かぶ。

 地面に置いたドロップアイテムはふわりと浮き上がって脈動するように光った。

 始まったか


 蟒姫ボゥチーは鞘に納めて、天目を抜く。

 周囲は敵の気配はないが、当然のごとく警戒を怠っていい場所じゃない。


「じゃあ蘭城さん、長壁さん、警戒を頼む。結構長丁場だぞ」

「了解です、師匠!」

「わかりましたわ」


 二人が言ってそれぞれ武器を構えた。



「終わったぞ」


 小津枝が言ったのは3時間ほどしてからだった。

 半日以上はかかるつもりで食事まで準備してきたんだが……ずいぶん早いな。


「え?」

「もう終わりですか?」


 水を飲んでいた蘭城さんが言う。

 どうやら今までの三分の一くらいの時間で終わったっぽい……となると単純に作業効率が3倍くらいまで上がるわけか。


「随分速かったな」

「俺も驚いているよ」


 小津枝が言う。


「深い場所であればいいってことか?」

「それもあるし、力の使い方のようなものの事も書いてあったからそうしてみたんだが、効果はあるようだ」

 

 小津枝は出来た薬を見ながら満足げだ。

 

「俺も成長できたってことだな。それと……これでようやく休みが取れそうだ」


 小津枝がなんかしみじみした口調で言った。

 まあここ数か月一番忙しかったのはこいつかもしれない。


 人手が増えないと根本的な解決にはならないし、この階層までくるとなれば護衛の手間はかかるが、それでもスピードが上がるのはいいことだ。

 敵が強いならこっちも強くないと押しつぶされてしまう。


「改めて……こいつらなんなんだろうな」


 小津枝が手紙を見ながら言う。

 この手紙が、鈴木の主の敵対勢力とやらからのものなんだろうか。


 誰だか知らないが、こいつらも明らかにダンジョンの事を知っている奴らっぽい。

 ……闇の勢力とか秘密結社のような代物が二つも三つもあるのは妙な気分になるが。


「まあ、なんでもいいか。これなら俺達もそう簡単に潰されはしない」


 小津枝が言う。

 この手紙の主が厳密な意味で味方と言えるかは分からないが……少なくとも敵ではなさそうだ。


 それにこういう勢力がいるのは少し安心する。

 今回のは明らかに助け船っぽいし、こういう風に接触してくる以上、いずれ会える日も来るだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る