第55話 もう一通の手紙と新しい剣・上

 一時間遅れた。お待たせしました



「と、こういうことになった」


 翌日、八王子で起きたことを蘭城さんや長壁さん、それと小津枝に説明した。


 敵に対して噛みつくのは大事だ。反撃してこない相手は延々とボコられる。

 ただ、その結果相手がこっちを恐れて一歩下がるか、逆上して襲ってくるかはある種の賭けだ。


 今回の相手、というか鈴木の上の奴らがどう出てくるかは分からない。

 ただ、しっぽ斬りで人一人をあっさり始末するような連中とは思わなかった。


「闇の勢力……なんてものが本当にいるなんてな」


 小津枝が何となく他人事のように言った。

 今一つ現実感が湧かないのは俺も同じではある。


「蘭城さんと長壁さん。これからどうする?」


 配信者として活動している彼女たちの稽古をつける、というなら今の環境も気楽でいい。

 ただ、このままだと彼女たちを巻き添えにしかねない。

 すでにトップ討伐者アタッカークラスの能力はあるし、これ以上の稽古をつける必要もない気もするが。


「私の恩返しは終わっていない……どころか、草ヶ部様のお世話になってばかりです。

我が家の家訓は恩は百倍返し。それが終わるまでお傍におりますわ」

「じゃあ、師匠の背中を守れるように強くなります!」


 ある意味予想通りというか……二人がきっぱりと言った。

 


「ところで、草ヶ部。一つ頼みがある」

「ああ、なんだ?」


「俺をダンジョンの奥に連れて行って欲しい」


 小津枝が言うが……


「観光でもしたいのか?」

「いや、そんなわけはない」


 そう言って小津枝が一枚の紙を机の上に置く。

 何かと思ったが、折り目のついたざらついた手触りの和紙に流れるような文字で何かが書きつけられていた。

 

「これ……もしかして、例の手紙か?」

「ああ」


 小津枝が頷く。

 まさかまた届くとは思わなかった。見た目は書き文字が古いだけで何の変哲もないな。


「差出人は?」

「例によって不明だが……ダンジョンの奥でなら俺の能力も高まるらしいんだ。試してみたい」

「そういうことなら行ってみるか」


 このままだと需要に追い付かなくて品薄が解消されないか、小津枝が能力の使い過ぎで過労で倒れるかのどっちかになりそうだ。

 上手くいくかは分からないが試す価値はあるな。


 ついでに蟒姫ボゥチー……というか黯蔭ヘイインの試し斬りもしてみよう。

 実戦で使うのならどんな性能なのかきちんと把握しておかないといけない。

 性能が高いとしても、使いこなせないと宝の持ち腐れになってしまう。



 八王子はこの間の帰り道で目撃されてかなりの騒ぎになってしまった。

 なんでも益々人が増えているらしい。

 八王子はポーションの原料であるヘルハウンドと火蜥蜴サラマンダーの主要の狩場だったんだが、他で狩場を探すべきなんだろうか。


 仕方ないので淵野辺ダンジョンまで来た。

 今日も住宅地の真ん中のダンジョンの周りは人気が無い。遠くから車の音とかは聞こえてくるんだが……ゴーストタウンのようだ。

 

「じゃあここにしようか」

「師匠、では我々が先導を」

「私たちの成長を見てください」


「分かった。じゃあ頼む。俺が殿をするから小津枝は隊列の中央だ」


 とりあえず淵野辺はあまり潜ったことが無い上に、今回は完全に戦力外の小津枝がいる。

 慎重に進むべきだろう。

 八王子と近いからなのか、出てくるモンスターも割と似通っているが、見覚えが無い奴もいるな。


「先行するね!セーラちゃん」

「任せますわ。危なくなったらすぐ下がって」


「了解!」


 勢いよく駆けだした長壁さんの前にナイフのように鋭い氷の塊が出来て次々と飛んだ。

 出てくるモンスターは長壁さんの氷で次々と倒されていく。


 危なくなったら長壁さんが蘭城さんの盾の後ろに下がって、体勢を立て直す。

 大柄なモンスター相手でも盾が当たり負けをしない。

 連携もばっちりで隙が無い……殆ど俺はやることが無いぞ。


「なんか……ますます強くなったな」

 

「ありがとうございます!」

「やったね、セーラちゃん」

「草ヶ部様のおかげですわ」


 二人が嬉しそうにハイタッチしていうが……俺、何かしたか?という感じだ

 もはや二人なら15階層は問題にもならないっぽい……20階層クリアも時間の問題だな。



 17階層まで来たところで八王子ではあまり見かけないモンスターが出てきた。

 蜥蜴のような顔に悪魔を思わせる角に岩を削り出したような体。背中からは蝙蝠の羽根、長い腕には大きな爪がはえている。


 ガーゴイルとでもいうんだろうか。

 ゲームとかのガーゴイルはあの羽根で空中を飛ぶが、こいつは図体がデカいのと天井がさほど高くないので少しホバリングする程度だ。

 

 他のダンジョンで何度か戦ったことがあるが、デカいし硬いしで結構難儀した。

 焔や風の斬撃だと削りにくかった覚えがある。ちょうどいいか。


「じゃあ、こいつは俺がやるよ……というか試し切りをさせてくれ」

「はい、師匠!」


 そう言って二人が下がる。

 長い剣を抜くと刀身から黒い霧のような魔力が吹き上がった。


「じゃあ、蟒姫ボゥチー、頼むぞ」

『新たな使い手よ、我は使う価値があると証明しよう』


 剣から吹き出している黒いオーラが蛇のように伸びる。 

 その先端に巨大な口が開いてガーゴイルの頭を丸ごと飲み込んだ……硬いものがこすれ合う音が響く。

 上半身を失ったガーゴイル地響きを立てて倒れた。


『では次だ』


 頭の中でイメージすると、俺の足元の影が伸びてもう一体のガーゴイルの影に繋がった。

 ガーゴイルの足元に口が開いてそのままガーゴイルを飲み込む


 下半身が食いちぎられたガーゴイルがそのままドロップアイテムに変わる……初見で鈴木にこれを使われてたらヤバかったぞ。

 というか、攻撃力だけなら4本の中で最強だな。



 続きは明日に更新します。

 4章の最後まではあと2話のはず。


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